手合わせ
──次の日
私は自分の部屋で、屋敷に届いた荷物の荷解きをしていた。
「えっと、これはこっちで……うん、こんな感じかな」
大方片づいたかな、という所で私は一度立ち上がる。
すると、
「柚葉、いる?」
「いるよーー、ちょっと待って」
扉がノックされ、そう声をかけられる。
私が部屋の襖を開けると、麦茶が乗ったお盆を手に持った着流し姿の蓮くんが立っていた。
イケメンは何を着てもイケメン……学園にいる時は制服姿しか見たことがなかったから、新鮮でいいなぁ。
かくゆう私も今日は久しぶりに袴を着ている。
最近はずっと制服である洋服しか着ていなかったが和服もいいものである。
そんなことを思いながら蓮くんを部屋に招き入れ、畳に座る。
「どうしたの?」
「ああ、柚葉は荷解き終わった?」
「うん」
「それならさ、暇だし一戦交えない?」
「え?」
急な誘いに思わず惹かれてしまうが、昔のことが脳裏に浮かび、私は首を横に振った。
「無理よ。あなたを傷つけてしまう」
そう言うと、蓮くんは不満気に言った。
「俺はそんな柔な人間じゃない」
「でも……」
「大丈夫だって。心配なら怪我することがないようなルールにすればいい。例えば普通の唱和じゃなくて、練習用のでするとか。あれだったら相手に攻撃が行かないから。まあ当たったら痛いけど。ほら、やろ? 体動かしたらスッキリするよ」
そう言って、蓮くんは私の顔を覗き込んだ。
「ねえ柚葉、当主様と2人きりで話してからなんだか様子が変だよ。何があったかは聞かないけど、じっとしてても何も変わらないよ。ストレス発散も大切!」
そう言って、私に手を差し出す。
「……うん」
私は立ち上がり、学校の運動着を持って白石家の地下にある練習場に向かった。
私達は地下の練習場の隣の部屋で着物から学校の運動着に着替え、練習場で向き合って立った。
常盤学園の運動着は結構おしゃれだ。和服と洋服を合わせたようなデザインで、とても動きやすい。
ちなみに練習場の鍵は舞花に言って貸してもらった。その時の舞花の顔がとてもニヤニヤしていたのが解せない。本当に解せぬ。
まあそれはいいとして、こうして蓮くんと手合わせするのは初めてだ。
蓮くんが霊力を使うところを見るのはこの前の試験以来だが、その時は陰陽師の主な武器であるお札を使っていなかった。
ちなみに陰陽師のお札は霊力を思いっきり使うための、いわば媒体のようなものだそうだ。
あやかしはその身一つで妖力を操作し攻撃できるが、人間だとそうはいかないらしい。
人間はその身一つだと霊力をうまく操作できない。
それが人間があやかしより弱い理由の一つでもある。
本気で戦うとどんな感じなんだろ……。
そう思いながら、私たちはそれぞれ構える。
「じゃあ行くよ!開始!」
そう叫んで、私は手始めに妖力で狐火を作り出す。
とりあえず蓮くんの強さを知りたいかな。とりあえず様子見ってことでこんなもんかな。
「えいっ」
まあまあな強さの狐火を思いっきりぶつける。
「柚葉の攻撃はそんなもんか?」
蓮くんは鼻で笑ってお札すら使わず私の狐火を消す。
「本気で来なよ」
そう言いながら蓮くんはお札を出して思いっきりこの部屋を凍らせる。
「ねえ、寒いんだけど」
文句を言いながら狐火を使って自分の周りだけを暖かくして凍るのを防ぐ。
「なかなかやるね」
「蓮くんこそ」
私はどんどん楽しくなってきて気づけば最初のためらいも消え、思いっきり妖力を打ち込んでいった。
◇◇◇
次の一手で決める!
そう決め、私は思いっきり妖力を手のひらに集め、唱和する。
「『インフェルノ(業火)!』」
そして、私が唱和するのと同じタイミングで蓮くんも唱和する。
「『氷龍神』」
練習場のど真ん中で私の作り出した燃え盛る業火と蓮くんの作りだした氷が激しくぶつかる。
その反動で部屋が思いっきり揺れる。
これ大丈夫そう? この部屋、この威力耐えれるのかな?
私はそうヒヤヒヤしながら勝負の行方を見守る。
しかし、その威力は止まることを知らない。
より一層振動が強くなっていく。
止めようにもさっきの攻撃でもうほとんど妖力が残っていない。
まって、やばいかも?
「柚葉!」
「蓮くん、逃げーー」
危険を察知し、そう叫んだ瞬間。
ドーン!!
私たちの横――入口ら辺から大きな音が聞こえ、視界が白く遮られた。
「え?」
私は入り口があるであろう場所を見、その後先ほどまで私たちの妖力と霊力がぶつかっていたところを見た。
「えっ?」
そこにはあったはずの業火も氷も跡形もなく消え去り、壁に大きな穴が空いていた。
◇◇◇
「さすがにこれ以上いったら壊れてまうわぁ」
いきなり入り口付近から声が聞こえた。
「っお母様!?」
「っ当主様!?」
見事に私たちの声がハモった。
そこには、綺麗な着物を着てたおやかに微笑む母――華蓮が立っていた。




