夏祭り
――「どうしてこうなるの!?」
祭り会場に私の悲鳴が響きわたる。
だが、それを咎めるものは周りにいなかった。
周りを見渡すと華やかだった会場は見る影もない惨状になっている。
瓦礫があちこちにとび、あちこちに闇堕ちしたあやかし――妖魔が暴れ回っている。
本当に、どうしてこうなった!!
私の心の叫びは喧騒の中でかき消されてしまった。
◇◇◇
――3時間前
「よし、完璧!」
そう呟いて私は鏡の前でくるりと一回転する。
ついに夏祭りだ。
柚鈴からプレゼントとして貰った可愛い黄色の浴衣に、水色の帯を締め、いつもはおろしている長い亜麻色の髪を上の方でお団子にする。
「可愛いです、柚葉様!」
着付けと髪結を手伝って貰った舞花が満足げに頷く。
「ありがとう、舞花」
そう言って私は蓮くんと合流するべく、玄関に向かった。
玄関に着くと、もう蓮くんが待っていた。
「蓮くん! お待たせ」
「柚葉! うん、可愛いな。新鮮でいい」
「ちょっ」
急に褒められて私の頬が熱くなるのを感じた。
そういう蓮くんもいつもと違った感じで、すごく浴衣が似合っている。
「い、行くよ!」
赤く染まった顔を隠すべく、さっさと下駄を履いて歩き出す。
「柚葉、待って」
すると、蓮くんが私の手をするりと捕まえ、ぎゅっと握る。
「ちょっ」
「夜は、危ないよ?人も多いしね」
そう言ってニコッと微笑まれる。
「はい……」
敵わないなぁ。
そう心でつぶやいて、手を握りかえす。
私たちは、屋台が並ぶ方面に向かって歩き始めた。
◇◇◇
「わぁ! 屋台がたくさん!」
道にはずらりと屋台が立ち並んでいた。
すれ違う人々の表情は皆、活き活きとしている。
どちらかといえばあやかしが多い印象だが、人間の姿も多い。
「もともとこの祭りはあやかしを統べる神様に感謝とあやかしの発展を願ったものなんだそうよ。だから、実質上のあやかしのトップであるお母様は貴賓として参加するの。私もいつかは参加しないといけないからね。ゆっくり楽しめるのは今年までかな」
「そっか」
「っていうかめんどくさいのよ。祭りなんだから楽しませろっつってんのに見かけた顔と目が合ったら挨拶しなきゃなんないし。媚び売ってくるし。だから今まであんまり参加しなかったのよねぇ」
「大変だね。じゃあ、こうすればいいんじゃない?」
そう言って蓮くんは懐からお札を取り出した。
「?」
「見てて」
そう言うと何やら呪文を唱え始める。
そして。
霊力が解放され私たちの周りに透明の膜が張られる。
「これで相手からは認識されにくくなる。こっちから話しかけるか血眼で探されない限りはね」
「すごい! ありがとう」
「どういたしまして」
いずれは社交というのもやらないといけなくはなるが、今年は蓮くんと邪魔されずに周りたかった。
だから、とても嬉しかった。
のだが。
――1時間ほどぶらぶらと屋台を歩き、気になった食べ物を買って食べたりしていた頃
「きゃぁーーー!!」
どこかで、女の人の悲鳴が上がった。
人間の耳では聞き取れないほどの遠さだが、あやかしの耳にとっては十分聞こえた。
周りのあやかしがザワザワしだす。
「何かあった?」
周りの混乱を見て、蓮くんが心配そうに私を覗き込んだ。
「女の人の悲鳴が聞こえた。妖魔かな?」
「えっ」
「ちょっと待って、お母様もこの会場にいるはずだから、念話で聞く」
「分かった」
そう言って私は集中して母の妖力を探す。
あやかしの能力の一つに、『念話』というのがある。
これは、相手がある程度近くにいて、その相手の妖力がわかれば心の中で会話できるというものだ。
ちなみに、今はあやかし同士でしか念話ができないが、いずれは人間とあやかしで念話を使えるようになるといいなと思っている。
それはさておき。
……見つけた!
華蓮の妖力を見つけ、そこを目掛けて妖力を放つ。
《お母様。悲鳴があったようですが何がありましたか?》
《今調査中やで。場所はおよそ本部テントから約300メートル北。うちは今手が離せへんさかい、できれば柚葉が対応してほしいんよ。向かってもらえるかい?》
《了解しました。蓮くんと向かいます。妖魔ですか?》
《たぶんそうやと思うわ。人混みは妖魔が出やすいさかいね。くれぐれも気ぃつけとおくれやす。こっちが片付いたら応援に向かうよってに》
《了解しました。ありがとうございます》
念話を終了させて、蓮くんの方を向いた。
「多分妖魔だそうよ。発生場所は本部テントから約300m北。私たちで向かえって」
「分かった。瞬間移動?」
「ええ。行くわよ」
いうが早いや、私は蓮くんの腕を掴んで妖魔が発生したとされる場所に瞬間移動した。




