約束
――翌朝
どうやって蓮くんを夏祭りに誘うかを夜中、ずっと考えていたせいで目が冴えて早く起きてしまった。
時計を見るとまだ4時30分だったが、もう目が冴えて二度寝はできそうになかった。
「ちょっと体を動かすか」
そう呟いて起き上がり、机の横にかけている鍵を手に取る。
この鍵は地下の練習場の鍵で、長期休暇の間毎日使って良いから持っていていいと母から貸してもらったものだ。
私は鍵を手に誰も起こさないようにそっと自室を出て地下に向かった。
着替えるのはめんどくさかったので浴衣のまま練習場の端っこに立ち、構える。
「とりあえず基本形から行きますか」
そう呟いて狐火を出し、的に当てていく。
この的は特殊なもので、攻撃を当てるとその威力が的の上に数字として表示される。
数字は0〜100までで、それを超えると「100+」と表示され、測定不可になる。
世間一般的には威力が60に届けば優秀とされるが、白石家では60に届いてやっと一人前とみなされる。
ちなみに私は5歳で60に届いた。
今当てた狐火は、「100+」と表示された。
最近はずっと「100+」で自分の狐火の威力はもう分からない。
早急に100以上を測定できる的を開発してもらいたいところだ。
私はどんどん威力を強めながらスピードを上げて撃っていく。
楽しい……!
学園では正体を隠しているため、本気で妖力を使えない。
昨日蓮くんと手合わせした時も思ったが、やっぱり妖力は本気で撃つに限る。
どんどん楽しくなってきた私は、時間を気にすることなく夢中で妖力を打ち続けた。
◇◇◇
「柚葉、今日は早いね」
「ふひゃあ!」
集中していたからか扉が開く音に気づかなかった。
変な声をあげて扉の方向を向くと、蓮くんが立っていた。
「蓮くんか……びっくりした。今何時?」
「6時30分だよ」
「えっ」
今の時間を聞いてびっくりする。
今6時30分ということは、かれこれ2時間くらい集中して妖力を撃ち続けていたということになる。
よく妖力切れなかったな……。
昔は2時間もぶっ続けで妖力を使えなかった。
変なところで己の成長を実感する。
それはともかく。
「どうしてここに?っていうかよく分かったね」
「舞花さんが『柚葉様がいらっしゃらない……!』って言ってたからね。ならここにいるかなって思って」
「もうご飯の時間?」
「もうちょっとここにいてもいいって」
「そっか」
そう言って私は最後にと大きい狐火を思いっきり的にぶつけてから蓮くんの方を向く。
夏祭り一緒に行こうっていうチャンスは今しかないかな……。
私は、覚悟を決めてから口を開く。
「今日の夜って予定ある?」
「夜?いや、特にないけど」
「なら、あの……」
「ん?」
蓮くんは優しい眼差して私を見守る。
「えっと、今日の夜、夏祭りがあるそうなので、その……一緒に行けたらどうかな……と思っているんですが……」
恥ずかしくて最後はゴニョゴニョとなってしまった。
蓮くんは、一瞬きょとんとした顔をした後、すぐ破顔した。
「もちろん! 俺も、柚葉といけたら嬉しい!」
「よかった」
「楽しみだね!」
「うん」
蓮くんのおかげで、初めて夏祭りを「楽しみだ」と思えた。
――絶対に楽しい夏祭りになると信じて疑わなかったのだが。




