第四十八話 巨獣、散る
灰色の森。
アミムトと赤の武闘家が、最後の距離を詰めていた。
「来い!」
アミムトが吠える。
「これで終わりだ!」
巨体が大地を蹴る。
地面が大きく陥没した。
赤の武闘家は、静かに息を吸った。
「……終わらせる」
赤いチャクラが全身を駆け巡る。
アミムトの前足が迫る。
ドォン!
赤は受け止めた。
「ぐっ……!」
凄まじい衝撃。
腕が震える。
足が地面へ沈む。
それでも――
「止めない……!」
赤はアミムトの力を受け入れる。
その勢いを身体へ流す。
肩へ。
背中へ。
腰へ。
脚へ。
そして――
拳へ。
「流して……!」
赤いチャクラが激しく燃え上がる。
「転化する!」
アミムトが目を見開く。
「また、その技か!」
「そうだ!」
赤が身体を回転させる。
アミムトの巨大な力が、赤の回転へ重なる。
「貴様の力も――!」
拳を引く。
「俺の力だ!」
赤の拳が放たれた。
ドォォォォォン!
凄まじい衝撃が森を駆け抜ける。
「グオオオオオオオオッ!」
アミムトの巨体が大きく吹き飛ぶ。
地面を削りながら転がり――
最後には巨大な岩へ激突した。
轟音。
土煙。
そして――
静寂。
「……終わった?」
緑の弓使いが呟く。
青の槍使いがじっと土煙を見る。
白の剣士は剣を構えたまま、アミムトの姿を見つめていた。
やがて――
土煙の中から、巨大な身体がゆっくりと崩れた。
ズズン……。
アミムトは動かない。
その身体から灰色の霧が溢れ出す。
「……見事だ」
かすかな声。
赤の武闘家が顔を上げる。
「アミムト……」
「我の力を……」
アミムトの身体が少しずつ灰色の粒へ変わっていく。
「己の力へ変えるとは……」
その目が赤の武闘家を見る。
「認めよう……」
アミムトの姿が薄れる。
「貴様は……強い」
最後の言葉とともに――
灰色の霧が風に散った。
アミムトは消えた。
森に静けさが戻る。
赤の武闘家は、しばらく動かなかった。
そして――
「……勝った」
ぽつりと呟く。
拳を見る。
そこには、まだ小さな赤い光が残っていた。
「俺……」
赤の武闘家の顔が、少しずつ緩む。
「勝ったんだな……」
満面の笑み。
子供のような、嬉しそうな笑顔だった。
「やった……!」
白の剣士が笑う。
「ああ。やったな」
緑の弓使いも駆け寄る。
「すごかったよ!」
青の槍使いも頷く。
「最後の一撃……見事だった」
赤は三人を見る。
「みんな……」
満面の笑みを浮かべたまま――
「ありが――」
ふらっ。
「……え?」
赤の身体が傾く。
白が慌てて支える。
「赤!」
赤の武闘家は目を閉じていた。
「……寝た?」
緑の弓使いが顔を覗き込む。
すう……。
すう……。
穏やかな寝息。
青の槍使いが苦笑する。
「気を失った……というより」
「完全に疲れ果てて眠ったな」
白が言った。
赤の顔には――
まだ満面の笑みが残っている。
白は小さく笑った。
「よく頑張ったな」
緑の弓使いが周囲を見る。
灰色だった森。
その一部に、緑が戻っている。
青の水も、少しずつ透明さを取り戻していた。
「アミムトを倒したから……」
青の槍使いが呟く。
「世界の色が、また戻り始めている」
白の剣士は黒の居城を見た。
「ワーグも倒した」
「アミムトも」
緑が続ける。
そして残る魔獣は――
「アエロー」
青が空を見上げる。
灰色の雲の向こう。
そこに、一瞬だけ巨大な鳥の影が見えた。
羽ばたき。
灰色の羽根が一枚、ゆっくりと落ちてくる。
白の剣士が剣を握る。
「……次は空か」
緑が弓を背負う。
「今度は、逃げられないようにしないとね」
青が槍を構える。
「そして、その先には黒の居城」
三人は眠っている赤を見る。
赤は何も知らず、穏やかな寝息を立てている。
白が笑った。
「……こいつが起きるまで、少し休もう」
四人は、しばしその場に留まった。
灰色だった森に――
小さな緑が芽吹いていた。




