58話:乙女色、会議中でのラプソディ―
狩りを終え村へと辿り着いた頃、辺りは薄暗く日が沈みかけていた。村人達は夜中まで待つつもりだったのだろう、わざわざ松明まで持ち、長老達の帰りを待って居てくれていた。
「ちょうろーうッ!!無事でしたかーぁッ!!」
「爺が二人も外をうろつくとは…ワシ等も気が気でいられんかったぞ…全く…」
「ミーミルッ!!怪我は無い?あたし…未だに信じられないのに…本当に行っちゃうなんて…」
「セルシナッ!!バロッシュッ!!良く帰って来たなッ!!結果はどうであれウルフ相手に無事なだけ俺は嬉しいぞッ!!」
「流石、エレメンタラーの名は伊達では無かったか…良く帰って来た
「さぁさぁッ!!荷物は他に無い?随分少ないようだけど?兎に角上がりなさいッ!!」
「うわッ!!すっげぇ血生臭ぇぞッ!!一体どんな狩りして来たんだかッ!!」
「ミルフィちゃ~んッ!!はいコレッ!!タオルっすよッ!!」
「お、おいズルいぞお前だけッ!!ミルフィちゃん、俺が暖めた座布団がこちらに御座いますッ!!」
「おいおい…おチビちゃん血まみれじゃねぇか…大丈夫なのかよッ!!」
「何だかみんな疲れてそうな顔しますね…」
「そりゃそうだろうよ…こんな時間まで狩りに勤しんでいたんだからな…それに相手はスノーウルフなんだぜ」
「まぁ今は兎に角身体を休めるっすよッ!!皆さんそろそろ道を開けるッスよッ!!」
心配した村人達が一斉に寄って来る。揉みくちゃにされながらも、少しづつ脚を運んで村へと進む最中、ラキュアは初めてこの村へ来た事を思い出していた。
…この村のお出迎えってこれが当たり前なのかね…またしても波に流されそうな勢いですよ…
そんな事を思って居ると、ラキュア達は揉みくちゃにされる方向が変わって居た。
『あれ?えっちょッ!!みんなぁッ!!まってぇ!!』
「こらこら、おチビちゃんは先にお湯で体を流してからだよッ!!」
「何したらこんな血を被るんだか…」
『えぇ!?』
「長老には許可もらってるから、早くしんさいッ!!」
「おチビちゃんを先に綺麗にしないと女性陣は血まみれの湯に一緒に入らなきゃならないんだからねッ!!」
「そうですわよ?さぁさぁミルフィ様や、シルバ様もこちらへ~」
「ららラキュア様~ッ!!」
「丁度お湯に浸かりたかった所です。いい気配りですね」
「さぁさぁッ!!、さぁさぁッ!!」ぐいぐい
『えぇ?あぁ…ひぇぇぇぇぇぇ!!』
村の御婆さん達に連れられてラキュア達は、流されるよう温泉へと連れ去られていた。
その頃、村の大人達が大部屋へと集まって居た。
「集まったか…さて、今日の事で報告が出来た。よく聞いておくれ」
「………」
「ワシ等が向かった東の山にスノーウルフの変異体とみられる化け物を見た」
長老の聞きなれない言葉に村人達が困惑しだす。
(((「…ッ!?」)))
ざわ…
「なんだ?変異体って」
「俺に聞かれてもなぁ…」
ざわ…
その報告を聞き、変異体に覚えのあるジョイスが長老に声を発した。
「な…ッッ!?長老ッ!!それはまさかッ!?」
「うむ」
「それで、その化け物はどうなりましたか?倒せたのですか?」
「倒したっちゃ~倒したよな。俺達じゃあ…無いが」
「な、なんだ…倒したなら良いじゃねーか。今日はこれから選別とその宴だろ?」
「いや、宴はやらん。選別も、これからは機能しなくなるやも知れぬ」
「ワイズ、何を言っておるのかさっぱり分からないぞ?」
「そうじゃな、噛み砕くとワシ等の戦力は無いに等しい、と言う事じゃ」
「……!!?」
「いや、待ってくれよ長老、それは流石に…俺達でも束で掛かればウルフの1匹2匹勝てるだろ」
「そうよッ!!遠距離から補助にだって回れる筈よッ!!」
