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学園祭4

「白石。この気配、どこからしているか探ることはできるか?」

「うん。ちょっと待ってね」


私はそれに頷き、気配を探るため、目を閉じて集中する。


目を閉じると、聴覚がより一層研ぎ澄まされる。

あやかしの聴力は人間よりも鋭い。

そして、耳に妖力を乗せると、より一層聴こえるようになる。


校舎の方で聞こえる喧騒。

それよりももっと奥……ううん。北の方……つまり裏庭のあたりで微かだけれど、妖魔の咆哮のようなくもぐった声が聞こえた。


大体の位置を把握できたところで、瞼を開ける。


「見つけた。ここから西に50m、北に180m。つまり、裏庭の東側にいる。この気配はやっぱり十中八九妖魔だね」


私の言葉に、蓮くんは深く頷き、問う。


「お手柄だ、柚葉。丁度ここに4人いる。水瀬。水野。ぶっ続けで申し訳ないが、一緒に来てくれるか?」

「もちろんだよ!」

「ああ。言われなくても」


水野さんと水瀬くんが心強く頷いてくれたのを見た蓮くんは、「行くぞ」と言い、裏庭に向かって走り出した。


◇◇◇


私たちが裏庭に到着するとそこは、裏庭の木々が黒い影のようなもので侵食され、異様な冷気が立ち込めていた。

黒い影の中心には、大きな妖魔が十匹ほどいる。

しかし、その妖魔たちはやってきた私たちに見向きもしない。


ただただ、全ての妖魔が何かを必死で探すように地面を掘っていた。


「これは……なんというか、異様だね」


それを見た蓮くんがみんなを代表してそう呟く。



そこに、


「白石さん、みんな」


校舎の方から烏丸くんが走ってきた。


そう、私は裏庭まで走りながら念話で烏丸くんに裏庭に集合するよう伝えていたのだ。


烏丸くんは、妖魔の方を見ると若干顔をひきつらせた。


「えっと……どういう状況?」

「さあ?」


烏丸くんの問いに答えるみんなの声が揃った。


しばしみんなで首を傾げながら固まった後、「そろそろやる?」と満面の笑みを浮かべながら蓮くんが言ったので、一応頷く。

「やる?」の「や」が「殺」に聞こえたのは私だけだろうか。


私は、呆れたようにため息をつきながら一歩踏み出し、蓮くんの隣に立つ。


「騒ぎになる前にやるわよ」


そう言って、私はスッと目を細め、体内の妖力を練り上げた。


「水瀬くんと水野さんは、念のため周りに遮音と認識阻害の結界をお願い! 学園祭を楽しんでるみんなに気づかれたら大変だから」

「任せて。こんな不気味な連中に、僕たちの学園祭を邪魔させるわけにはいかないからね」

「うん。白石さんたちも気をつけて……!」


水瀬くんが頼もしく頷き、水野さんと共に素早く配置について結界の準備に入った。


「烏丸くんは私たちのサポートをしてほしい。あいつら、ただ地面を掘ってるだけじゃない……何かを探して焦ってるみたいだから、背後を取られないように注意して」

「了解。白石さんの隙は僕が埋めるよ」


そう言って烏丸くんは腰から短剣を抜き放ち、刃に静かに妖気を走らせる。


そういえば烏丸くんが戦っているところを見るのは初めてだ。

烏丸くんは物理攻撃タイプなんだなと普段の静かな様子とのギャップに、ふふっと笑ってしまう。


「烏丸は物理タイプなのか。じゃあ、俺も久しぶりに物理で行こっと」


蓮くんはそう楽しそうに言い、空から刀を取り出す。


一体どこにしまっていたのか。

私は後で聞いてみようと心に誓った。


「よし、行くぞ!」


そう蓮くんが叫ぶと同時に、彼の身体が弾かれたように前方へ跳んだ。


抜刀された一閃が青白い光の軌跡を描き、一番手前にいた妖魔の巨体を一刀両断する。


「ギャァッ!?」


そこで初めて私たちの存在に気づいたのか、残りの妖魔が一斉にギロリとこちらを振り向いた。その瞳は血のように赤く濁り、正気を失っているかのようだ。


「さあ、お前たちの目的を聞かせてもらおうか! まあ、聞く前に殺しちゃうかもだけど」


不敵に笑う蓮くんの横に並び立ち、私も狐火の蒼い炎を両手に宿らせて一気に踏み出した。


両手に宿した蒼い狐火を、向かってくる二匹の妖魔の足元へ叩きつける。

爆ぜた炎が激しい冷気を吹き飛ばし、妖魔たちの動きを瞬時に止めた。


「烏丸くん、今!」

「任せて!」


すかさず滑り込んだ烏丸くんが、妖気に包まれた短剣で目にも留まらぬ一閃を繰り出す。

素早い二段突きの刃が妖魔の核を的確に穿ち、二匹は黒い霧となって消滅した。


速い……! 普段はおとなしいのに、戦闘になるとこんなに隙がないなんて!


烏丸くんの思い切りの良い手腕に感心している余裕もなく、残り七匹の妖魔が奇妙な声を上げて襲いかかってくる。


「ハッ、無駄だ!」


蓮くんの振るう刀が青白い光の軌跡を描くたび、重厚な斬撃の音が裏庭に響き渡る。

後ろでは水瀬くんと水野さんが張ってくれた結界が「パツン!」と妖魔の衝撃波を弾き返し、校舎側へ音も気配も漏らさない完璧な防衛壁となって作動していた。

頼もしい仲間のサポートを受けながら、私たちは一気に残りの妖魔を討伐していく。


――そして、最後の1匹を蓮くんの刀が貫き、静寂が戻ったときのことだった。


「……ふぅ。これで全部かな」


刀を納めながら蓮くんが息を吐く。

しかし、私は妖魔たちが直前まで必死に掘り返していた地面の穴に、違和感を覚えて足を止めた。


「ねえ神楽くん、みんな……見て、これ」


土が掘り起こされた穴の底。

そこには、この前までは無かった、泥に塗れた不気味な『黒い小箱』が、歪な妖力を放ちながらポツンと転がっていた。


私の声に、校舎側に張った結界を維持してくれていた水瀬くんと水野さんも私の方に来る。


「……妖魔が探していたのは、これか?」


烏丸くんが眉をひそめて覗き込みながら言った。


私たちも烏丸くんにならって小箱を覗き込んだ。


「これ、なんだろう……」


――妖魔と小箱に気を取られていた私たちは、裏庭に面する校舎からこちらを見る人影に気づくことはなかった。

不穏な予感……。

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