図書室にて ˜”*°• 神楽 蓮 side•°*”˜
蓮視点です
――白石の話が終わったあと、今度は俺が言葉を失っていた。
夕日に照らされた彼女の横顔は、どこか今にも消えてしまいそうなほど儚く見えた。
『あやかしだって、自分の力に苦しめられることはあるんだから』
さっき彼女が言った言葉の本当の意味を理解して、俺は自分の浅はかさが恥ずかしくなった。
悩みのないあやかしが憎い、なんて、俺は彼女の何を知った気になっていたんだろう。
俺は親への復讐のために力を欲した。
だけど彼女は、大切な人を守りたくて、これ以上誰も傷つけないために、その強大な力を必死で隠して生きてきたんだ。
膝の上で小さく震える彼女の手を見ていたら、無性に、その手を包み込んでやりたい衝動に駆られた。
「だからね、私は他人と深く関わっちゃいけないんだ。いずれ、傷つけてしまうから。だから、神楽くんも私のことは気にしないで。本当は、こんな私があやかしのトップを務めるなんて、しちゃいけないんだ。でも、生まれた順番は変えられないから……。私だって、いつかはこれを乗り越えないといけない。それはわかってるよ。でも、学生として過ごせるこの間だけは、何も気にせずにいたかった。「妖狐の次期当主」として見られたくなかった。だから、野狐として通うことを決めたんだ」
それを聞き、無理やり理由を聞き出そうとした自分を殺したくなる。
「ごめん。無理やり聞き出すようなことをして……」
「大丈夫だよ。でも、神楽くんには「次期当主」じゃなくてただの「白石柚葉」として見てほしいし、接してほしい。あっ、もちろんもう接してくれなくてもいい、から」
そう言って、彼女は苦しそうに、でも精一杯笑みを貼り付けたように微笑んだ。
それを見て、俺は自分を抑えられなくなる。
「『もう接しない』なんて、言うわけないだろ! 大体、『私のことを気にするな』だと? 俺のことを馬鹿にしているのか? 俺はお前の過去を知らない。だから、その人間の女の子のことは知らない。でも、その子を傷つけてしまったのはその子を守ろうとしたからだろう? なら、お前は何も悪くないと少なくとも俺は思う。だから、俺はお前になんと言われようとお前と話すことはやめない」
「……神楽、くん」
俺の言葉を聞き、白石は驚いたような顔をした後、白石の頬を涙がつたった。
「……大丈夫か?」
「……うん、ごめ……な、みだが勝手に……」
「大丈夫、ここは図書館の4階。マイナーな本しかないから、ほとんど誰も来ない。泣くのも、大切だよ」
「ありがとう、神楽くん」
そう言って、俺は白石落ち着くまで白石の背中を優しく撫でた。
白石が落ち着いてきたのを見て、優しく声をかける。
「落ち着いた?」
「うん。ありがとう、みっともないところ見せちゃったね。でも、ちょっとスッキリした。ありがとう、神楽くん」
彼女の微笑みが、無理して笑っていたさっきとは違って心から笑っているように見え、少しホッとする。
「おう。それならよかった。白石もありがとうな。俺の話も聞いてくれて」
「ううん、聞けてよかった」
「そうか」
また両者無言になる。
俺、白石のこと、白石じゃなくて、柚葉って呼びたい……!
そう思って、ハッとする。
いきなりどうした、俺? そんなこと言ったらただの変態かって引かれるだろ。でも……呼んでみたい。勇気を出したい……!
そう思い、俺は勇気を振り絞って声をかける。
「白石」
「なに?」
「……十分キモいって自分でもわかってる。でも、もしよかったら白石のこと、2人きりの時は柚葉って呼んでいいか?白石も俺のことを蓮って呼んでほしい。俺の前では素でいてほしい。俺は、絶対に離れないから」
「……絶対なんて、ないよ」
「そうだな。確かに『絶対』なんてない。でも、俺が今お前から離れていかないって決めた。それじゃダメか?」
俺がそう言うと、白石はきょとんとした顔をして、すぐに破顔した。
「あはは、どうしたの? そんな俺様発言。面白! いいよ。柚葉で。……蓮くん」
最後は少し顔を赤くして、俺の名前を呼んでくれた。
嬉しい……!
白石ーー柚葉が俺の名前を呼んでくれた、それだけで心が暖かくなる。
「ありがとう。柚葉」
そう言って、俺たちは夕陽が差し込む図書室で笑い合った。