「そうだな…確かに、今までのウルフ、で有ったならな。しかし今日出会った変異体は違うぜ」
「死んだウルフの亡骸が不屈の本能で襲い掛かって来る。そう言った化け物…」
(((「ふ、不屈の本能ッ!?」)))
「あぁ、マジもんの化け物さ。ウルフ達の至る所からウネウネと触手が生えてみて居るだけで吐きそうだったぜ」
「動く部位が有ればコチラを襲って来る。生き物としての急所を狙ったとてな」
「それはつまり、頭部を切り落とそうが動き回るって事か?」
「そういう事ですね。心臓を射ようが痛みをものともせず襲ってきました」
「そんな化け物がこのフリズヘイムに…!?」
「それだけでは無い、そいつは群れを成さないスノーウルフを50匹超える群れでやって来た」
「ご、50匹!?」
「もっと居たと思うがな、数えて居る暇なんてコッチには無いさ」
「まさかその量を含めてシルバ様が!?」
「んん…まぁ数を減らしたのはそうだな…」
「…」
言っても良いのか、言った所で信じて貰えるのか。信じる必要は無いのだが、一番の勤労者が知らない所で小馬鹿にされるのもどうかと、ワイズを含む6人がむず痒い顔をし出していた。
「なんだか長老達の様子が可笑しいですが…兎に各、その化け物を倒したと言う事で有るなら、もうフリズヘイムの危機はッ!!」
「おおおッ!!そうかッ!!」
「ウルフを束ねる化け物が居なくなったって事だもんなッ!!」
「うぉぉぉぉぉぉッ!!」
「まてまてまてまて…話は此処からじゃよ」
「…!?」
「以前、ジョイスから化け物の事を既に聞いておってな。長として沢山を言い聞かせられ、長い事この地に住んだワシですら、その事を知らなかったからの…余り信じておらんかったのだ…」
「ちょ、長老ッ!!?」
「すまんすまん…しかしな、今日ワシ等が向かった先にはジョイス達が向かった山とは正反対なのじゃ。そうで有ればウルフの大群と出くわす事は無いで有ろう、と踏んでな。するとどうじゃ?いざ向かえば山の奥から見た事も無い数のウルフと化け物が出たと」
「それは要するに…」
「まだ他の山も化け物が住み着いて居る、と…」
「そうじゃ、少なくともジョイスが調査に向かった西の山には、その化け物がまだおる事になる」
「そしてそれは俺達じゃ決して倒せない、そういう事です」
「…………」
「群れを成したウルフ達の繁殖力が予想を超えた以上、村の危機を脱するのは更に困難と成った。ワシ等ではもうどうにも出来ない。彼女達だけが頼りと成ってしまった訳じゃ。そこでじゃ、今直ぐにでも村に防壁を作り、ウルフ達から村を守る準備に取り掛かる」
「い、今直ぐ!?」
「そうじゃ出来れば今直ぐにでも…。ワシ等は今日、50を超えるウルフの群れと対面してしまっている。もし今日、彼女達と向かって居なければ…恐らくウルフの群れは村の縄張りを超え、遅かれ早かれ村を襲う事と成って居たに違いない」
「…なッ!?」
「今の村はウルフが大量に攻めて来る事など想定しておらぬ。浅い柵を飛び越えられ、それで終いじゃ」
「いつ攻めて来るか分からない以上早急に立てるべきですな」
「ワシ等が村を守り、彼女達に化け物を倒してもらう。これしか無いのじゃ」
「…」
「呑気に宴なんてしてる暇ない訳だ、そうと決まれば…」
「今日はもう遅い、材木などは取りに行けぬが、村にある機材を集め、明日に備えるのじゃ」
「詳しい説明は明日の朝に」
「今は各自で準備をする様に。ワシからは以上じゃ」
「長老ッ!!食料の調達はッ!!」
「その辺は大丈夫だ、なにせ爺共が張り切って大量に狩って来たからな…」
「そ、そうかッ!!なら集中して作業だけに取り掛かれますねッ!!」
「そういう事じゃ、さて、ワシはこの事を彼女達に伝えくるわい」
