学園説明会3
地図を囲んでの担当場所の打ち合わせは、順調に進んでいく。
「人間があやかしと組むんだったら……2人ペアが二組と、単独で動くあやかしが1人だね」
私の整理に、烏丸くんが「そうなるね」と頷く。
「なら、俺と水野さんで【正門・受付ブース】を担当するよ。パンフレットと記念品を受験生に渡しつつ、何かあったら念話で情報を飛ばす」
「よし、正門は任せた」
頼もしい烏丸くんの提案に、蓮くんが満足そうに頷いた。
水瀬くんが、「俺も念話が使えるから、単独で【校舎内・各ブースの巡回】をやるよ。涼しそうだしね!」と、茶目気たっぷりにいったことで、余ったのは私と蓮くんだけになった。
「じゃあ、俺と白石で一番危険なゾーン、【敷地外周〜裏庭】だな。妖力的にもいいと思う」
蓮くんがそう言ったことで、当日の担当場所が決まった。
◇◇◇
「決まった様だね。よし、じゃあ、当日の動きを確認するために当日の持ち場に行ってみようか」
九条先生が黒板を見ながら満足げに頷き、太鼓判を押してくれ、私たちは警備のリハーサルをすることになった。
◇◇◇
生徒会室前で三人と別れ、烏丸くんと水野さんは正門に、水瀬くんは東校舎に、私と蓮くんは裏庭に向かった。
「ねえ、柚葉」
「何?」
「昨日、「思ってない」とか言ってたけど、警備、ペアになったね。感想は? 嬉しい?」
ニヤニヤしながら、蓮くんがそう言ってくる。
なんか最近ずっとこんな調子な気がするなぁ。
照れを誤魔化すように、「黙って」と言い、軽くペチンと叩いておく。
赤煉瓦の校舎の裏手に回ると、日差しが遮られた湿っぽい空気が肌に纏いついた。足元には苔むした黒っぽい地面が広がり、薄暗い樹木の隙間から冷たい風が吹き抜けていく。
肌に刺さるような気味の悪さを感じながら、念話を発動させる。
《こちら白石&神楽ペア。待機場所到着しました。各ペア、待機場所に到着したら念話で話してください》
裏庭につき、念話でそう発信すると、《了解》と水瀬くんと烏丸くんから返ってきた。
それから少しすると、念話で頭の中に烏丸くんの声が流れ込んできた。
《こちら烏丸&水野ペア。同じく待機場所到着》
《こちら水瀬。待機場所に到着した》
《了解。それでは各ペア、本番を想定して、シミュレーションを行なってください》
《水瀬了解》
《烏丸了解》
念話で水瀬くんと烏丸くんの返事を受け取り、蓮くんの方を向く。
「蓮くん、やるよ」
「はいよ」
蓮くんは表情を引き締め、結界の境界線ギリギリまで歩みを進めると、ジメジメとした裏庭を見渡しながらつぶやいた。
「……やっぱりこの裏庭、妖魔の溜まり場と近いね」
陰湿で湿気の多い場所を好む妖魔にとって、ここは格好の拠点だ。学園説明会で強力な結界が解かれれば、一気に侵入される危険性が高まるだろう。
「うん。思った。結界越しだから詳しくはわからないけど、妖魔の気配がなんとなくするね。大体ここから……約10町(1km )ってところだね。何匹だろ……これ、本当に結界解除して大丈夫なの?」
「よく距離までわかるな……ちなみに、妖力とかから種類とか強さとかわかる?」
「ん〜。ちょっと結界が邪魔だな。やろうと思えばできなくはないけれど、十中八九でそれをやったら妖力切れで倒れる自信がある。やる?」
「妖力切れは流石にだめ。明日に響くでしょ」
「だよね〜まあ分からないけど、私の敵ではない。と思う」
「柚葉基準の『私の敵ではない』は信用ならんな。まあ、なんとかなると信じよう」
そう言って蓮くんは笑った。
その後も、妖魔や侵入者が隠れられそうなところなどを確認していく。
「まあまあ確認できたかな?」
「そうだね」
そう言って、念話で他のペアの進捗を聞こうとした時だった。
「あっ!」
意識が念話の方に行っていたせいで、足元を見ていなかった私は、木の根っこに躓いてしまう。
「危ない!」
私は、来るである痛みを想像しながら、ギュッと目を瞑る。
しかし。
痛く……ない!
私は、そっと目を開ける。
「わっ!」
「危ないなぁ。柚葉は」
美しい顔とサラッサラの黒髪が至近距離にあり、驚いて飛びざかる。
「ご、めん……助かった。ありがとう」
「相変わらずそそっかしいね」
「うるさい。妖力制限してるんだから仕方ないでしょ」
「はいはい。で?念話するんじゃなかったの?」
「うっ」
話を現実に戻されて、これ以上反論ができなくなる。
私は、「はぁ」とため息をつき、念話で各ペアに呼びかけた。
《白石から、各ペアへ。こちら、確認終了しました。各ペア、今の進捗の報告をお願いします》
羞恥心で震える心をなんとか抑えつつ、念話でそう烏丸くんと水瀬くんに送る。
何秒かすると、念話が返ってきた。
《こちら烏丸。後2分あったら確認が終わる》
《了解》
《こちら水瀬! 後1分あったら終わるかなって感じ。……答えたくなかったら答えなくてもいいけど、一つだけ。念話の声が震えてたけど、何があった? 神楽が何かしたなら、ぶん殴っていいから》
水瀬くんからそう返ってきて、ますます顔が赤くなるのを感じる。
「どうした?」というふうにこちらをみている蓮くんの視線が痛い……。
頑張って羞恥心を押し殺したつもりだったが、伝わってしまったようだ。
《だ、大丈夫です……》
そう水瀬くんに返して、一度深呼吸をする。
《白石から各ペアへ。確認が終了次第、生徒会室に帰ってください》
今度は動揺が伝わりませんように……と祈りながら、そう烏丸くんと水瀬くんに念話を送ると、2人から《了解》と帰ってきた。
動揺が伝わっていないことを祈る。
「蓮くん。確認が終わったから、生徒会室。戻るよ」
「はいはい」
◇◇◇
――生徒会室に戻る途中
「そういえばさっき、こけるところを支えてくれて、ありがとう」
隣を歩く蓮くんを見上げながらそう言うと、蓮くんは「ははっ」と笑って、私の髪を手で弄んだ。
「お安い御用だよ。柚葉が怪我をしなくて、本当に良かった」
「うっ……ありがとう……」
蓮くんがいつもに増してキラキラを放っているように見えるのは気のせいだろうか。
そんなことを思いながら、生徒会室にもどるのであった。




