作戦3
私は指を鳴らしていった。
「篝、颯、朧出てきなさい」
「「「はっ」」」
一瞬で三人のあやかしが馬車の屋根などから出てくる。
「プランBに移るわ。篝は業者を眠らせてこのまま走らせなさい。屋敷まで一里の時と、八町(約880m)になったら声をかけて」
「はっ」
篝はすぐに業者の方に行き、業者を眠らせる。
それを横目で見ながら、私は颯と朧の方を向く。
「邸まで八町になったら私は蓮くんを連れて邸まで飛ぶわ。颯は、私たちの荷物を持って屋敷まで飛んで。確か颯の瞬間移動できる最大の距離って八町だっけ?」
「はい」
「それじゃあ、屋敷までの距離が六町になったら飛んで。妖力切れで倒れられたら困るもの。無理はしないでね」
「はっ」
そう言って、颯はまた消える。
「で、朧は颯が瞬間移動したのを確認したら馬車の中に忘れがないのを確認して、篝に声をかけて。屋敷をすぎたら、適当な場所で朧は降りて、そのまま瞬間移動して帰ってきなさい。篝に、朧が降りたら適当な停留所で馬車を降りて、業者を解放して瞬間移動で帰ってきなさいって言って。業者の記憶を消すのも忘れずにね」
「了解しました」
そこまで指示を出して、ふと目の前に座っている蓮くんに目を向ける。
そこには、ぽかんとした表情浮かべる蓮くんの姿があった。
「えっと……柚葉?」
「うん、私は仮にも次期当主だからね。このぐらいはできるよ」
「本当に……お邪魔して構わないのか?」
「ええ、それに、私の家にいるのが一番安全だと思うわよ。あやかしの中で一番強いのは妖狐の一族なんだから!」
「そっか。それにしてもよくこんな状況想定してたな」
「そうね。……私のひいお祖母様はとても厳しい人だったの。もうお亡くなりになられたけどね。ひいお祖母様がご存命だった頃、あの人はいつもこう言っていたわ。 『すべての状況を想定して動け。あやかしのトップたるもの一寸たりとも隙を見せてはならぬ』とね。……なつかしいなぁ」
懐かしい気持ちになりながら微笑む。
「いい、人だったんだな」
「そうね、世話になったわ。厳しい裏に、優しさがある人だった」
「そっか」
蓮くんが優しく返してくれた。
その時
「柚葉様、屋敷まで一里になりました」
「そう、ありがとう」
馬車を走らせていた篝が声をかけてきた。
「蓮くん、準備をするわよ。大体の荷物は颯が運んでくれるわ。でも貴重品は持っていた方がいいと思うわ」
「わ、かった」
私は財布と学生証を制服のポケットに突っ込む。
私の財布は狐の刺繍が施されたがま口財布だ。
「さてとそれじゃあそろそろ瞬間移動の準備をしますか」
「どうするの?」
蓮くんはきらきらとした瞳でこちらを見てくる。
「えっとね。長距離だから妖力を解放して飛ぶよ。とりあえず妖力を解放するから、後ろ向いてて。……妖力を解放する時は九尾の狐の姿に戻るから……その、変化してるところを見られるのはちょっと恥ずかしい、から……」
「わかった」
そう言って蓮くんは素直に後ろを向く。
「ありがとう」
そう言いながら私はその場で両手を握り、祈りの体勢になる。
「解放せよ」
私の詠唱と同時に私の妖力が解放され、一本しかなかった黄色の尻尾が九本に増え、金色の瞳が一瞬だけ紅く染まる。
私の瞳の色は、普段は金色だが妖力を使う時だけ紅に染まる。
私は結構、紅の瞳も気に入っている。
「こっち向いていいよ」
私は律儀に後ろを向いて目を塞いでいる蓮くんに声をかける。
「っ柚葉……」
「えっと…こっちが本当の私なんだけど…変、かな?」
変って思われたらどうしよう……!
私は、ドキドキしながら蓮くんの言葉を待つ。
「……だ」
「え?」
「綺麗だ」
「……っ!」
き、きれいだ? 綺麗だ!?
蓮くんの言葉を理解した瞬間、私の頬がみるみる赤色に染まる。
「あ、ありがとう」
そう言って蓮くんをそっと見ると、彼も顔を赤くしていた。
自分で言って赤くなるなよ……でも、可愛い……。
そう思ってしまう私がいた。