ラキュア達が温泉施設から出る頃、村の大人達の話し合いが終わった。
『んーーーーーーッ!!はぁッ!!』
「気持ち良かったですねラキュア様ッ!!」
「体を動かした後の温泉…中々良いものですね」
「汚れもすっかり落ちた様で本当に良かったですッ!!これで今夜も、安心してラキュア様を抱きしめられますッ!!」
『ハ、ハハハッ!!ハハ…ソレハヨカッタデス』
…ミルフィちゃん、私と言う抱き枕が綺麗に成って喜んでる…。私もミルフィちゃんに抱きしめて貰えるなら嬉しいんだけどさッ!!…今日は優しくしてね?…
「それにしても暗いのに騒がしいですね」
「本当ですね…」
『こんな時間に道具持ち歩いてますね…まぁ、取りあえず部屋に戻りましょうか』
――― ギュルルルルル ―――
…こ、この音はッ!!?…
「ら、ラキュア様…私…」
「そう言えば夜食がまだでしたね。ラキュア様は如何でしょうか?」
――― ギュルルルルル ―――
『ぬっはッ!!』
…私の腹の音もミルフィちゃんに吊られてしまったッ!!…
「空いて居る様ですね、さぁ食堂へ向かいましょう」
『ッチッ!!下僕だけ清ました顔して…いきますよミルフィちゃんッ!!下僕の分も食ってやるのですッ』
「は、はいッ!!」
「ら、ラキュア様!?」
暫くしてラキュア達は食堂へと到着。そこには待って居た戸ばかりに長老達が席を構えて居た。
「ホッホッ!!来よったかッ!!」
『あれれ?長老さん達もまだ食べて無かったんですね?』
「まぁそんな所じゃ」
「おう、おチビちゃんッ!!椅子も用意してあるぞッ!!」
『あ、ありがとうバロッシュ御兄さん?』
「覚えてくれて光栄だぜッ!!」
「さぁお二人もどうぞ」
ザササッ カチャンカチャン
長老ワイズと狩りに付き添ったメンバーが机を囲んでいた。
ラキュア達はその席へと誘われ、一緒に食卓を囲み食べ始めた。
もぐもぐ…もぐもぐ…
「それでのぉ、実は先ほど村人達と話し合いをしておってな、お主達に今後の事を伝えようかと思ってな」
「と言いますと選別の件ですね」
「それも気になる事ではあるが…」
「では、次なる化け物の事ですね」
もぐもぐ…もぐもぐ…
『…ん!?』
「ラキュア様お口あーんッ」
『ん、あ~~んッ』パク
もぐもぐ…もぐもぐ…
「ほお、流石シルバ様です」
「ジョイスが化け物について知って居た事を考えると粗方想像つきます。頼まなくてもラキュア様ならそのつもりでしょうし、問題無いでしょう。あるとすれば私達が不在の間、どうするか。と言う事でしょうね」
「ホッホッホッ!!話が早い」
もぐもぐ…もぐもぐ…
『…んんッ!?』
「はいラキュアしゃま~、おくちあ~んッ!!」
『んんんッ!!?あ~~~んッ』
…ちょちょ、ミルフィちゃん!?またそれですか?私が会話に入れず話が勝手に進むパターンですよッ!!…
もぐもぐ…もぐもぐ…
「それで、そちらはどうするのですか?」
「取りあえず俺達は村に防壁を作り、ウルフの侵入防ぐ事から始めようかと」
「無難ですね。それで有れば私も少し手伝いましょうか。手抜き工事で死なれてはラキュア様が悲しみますからね」
「おおおッ!!それは助かるぜッ!!」
「すまないな、何から何まで…」
「只、雪山の案内が出来る者が最低でも一人欲しいです。出来れば脚を引っ張らない程度の…」
「御祖父様、私が…」
「うむ、そうじゃな…ミーミルで良いですかな?」
「…そうですね、彼女で有れば大丈夫でしょう。私としてはセルシナの目も欲しい所ですが、自衛能力の評価が悪かったので…」
「う……ッ!!」
「うむ、仕方が無い事じゃセルシナ」
セルシナを落胆させた先、突然立ち上がる男が居た。
ガタッ!!
