第四十七話 巨獣の一撃
森を揺らす咆哮。
「グオオオオオッ!」
アミムトが突進する。
赤の武闘家は、その場から動かなかった。
「……来い」
巨大な前足が振り上げられる。
そして――
振り下ろされた。
ドォォォン!
大地が砕ける。
赤は寸前で横へ流れた。
アミムトの攻撃は地面へめり込み、巨大な亀裂を走らせる。
「今だ!」
赤が前足へ触れる。
受ける。
流す。
そして――
「返す!」
身体を回転させ、拳を叩き込む。
ドンッ!
「グオッ!」
アミムトがよろめく。
だが――
「この程度か!」
アミムトが身体をひねる。
巨大な後ろ脚が横薙ぎに振られた。
「なっ!」
赤は腕で受ける。
ドォン!
身体が吹き飛ぶ。
「ぐあっ!」
地面を転がり、赤は膝をついた。
「赤!」
白の剣士が叫ぶ。
「来るな!」
赤は立ち上がる。
「まだ終わってない!」
アミムトが笑う。
「どうした、小さき者よ!」
巨獣が大地を踏み鳴らす。
「貴様の奥義とやらは、その程度か!」
「……違う」
赤は息を整える。
「まだ、俺が使いこなせてないだけだ」
アミムトが再び迫る。
右前足。
赤はかわす。
左。
流す。
後ろ脚。
受ける。
だが――
「くっ!」
アミムトの動きは予想以上に速い。
赤の身体に何度も衝撃が入る。
チャクラの光が弱まっていく。
「赤!」
緑の弓使いが叫ぶ。
赤は答えない。
ただ、アミムトを見ていた。
攻撃。
呼吸。
重心。
脚の動き。
前足が振られる前の肩の揺れ。
後ろ脚へ力が集まる瞬間。
すべてを観察する。
「……分かった」
赤が呟いた。
アミムトが眉をひそめる。
「何が分かった?」
「お前の力は、ただ強いだけじゃない」
赤の目が鋭くなる。
「全部、流れがある」
「流れだと?」
「ああ」
赤は構えた。
「力を出す前に、必ず身体が動く」
アミムトが吠える。
「ならば読んでみろ!」
突進。
赤は動かない。
「右前足……!」
かわす。
「次は左!」
流す。
「後ろ脚!」
跳ぶ。
「そして――」
アミムトが身体を回転させる。
「頭!」
赤が身を沈める。
巨大な頭が頭上を通過する。
「今!」
赤がアミムトの首元へ手を添える。
力を受ける。
身体を回す。
そのまま勢いを拳へ集める。
「返す!」
ドォン!
アミムトの身体が大きく揺れた。
「グオオッ!」
しかし、倒れない。
赤は息を切らしていた。
「まだ……足りない」
アミムトが怒りの咆哮を上げる。
「ならば、これで終わりだ!」
アミムトが距離を取る。
巨体が沈む。
全身の灰色の霧が一点へ集まっていく。
大地が震える。
「来るぞ……」
白の剣士が呟く。
緑の弓使いが弓を握る。
「赤、大丈夫なの?」
青の槍使いも前へ出ようとする。
「俺たちも――」
「大丈夫だ!」
赤が叫んだ。
アミムトの全身が、灰色の光に包まれる。
「グオオオオオオオオッ!」
巨獣が突進した。
これまでとは比べ物にならない速度。
巨大な前足が迫る。
赤は逃げない。
「この一撃を……」
両足を地面へ踏み込む。
赤いチャクラが全身を巡る。
「受ける!」
アミムトの前足が迫る。
「そして――」
寸前。
赤の身体が沈む。
前足へ両手を添える。
ドォォォン!
衝撃。
地面が砕ける。
赤の身体が押し潰されそうになる。
「ぐ……!」
だが、耐える。
アミムトの力が腕から身体へ流れ込む。
その力を止めない。
逃がさない。
自分の身体の中で回転させる。
「流せ……!」
赤いチャクラが強くなる。
「もっと……!」
さらに力を回す。
「もっとだ!」
赤い光が爆発する。
アミムトの巨大な力が、赤の身体を駆け抜ける。
そして――
「全部……!」
赤の武闘家が身体を回転させた。
「俺の力に変える!」
巨大な前足の勢い。
突進の速度。
身体の重量。
そのすべてを利用して――
「奥義――!」
赤の拳がアミムトへ向かう。
「まだ名はない!」
ドォォォォン!
拳がアミムトの胸へ直撃した。
「グオオオオオオオッ!」
巨獣の身体が浮く。
そのまま地面を転がり――
巨大な岩へ激突した。
森が静まり返る。
赤は片膝をついていた。
拳から赤い光が消えていく。
「……できた」
白の剣士が駆け寄る。
「今のは……凄かった」
緑の弓使いも目を見開いている。
「アミムトの力が、そのまま赤の攻撃になっていた」
青の槍使いが頷く。
「これが武闘の奥義……」
赤はゆっくり立ち上がる。
「まだ完成じゃない」
拳を見る。
「でも、分かった」
そのとき――
瓦礫の中から声が響いた。
「……まだだ」
四人が振り向く。
アミムトが立ち上がる。
身体には大きな亀裂。
それでも、その目にはまだ力が残っていた。
「我は……まだ倒れてはいない」
アミムトが口を開く。
「次の一撃で……貴様を喰らう」
赤の武闘家は拳を構え直した。
「なら――」
赤いチャクラが再び燃える。
「次で決める」
アミムトが吠える。
「来い!」
赤も吠えた。
「おおおおおっ!」
二つの影が、再び激突する。
今度こそ――
決着の時が迫っていた。




