学園祭3
「お待たせいたしました〜! ご注文はお揃いでしょうか?」
給仕をしているクラスメイトが、注文した食べ物を運んでくれた。
お礼を言い、「いただきます!」と、鈴ちゃんと一緒に手を合わせる。
小豆とバターがのった食パンを頬張ると、口の中に程よい甘さが広がった。
「うーん、美味しい!」
思わず舌鼓を打ってしまう。
目の前で揚げパンを頬張る鈴ちゃんも美味しそうに顔を綻ばせている。
――パンを食べ終わり、あと飲み物を飲むだけとなった頃。
「そういえば、これから柚葉ちゃんは警備の仕事だよね?」
鈴ちゃんが珈琲を優雅に傾けながら問う。
こういうところで妙な育ちの良さを感じる。
「うん。れ……神楽くんと」
「いいんだよ?別に『蓮くん』って言っても。2人の時は名前で呼びあってるって知ってるんだから」
鈴ちゃんは、ニヤニヤと揶揄うような口調で冷やかす。
「な……バレてたの?!」
「逆にバレてないと思ったの? 見てたらわかるよ」
そう言われ、自分の頬がだんだん熱くなっていく。
「ゆ〜ずはちゃん。私の前では『蓮くん』でいいよ? いつもそう言ってるのに呼び変えるのは大変だろうし」
「う……」
私は、教室の窓で茹蛸のように真っ赤になった自分の顔を見て、余計に自分の頬が赤く染まっていくのを感じた。
どこでも揶揄う口調の鈴ちゃんを恨めしげに見ながら、一応「ありがと……」と言っておく。
照れ隠しに飲んだメロンソーダは、さっきよりもほんのり甘い味がした。
◇◇◇
――ハイカラ喫茶を出た後、警備までまだ少し時間があったため、気になった教室に次々と入っていったら、いつの間にか警備交代の8分前になっていた。
「あっ、そろそろ行かないと」
「そっか〜。頑張ってね!」
少し残念そうに鈴ちゃんから励ましの言葉を受ける。
それを聞いて、友達を置いていくことへの罪悪感が芽生えた。
「ごめ……」
そう言いかけた時。
鈴ちゃんは、残念そうな表情を一転させ、ニヤリと笑いながら私の耳元に顔を寄せた。
「でも、神楽くんと一緒なんだもんね! 頑張って。色々と!」
「ちょっと鈴ちゃん! 色々って何! 色々って」
私は、顔を熱くしながらそう反論するが、鈴ちゃんはどこ吹く風でニコニコと笑いながら、「私もそろそろ交代だから〜」といい、手を振って1年B組の教室に向かっていった。
機嫌が良さそうなその背中を見つめながら思わず廊下にしゃがみ込んでしまう。
「色々って……」
そう呟きながら、ふと時計を見上げると12時26分――つまり警備の交代の6分前になっているのが目に入り、私は慌てて中央広場に向かって走ったのだった。
◇◇◇
私が中央広場につくと、蓮くんは木の幹に寄りかかりながら腕を組んで待っていた。
まるで何かの絵画かのようだ。
今更だが、やっぱりイケメンは絵になるなぁ……。
そこまで考えたところで、「いかんいかん。今から警備なんだった」と、慌てて蓮くんのそばまで走った。
蓮くんの隣に行くと彼は顔をあげて「遅い」と一言。
「ごめん。でも文句は鈴ちゃんに言って」
「猫宮? なんで? っていうか顔赤いけど。熱? 大丈夫?」
蓮くんがそう言って訝しげに首を傾げながら、熱がないかを確かめるように私の額に手を置いた。
「ちょっ……!」
至近距離にある黒い瞳とサラサラの黒髪。
意識すればするほど、頬が熱くなるのを感じる。
「どんどん熱が上がっている気がするが、大丈夫か?」
「大丈夫! 熱はない、から……!」
私はそう頑張って答えながら、蓮くんから距離を取るように後退する。
「そうか……?」
蓮くんが不思議そうに首を傾げていると、
「神楽。白石さん。 一応ここ、学園の敷地内なんだよね〜。いちゃいちゃしないでくれると嬉しいなぁ」
のんびりとした声が中央広場に響き渡る。
「……!」
声のした方をバッと振り向くと、揶揄うような表情を浮かべる水瀬くんと、気まずそうに頬を赤く染めながら視線を逸らす水野さんがいた。
「ご、ごめん……!」
慌ててそう謝るが、私の頭には「み、見られてた……」という恥ずかしさでいっぱい。
そんな私を見ながら、水瀬くんはこう続ける。
「まあいいや。警備の交代だよね? 今のところは大きな変化はなし。じゃあ、頑張って!」
そう言って水瀬くんが後者の方に歩き出そうとした。その瞬間――
「っ……!」
私の肌が、ゾクッと鳥肌を立てた。
突然、空間の気温が数度下がったかのような冷気が足元から這い上がり、空気が鉛のように重くなる。
「なに……? この、嫌な気配……」
水野さんが両腕を手で包み込むようにギュッと握って言う。
蓮くんは、空を仰ぎながら言う。
「妖魔……か?」
「ああ。多分……」
水瀬くんも蓮くんにならって空を仰ぎ見る。
その空は、先ほどまで晴れていたのが嘘のように黒い雲で覆われていた。
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