23話:毎日の流れと新しい流れ
次の日、ヘイソンの目覚ましノックと共にラキュアは目を覚ました。
ここでは身支度と朝食を済まして1階のお店の準備をするのが日課な様だ。ラキュアも食事を済ませる為に園児服に着替え食堂に向かった。
…はぁ~今日も良い匂いがする~幸せの香りですよ~…
…昨日は誰も居なかったのに今日は住み込みの方が皆いますね…
『おはよう御座います皆さん。昨日は皆さん居なかったですが普段は皆で朝食とってるんですか?』
「おはようラーちゃん。もぐもぐ…そんな事ないわよ今日は偶々ね」
「そうですね…皆一緒に朝食って事は中々ないですよね」
『じゃあなんで今日は皆さん一緒に?』もぐもぐ
「皆二度寝したらしくて寝過ごしたのよね」
「大きな叫び声がして途中で起きちゃいました」
ズズー ドン
「ご馳走さん。さて俺は先に行くぜ」
「ポッポ、私達もそろそろ行きましょうか」
「そうね」
「アゴンさんコップ置き忘れてますよ!!あぁもうなんで僕が…」
…へぇ~そんな事が…私は気が付きませんでしたよ。ススー…
…私相当疲れてたのかな?皆が起きるくらいの出来事なのに私だけ寝てられたなんて…
…それにしても温まります。オニオンスープと言った所ですかね、朝には良いスープです…
ラキュアが食堂を出たのは皆の一番最後であった。昨日はブースの組み立て作業という事で朝早くから仕事があったのだが、今日からはお昼からという事もありやる事に困っていた。
『うーんやる事が分からないわ』
ラキュアは昨日と同じように階段下で停まっていると同じようにヘイソンから声が掛かった。
「やぁお嬢ちゃん。食事は終えたようだね。その感じだとやる事に困ってるよね?デンクと同じ事でもしてみるかい?」
『デンクさんと同じ事と言うと各コーナーのお手伝いですよね?』
「そうだね。必要な物を代わりに取って来たり、人手が足りなくなったら加勢したりと少し移動が多いかも知れないけどね。取りあえずデンクと一緒に回ると良いよ」
…うわぁ如何にも下っ端ぽい役職ですやん。本音の所やりたくないけど仕方が無いですね…
『分かりました…デンクさんを探してきます』
ラキュアはあちこちを動き回るデンクを呼び止め事情をを説明し、デンクと一緒に行動を共にした。
各コーナーの在庫を確認しつつ、仕分けをしながら商品を並べていき、ヘイソンにそれぞれの状況を定期的に報告して回っていた。粗方する事がなくなれば開店まで掃除し、それが済めば休憩を取った。
『はぁはぁ…朝だというのに疲れますね…』
「そうだね、やっぱり動き回るからね…でも今日の休憩はいつもより早く獲れたしラーちゃんのおかげで楽できましたよ。文字読めて計算出来るとは聞いてましたが、てっきり指で数えながら遅い計算をして、文字も口に出しながらゆっくり読み上げる様な、そんな雑な物かと思ってましたよ。正直驚きました…」
…確かに、うちの子、数字が読めるのよ~とかの自慢話って大体覚えたてのぎこち無い物を想像するよね…
『そ、そうですか?役に立てなら良かったですよ…それで休憩後の私達は何をすれば良いですかね』
「開店前のやる事は、もう特に無いから後は開店後の接客と臨時でヘイソンさんの代わりや、お願いを聞いて動く事位ですかね」
…デンクさん雑用にしては結構踏み込んでますね…まるでオーナー見習いの様な…
『雑用にしては忙しい気がするのですがいつもそんな事やってるんですか?』
「そうですね…普通の雑用なら就きたい職のお手伝いだけで良いのですが、僕の場合はヘイソンさんの様なお店を持つ事が夢なので…無理言って学ばせて貰ってるんですよ…」
『無理なモノなのかな?ヘイソンさんなら平然とこなしてくれそうですが』
「ほら、ヘイソンさんには息子さんのフィルソン君が居るじゃ無いですか。熱を注ぐなら息子さんを優先するでしょうし、それにフィルソン君は僕よりも仕事が出来ますし執務のお手伝いもしてますからね。ヘイソンさんは二人の見習いを引き受けてる様なものですよ」
…あぁそう言えばそんな奴居たな…見ないと思ったら執務で書類と戦ってるのね…
…それにしても見習い二人ですか。確かに負担を考えるとデンクが無理してお願いした形になっちゃうのかもね…私はデンクの見方だよ!!負けるなデンク!!…
そんな事を考えながら各お店が開店していき、ラキュアは掃除道具を片付けお客の対応をする事になった。
しかし、ラキュアの元に人だかりが出来てしまい店内で邪魔だと言われ、大人しく食堂のお手伝いに向かわされたのであった。
『そんな事がありましてね、ビルビンさんの食堂の手伝いに来たんですよ…酷いですよねヘイソンさんは…まるで私が悪いみたいじゃないですか…』
トントントントン!!
