図書室にて
――神楽蓮の話が終わったあと、図書館には重い沈黙が流れていた。
窓から差し込む夕日が、彼の横顔を寂しげに照らしている。
想像を絶する彼の過去に、私は胸が締め付けられるように痛み、交換条件として彼に話させた自分が恥ずかしかった。
「……そっか。そんなことがあったんだね」
私は小さく息を吐き、自分の膝の上に置いた手をきゅっと握りしめた。
「あやかしなら悩まないのに、って言ってたけど……そんなことないよ。あやかしだって、自分の力に苦しめられることはあるんだから」
「え……」
彼は、びっくりしたようにこちらを向く。
「ありがとね。話してくれて。……約束だもんね、今度は私の番。ちょっと長いけど、聞いてくれたら嬉しいな」
「もちろん」
彼は私の目を見て力強く頷いた。
神楽蓮はこんな私に包み隠さず話してくれた。……だったら私も、それに答えるべき、だよね。
私はごくりと唾を飲み込み、ずっと心の奥底に閉じ込めていた、あの日の記憶の引き出しを開けた。
░白石 柚葉░
私は、あやかしのトップ、妖狐の一族の中でも一番強い、九尾の狐の長女として生まれた。
あやかしは基本、生まれてきた子供が男でも女でも、一番最初に生まれた子が家督を継ぐ。
そのため私は幼い頃から次期当主として英才教育を受けていた。
午前は座学、午後は妖力を使う実技。
ずっと多忙で、遊ぶ暇さえ与えられず、私は友達と言える存在はあまりいなかった。
それでも、仲良くしてくれた人間の女の子がいた。
私たちは、あまり遊ぶ時間がなくても、空いた少しの時間を見つけては会っていた。
友達と言える存在がその子しかいなくても、私は構わなかった。
その子と遊ぶ時間を作るために私は精一杯勉強や鍛錬を積んだ。
そんなある日のことだった。
その日は珍しく午前の予定がなく、私たちは公園で遊んでた。
なかなかそんなに長く遊べる時はないから、全力で遊んでいた。
そんな時、その公園に闇落ちしたあやかしが私たちを襲ってきた。
私は、子供ながらも妖力を精一杯駆使して闇堕ちしたあやかし――妖魔を倒そうと頑張っていた。
しかし、そのあやかしは、私ではなく、非力な人間の女の子の方を狙った。
大切な友達を傷つけられてしまう! どうして、私ではなく力のないあの子を狙う? 卑怯だわ。
そう思った私は、自分ではなく非力な人間を狙ったことに対して激しい怒りを覚えた。
そこからは一瞬だった。
私は、怒りで自分を失い、一瞬で妖魔を倒したが、その時に友達のその子も傷つけてしまった。
これまで私のことを好意的に見ていたその瞳は、一瞬で恐怖の色に変わった。
その日から、私たちが会うことはなかった。
そして、私はより一層他人を避けるようになった。
目立たないように、話しかけられないように。
だから私は、当主としてあやかしの上に立つその日までひっそりと生きることを決めた。




