白石邸
少し歩いて屋敷の門扉前にやって来る。
「でかい……!」
蓮くんは驚いたように屋敷を見上げる。
ちなみに妖狐本家、つまりこの屋敷は立派な和風建築だ。
「そうだね。ちなみに屋敷の裏には日本庭園があるわ。結構綺麗だから後で案内するね」
「本当?楽しみだな」
私たちは笑いながら門扉を開ける。
そこには、
「「おかえりなさいませ、柚葉様」」
大勢の使用人がずらっと並んでいた
ちなみにこの使用人は全員妖狐のあやかしである。
使用人は、頭を下げてはいるが視線は私の隣――蓮くんに注がれていた。
教育がなってないわね。客人にそのような視線を向けるものではないわよ。
そう思いながら進む。
玄関の前まで来ると、使用人頭である結城が頭を下げて待っていた。
「おかえりなさいませ、柚葉様。使用人一同お帰りをお待ちしておりました。……して、柚葉様。お隣の方は? 人間とお見受けしますが」
「神楽蓮よ。神楽家の次男。と言ったらわかるかしら? 大切な人だから、丁重に扱いなさい。何かしたらタダじゃおかないわよ……他のみんなもね」
私がそう言うと、不躾な視線を蓮くんに向けていた使用人が気まずそうに視線を逸らした。
「結城。お母様とお父様は?」
「談話室です」
「そう。後で向かうわ」
「承知いたしました。一度部屋に行かれますか?」
「ええ。そうするわ」
「それでは舞花に案内をまかせますので。何かあられましたら舞花にお願いいたします」
「わかったわ」
「蓮くん、行くよ」
もう一度深く頭を下げる結城の横を通り、舞花を連れて廊下を進んだ。
――廊下を少し歩き、結城など使用人の姿が見えなくなり、あやかしの耳でも音が拾えないところまで来た所で私はそっと息をつく。
「疲れた……なんか苦手なんだよね、結城」
「そうなのか?見えなかったけど」
「じゃあうまく取り繕えてたってことだね。よかった」
私はもう一度ほっと息をつく。
そんな私をチラリと見た舞花は、こう言った。
「柚葉様。神楽様のお部屋は柚葉様のお部屋のお隣でよろしかったですか?」
「へっ?」
思わず素っ頓狂な声を出してしまった。
「なんであそこ?へっ?!」
確かに私の部屋の隣は空き部屋だけど! でも空き部屋なんて沢山あるし! よりによってなんでそこなのよ……。
そっと隣を見ると、蓮くんも驚いた顔をしていた。
「だって柚葉様が初めてお招きになられたお方ですもの。私、なかなか友達というものをお作りになられない柚葉様を心配していましたから……本当に良かったと思っております」
「舞花……ありがとう」
あの出来事がきっかけで友達というのをどこか諦めていたけれど……こんなに心配していた人がいたんだな。学園に行って……鈴ちゃんや、蓮くんと仲良くなれて……よかったな。
そう思いながら隣を歩く蓮くんの方を向くと、彼は私に向かって微笑んでくれた。
˜”*°•~*~•°*”˜”*°•~*~•°*”˜
「それじゃあ行こうか。談話室に」
「おう」
部屋で一息つき、私たちは談話室に向かうべく、部屋を出た。
「先に言っておくわ。お母様は厳しめだから、覚悟しておいたほうがいいわ。お父様は……半分ぐらい聞き流していいわよ。あの人は喋る時は喋るけど喋らない時は喋らないから。まあお母様の皮肉とか小言とかも聞き流していいけどね」
「わ、かった……?」
蓮くんが不思議そうに首を傾げた。
「あと、妖狐の現当主はお母様で、お父様は白狼のあやかしよ。いるかはわからないけど、私には妹が2人いてね、上から柚鈴と、柚乃って言うんだけど、柚鈴は九尾の狐で、柚乃は白狼のあやかしよ。これまでずっと妖狐の身内内で結婚していたそうだけど、お母様は周囲の反対を押し切って白狼のあやかしであるお父様と結婚したと言っていたわ」
「そうなんだ」
蓮くんは興味深そうに頷いた。
「ここね」
廊下を少し歩き、立派な襖が閉じられた部屋の前に来た。
私は静かに廊下に正座し、襖をそっと開け、声をかける。
「柚葉です。今よろしいでしょうか?」
「入りなさい」
すぐに凛とした女性の声が部屋の中から返ってくる。
「失礼いたします」
そう答え、私は蓮くんと一緒に談話室の中に足を踏み入れた。




