特訓
「じゃあ、当日はこんな流れで」
蓮くんは、黒板を指の第二関節の裏でコンコンと叩き、そう言った。
当日の役割はこんな感じだ。
〜1日目〜
・初めの挨拶 白石・神楽 (神楽メイン)
・警備 11時00分〜12時30分 水瀬・水野
12時30分〜15時00分 神楽・白石
15時00分〜16時30分 烏丸
・終わりの挨拶 白石・神楽 (白石メイン)
〜2日目〜
・ルール説明 水瀬
・諸注意 水野
・放送 烏丸
「OK? じゃあこんな感じで本番、頑張りましょう! A組の人は1ーA、2ーA、3ーAの学級委員に学園祭で行う出し物の内容を九条先生に伝えるよう言うって感じでお願い。それじゃあ解散! お疲れ様〜!」
私の号令で、みんながぞろぞろと生徒会室を後にしていく。
最後に残った蓮くんが鍵を受け取り、カバンを肩にかける。
「柚葉、このあと時間ある?」
「え? うん、大丈夫だけど……」
「昼休みだけじゃ時間が足りないからさ。今から少し、演習場に行ってみないか?放課後でも鍵を返すついでに許可を取れば演習場を使えるはずだ」
そう言って悪戯っぽく笑う蓮くんに、私も「もちろん」と頷いた。
◇◇◇
無事に演習場を使う許可を取れた私たちは、演習場の真ん中で向き合って立っていた。
日は完璧に落ちて、窓から覗くガス灯の青白い光が蓮くんを優しく照らしている。
「とりあえず今日は実技の時みたいに戦うんじゃなくて、お互いの術を使う時の癖や間合いを把握しよう」
「そうだね」
ペアで戦う時は、完璧に相手と息を合わせなければいけない。
そのためにも相手の癖は知っておくべきだろう。
私は、蓮くんと横並びで立ち、演習場の壁に向かって狐火を放つ。
「うん。なるほど。柚葉は狐火を撃つ時、一瞬だけ無意識に視線が撃つ方向に向いちゃってるね。その後違う方向をみているようだけど、一瞬でも撃つ方向に目線が向いているとどこに撃つかバレるよ。後、せっかく無詠唱で撃っているのに、狐火を出す寸前に耳がちょっとだけ動いている。それだと、『いつ攻撃が来るか分からない』っていう無詠唱の良さが活かせないよ」
「……はい」
もしかしてこの先生はスパルタかもしれない。
そんなことを思いながら、「次は風ね」と言われたので、先ほどと同じように無詠唱で風の矢を放つ。
「こっちもだね。やっぱり視線が一瞬撃つ方向に向く。でも、耳は動いてないね。耳が動くのは狐火を放つ時だけなのかな? そこを見たいからとりあえずできる術全部使ってみて」
そう言われ、私は使える術を片っ端から試していった。
「うん。耳が動くのは狐火を放つ時だけだね。なら、これから視線と耳を意識して練習していこう。後、さっき気づいたんだけど、柚葉って息を吐きながら術を放つんだね。まあ、そこはそんなに相手にバレないでしょ。じゃあ次は俺が撃つから見てて」
そう言って蓮くんは術を発動させる。
そこで見えてきたのは、蓮くんは術を使うときに息を吸うこと、氷の術を使うときに若干左手を引いて距離を測る癖があることが分かった。それを伝えると――
「じゃあ、息を合わせて撃つ時は柚葉が息を吐くタイミング、俺が息を吸うタイミングですればいいね」
蓮くんがそう言ったところでちょうど寮の門限5分前の鐘がなった。
「帰るか」
「うん」
私たちはそれぞれ自分の鞄を取り、寮に向かって歩き出す。
「じゃあ、明日の昼休みに」
「おう遅れるなよ」
カツン、と夜の廊下に二人の足音が並んで響く。
互いの癖を知り、呼吸を合わせる――ほんの少しだけ深まった二人の絆に胸を温めながら、私たちは月明かりが照らす校舎の中を並んで歩くのだった。