『はいこれ、お肉を乗せる為の野菜です』
「お、おう…だが、まぁ店の中央でお嬢ちゃんが捕まり揉みくちゃにされてたんじゃ仕方ないよね…」
『ビルビンさんまで!!私そもそも何もしてなかったのにぃ!!』ッササ ショトン ジュジュ―
「そ、それにしてもラーちゃん、君は料理した事があったのかい?凄いねこの野菜のきめ細かい斬り方と言い鍋の使い方と言い…暇だから1から教えるつもりで野菜を斬らせるつもりだったのによ…」
『え?…あ!!!!!!えっとこれはその!!』
…先ほどの出来事でむしゃくしゃして、無意識に手が動いていたよ!!どうしよう…
1人暮らしが長かったラキュアが自活の為に覚えた料理スキルが知らない内に発動していたのである。
「これなら心強いですね…それじゃあこのまま少しお手伝いしてもらいましょうかね…」
…追及されなくてよかった…言い訳大変だからね…
ラキュアは食堂に客が来るまでの間、ビルビンによる野菜の斬り方教室が始まる筈が、思わぬ技量により厨房の手伝いに駆り出された。1階お店のチケットにより食堂に客が訪れ出し、接客に回るラキュアは揉みくちゃの不安を過ったが、食事処で騒ぎ立てる人は居なく、軽く話しかけるだけで済みホットしながらも注文や配膳をしながら厨房に出入りしている内に昼を迎えた。
『ビルビンさん私そろそろお店に向かいますね!!』
「そうかい、有り難うな。中々好評だったから惜しいのだがね!!行ってくると良い」
「ラーちゃんもう行っちゃうの?また飲み物頼みたかったのに残念だわ!!」
「私もラーちゃんに運んでほしかったのよ!!」
「ラーちゃんが焼いたお肉頼みたかったのにぃ」
そんな主婦達の声を後に大鎌ブースへと向かったラキュアは驚きの光景を目にしてしまった。
「おう嬢ちゃん遅いじゃねーか。見ろよこの人の列を」
『ななな、何ですかこれ…』
「何ですかって…これ全部嬢ちゃんのお客だぞ?お昼に合わせてどんどん人が並んで来やがってよ。フロアを探し回っても居ないから待ってて貰ってたんだわ」
『そ、そんな…ごめんなさい私食堂のお手伝いしていましたので…』
「道理で居ない訳だな。さて切断業でも始めるとするか」バササササー
垂れ幕が上がると同時に歓喜の声が響き人が詰めて来た。
「お嬢ちゃん持ってきたぞ!!コイツを是非斬って欲しい!!」
「ラーちゃんお願いね!!この金庫の鍵無くしちゃってね…」
「ワシの店で使う石壁なんだが少々硬くてな…この積み荷の分だけ頼む」
「ラーちゃんに会いに旦那の下らないコレクションを斬りに来たわよ!!」
「チケットを旦那に渡して呼んで来たの、是非挑戦させてね♪」
「へっへっへ。この力自慢の俺様が大鎌を貰ってやるぜ!!」
「バカか!!俺が先だ!!」
「昨日はダメだったが、今日こそは俺の手で持ち上げて見せる!!」
一斉に声が掛かり捌ききれないラキュアは困惑していたが、アゴンが助け船を出してくれた。
「こらこら、お嬢ちゃんが困ってるぞ、それとお前等、ちゃんと並んどけよな…後ろの列に戻すぞ?」
「これはこれは…」「仕方ないか」「俺の順番抜かされるかと冷や冷やしたぜ…」
上手く纏めたアゴンにより、大鎌ブースの行列を一人ずつ捌きだしたラキュア。料金の受け取り間違いは無く、手早く清算を済ませながら切断作業を眺めていた。
「本当に凄いなこの大鎌は、まさか石がこんな綺麗に斬れるとは思わなかったぞ…」
「噂は本当だったのね…これなら旦那も欲しがるに違いないわ」
「並び疲れたが待った快は有ったぜ…これで作業が捗る」
それぞれの感想をラキュアに延べ帰って行く。そんな一連の流れもとうとう終わりが近づいて来た。
『どうしよう時間が…』
「そうだな、少しだけ延長して列を停め、途中から来た人には明日来てもらうようにするか…」
『折角持ってきて貰ったのに…』
「まぁ仕方ねぇさ…重たい物に関してはコチラで預かる算段でも立ててみるわ」
『アゴンさんすみません…助かります』
アゴンが列に区切りをつけ、漏れた客と交渉をし、ヘイソンがそれに掛け合い、デンクとフィルソンが荷物を倉庫に保管をする。そんなやり取りを済ませその日の営業は終わった。
「みんな~お疲れ様。今日は一段と忙しかったですね…食事を済ませてゆっくり休んで下さいね」
「確かにいつも以上に人が多かったからな…」
「私の所はチケット求めて規定額まで購入してくれる客がいて中々良い繁盛でしたわ」
「ラーちゃんお手伝い有り難うね。僕は逆に楽だったかよ」
『いえいえ、今日は色々なお店で学ばせて貰いました。デンクさんにも皆さんにも感謝です』
ヘイソンがいつもの様に住居人に声をかけ、たわい無い会話をし、此処での変わらない毎日の流れにラキュアも乗り眠りに付く。
「見てくれヘイソン」
「何だいビルビン、いつもの夜食じゃないか」
「おや、いつもの夜食に見えるんだね?そうかそうか」
「どういう事だ?別に味も可笑しくないぞ?」あむあむ
「そうかそうか…味も可笑しくないのか…実はなこれ、あそこの厨房にいるラキュアが作ったんだよ」
「…なっ!!!!」カチャン!!
後から食堂に来たヘイソンは驚愕な事実により、噛み砕く口は止まり握ったフォークを落としていた。




