アドバイス
私はダッシュで寮に入り、その勢いで階段を登って部屋を勢いよく開ける。
赤い顔で部屋に飛び込んできた私を見て、鈴ちゃんは目を丸くした。
「お、おかえり柚葉ちゃん……どうしたの? 顔、赤いよ?熱でもある?」
鈴ちゃんは心配そうに私の額にピトッと手を当てて、「熱はないな……」と呟いた。
「熱がないのに顔が赤い……ということは、さてはなんかあったな?」
鈴ちゃん、鋭い。
図星を突かれて私は「うっ……」と言葉を詰まらせる。
そんな私を見て、鈴ちゃんはキラリと目を輝かせて少しずつ詰め寄ってきた。
完全に捕食者の目をしている。
じりじりと鈴ちゃんが一歩近づいては私が一歩下がる……を繰り返すうちに、ついに背中が壁についてしまった。
「で? 何があった? 逃げられないよ〜?」
なんかデジャヴ……。
そんなことを思いながら、逃げ場がなくなった私は、降参の意を示すため両手を上げる。
「話す。話すから、ちょっと、離れてくれない、かな?」
「本当に?」
「本当、本当だから」
鈴ちゃんは、疑う様な目で私を見た後、すぐ横のベッドに座って胡坐を組んだ。
お行儀が悪い。
「で?」
そう聞かれた私は、はあ……とため息をついて、さっきまでの蓮くんとのやり取りを鈴ちゃんに話した。
◇◇◇
「ほぉ〜! なかなかやるじゃない。あの男。ヘタレじゃなくて安心したわぁ」
ことの顛末を聞いた鈴ちゃんは、ニヤニヤする。
「ふむふむ。で?柚葉ちゃんはどう思ったのさ?」
「どう思ったって……」
「まあでも赤い顔して飛び帰ってくるぐらいだから少しは脈アリ……かな?」
「ちょ……揶揄ってるでしょ……」
私は赤い顔を隠すように手で覆う。
羞恥心でどうにかなってしまいそうだ。
そんな私を暖かい目で見ながら、鈴ちゃんはこう続けた。
「でもまあ周りが余計なことをとやかく言うと拗れるからね〜これ以上は言わない、けど……でも、自分の気持ちに正直になることも大切、だよ?」
そう言って鈴ちゃんは優しく微笑んだ。
「でも、自分の気持ちって……でも、よくわからないし……」
「そうだねぇ。まあ、そんなものだよね……うーん。これは私の一意見なんだけど、迷った時はそれを言われて不快だったか。それとも嬉しかったか。そこを考えたら良いんじゃない?」
『不快だったか、嬉しかったか……』
その言葉を噛み締めながら私は考える。
『不快』ではなかった。それは確か。『嬉しい』……それは、そうかも。
「それに、『好き』って気持ちはその時はよくわからないものだから。一歩ずつ、一歩ずつ、自分のペースで進んでいけばいいと、私は思うよ」
一歩ずつ、自分のペースで……。
「うん。ありがとう。少し、楽になった」
「それはよかった」
鈴ちゃんは、私を見てニコッと笑った。
さっきのアドバイスに、「人生何周目?」と思ったのは、私だけの秘密である。