((「なら、俺がセルシナを守ってやるよッ!!それなら問題無い筈だッ!!」))
「ば、バロッシュッ!?お前なッ!!」
「ほお、成る程、良いですねそれは」
(((「良いのかいッ!!」)))
「彼の防衛能力は中々でしたのでね、セルシナだけでなくミルフィさんも守ってくれそうですね」
「だったら任せなッ!!」
「しかし、彼の力を村の防衛に回す方が良い気もしますがね。村人達の危険と彼女一人、どちらを取りますか?」
「んなッ!!」
「答えられないですか…」
「バロッシュ…」
もぐもぐ…もぐもぐ…
「はーいラキュア様、こちらスープで御座いますよ~暑いので気を付けて下さいね~」
『ん、ふーふー…ふーふー…』
…何か話しの趣旨変わってない?大丈夫?…
ススーッゴクン…ススーッゴクン…
「俺は…村も大事だが…」
(((「だが?」)))
「セルシナも…大事に決まってるだろッ!!」
(((「おおおッ!?」)))
「すまんな爺共、俺は…」
(((「俺は?」)))
― 「セルシナを守る盾になるッ!!」 ―
「ヒュ~ッ!!」
「ですってセルシナ姉様」
「………っ///」
「ホッホッホッ!!まぁ良いじゃろうッ!!」
「と言う訳で、セルシナとバロッシュは、村に置いて行く事にしましょう」
――― ブフォォォォォォォッ!! ―――
…な、なな、何を言ってんのこの下僕はッ!!話しの流れからして可笑しいでしょッ!!私を窒息死させる気ですかいッ!!…
「らららラキュア様ッ!?お口に含め過ぎましたか!?今替えのタオルをッ!!」
『ゲホッゲホッッ!!ゲホッゲホッ!!』
謎めいた話しの切り替わりから、まさかの展開で内心興奮したラキュアで有ったが、シルバの予想斜めの返しによって思わずスープを吹き出してしまった。
「おおおう、おチビちゃん夢中で食ってんから詰まらせたか」
「いきなり噴き出すからビックリしたけど、こっちもビックリです」
「だな、なぜそう言う結論になる?ワイズの許可も出た。一緒に連れて行けば良いだろうに…」
「こんな素敵な二人が、万が一でもラキュア様同行して死なれれば、ラキュア様のトラウマとなるに違いません。折角の貴重な村の子宝を無くす必要は無いです。確かにセルシナさんの目は役に立つでしょうが、翌々考えてみれば、ラキュア様が居ますので絶対必要と言う訳じゃ無かったのでね。二人で合いの巣を守って下さい」
「あ、あ、愛の巣…///」
「大丈夫ですかセルシナ姉様?」
「まぁそう言うのであればそうじゃな…」
「バロッシュ…お前にも真に守る者が出来たか…」
「な、何んなんだよこの展開はよッ!!只の恥かかせじゃねーかよッ!!」
「恥じな訳あるかい。セルシナをしっかり見つめてやれッ!!」
「…そ、そんな…バロッシュが……私を///」
(((「………」)))
「ま、まぁシルバ様達にミーミル一人が付いて行くって事でいいんだよな?これ…」
「ふむ…」
「そうですね、そう言う流れでお願いします」
「後は頼みましたぞ、シルバ様、ミルフィさん、そしてラキュアちゃん」
『ゲホッゲホッッ!!ゲホッゲホッ!!』
こうして途中から本題を忘れる程の良く分からない夜食会議が幕を閉じた。
ラキュア達はいつもの様に部屋へ戻り、仲良く眠りに付き、そして夜が明けた。
その日の夜、一人の女性が布団に包まりながら、コロコロと這いずって居た。
バサッバサッ
「ど、どどど、どうしようッ!!私とバロッシュがッ!?」
「私、今までそんな事微塵も考えた事無かったのに…」
ドクンドクンッ!!
「あーもうッ!!有り得ないわッ!!そんなッ!!あんな冴えないアホ面の癖にッ!!」
コロコロ~コロコロ~
トキメキの想いを否定するセルシナであるが、頭の中で…バロッシュの姿が過る…
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「セルシナの元へは…行かせねぇよッ!!」
「落ち着けセルシナ、俺が付いて居る…ハァァァッ!!」
「なら、俺がセルシナを守ってやるよッ!!それなら問題無い筈だッ!!」
「俺は…村も大事だが…セルシナも…大事に決まってるだろッ!!」
「セルシナを守る盾になるッ!!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「………///」ポッッ!!
「あ~もうッ!!なんなのよッ!!明日からどんな顔して会えば良いのよッ!!バカ―ッ!!」
1人の乙女が誕生した。




