第四十六話 流転の拳
巨大な前足が、赤の武闘家へ迫る。
「グオオオオオッ!」
アミムトの咆哮。
赤の武闘家は逃げなかった。
「……来い!」
前足が振り下ろされる。
ドォン!
地面が砕ける。
しかし――
そこに赤の姿はなかった。
「何!?」
アミムトが顔を上げる。
赤は、前足の勢いに合わせるように身体を滑らせていた。
腕に触れる。
押さない。
止めない。
ただ、流す。
「これだ……!」
アミムトの巨大な力が、そのまま赤の身体を回転させる。
赤いチャクラが渦を巻いた。
「俺の力だけじゃない!」
回転の勢いを拳へ集める。
「お前の力も――借りる!」
ドンッ!
拳がアミムトの脇腹へ叩き込まれる。
「グオッ!」
巨体が横へよろめいた。
赤の武闘家は着地する。
「やっぱりだ……」
拳を見つめる。
「相手の力が大きいほど、俺の攻撃も強くなる」
アミムトが立ち上がる。
「……小賢しい!」
怒りに任せ、両前足を振り回す。
「ならば、その技ごと潰す!」
右。
左。
右。
左。
凄まじい連撃。
赤は一撃ずつ避けていく。
流す。
回る。
受ける。
そして――
「返す!」
一撃。
アミムトの身体が揺れる。
「ぐっ……!」
さらに二撃。
「返す!」
ドンッ!
三撃。
「返す!」
ドォン!
アミムトが後退する。
遠くで見ていた白の剣士が目を見開く。
「赤……!」
緑の弓使いも驚く。
「さっきまでとは動きが違う」
青の槍使いが頷く。
「あれは攻撃を避けているんじゃない」
「……利用している」
白が呟いた。
赤の武闘家は、アミムトの攻撃そのものを自分の力へ変えていた。
アミムトが唸る。
「その動き……!」
赤を睨む。
「我の力を利用するとは、なんという不遜!」
「お前が力をくれるんだろ?」
「戯言を!」
アミムトが大地を踏み鳴らす。
ドン!
地面が大きく揺れる。
「ならば、この一撃を受けてみろ!」
アミムトが大きく身体を引く。
全身の力を、右前足へ集める。
「グオオオオオッ!」
巨大な腕が振り下ろされる。
赤の武闘家は構えた。
しかし、白が叫ぶ。
「赤! 危険だ!」
「分かってる!」
「避けろ!」
「いや!」
赤は動かない。
「この攻撃を――」
赤いチャクラが身体を包む。
「使う!」
アミムトの前足が迫る。
寸前。
赤の武闘家は身体を半歩だけずらした。
前足が肩をかすめる。
「ぐっ!」
凄まじい衝撃。
しかし倒れない。
赤は前足へ手を添える。
「受ける……!」
足を踏み込む。
「流す!」
身体を回す。
「そして――」
アミムトの巨大な力が赤の身体を回転させる。
赤いチャクラが渦巻く。
「返す!」
拳が唸る。
ドォォォン!
「グオオオオッ!」
アミムトが吹き飛ぶ。
巨体が地面を何度も転がった。
土煙が上がる。
赤は息を切らしながら立っていた。
「……できた」
白の剣士が駆け寄る。
「今のは……」
「相手の攻撃を、自分の攻撃へ変えた」
赤が拳を握る。
「ただ避けるんじゃない」
緑の弓使いが続ける。
「受け止めて、その力を利用する」
「そうだ」
青の槍使いが感心する。
「武闘の新しい境地だな」
赤は頷いた。
「師匠から聞いたことがある」
三人が赤を見る。
「相手の力を借りて、自分の力に変える技――」
赤の拳に、赤いチャクラが集まる。
「武闘の奥義」
赤はアミムトを見る。
「まだ完全じゃないけど……」
拳を握る。
「ようやく入口に立てた」
そのとき――
土煙の中から、アミムトが立ち上がった。
「……入口?」
低い声。
「我を踏み台にして……奥義を得たというのか」
アミムトの身体から、灰色の霧が噴き出す。
「認めぬ!」
巨体がさらに膨れ上がる。
地面が割れる。
「我は魔獣アミムト!」
咆哮が森を震わせる。
「貴様ごと、すべて喰らい尽くす!」
赤の武闘家が構える。
「望むところだ」
白が隣に立つ。
「俺たちも援護する」
緑が弓を引く。
「今度は四人で」
青が槍を構える。
「決着をつけよう」
赤は三人を見る。
そして、アミムトへ向き直る。
「……いや」
三人が赤を見る。
「こいつには――」
赤の身体から赤いチャクラが静かに燃え上がる。
「俺が自分で決着をつける」
白はしばらく赤を見つめ――
「分かった」
剣を下ろした。
「ただし、危なくなったら助ける」
「それで十分だ」
緑と青も後ろへ下がる。
アミムトが笑う。
「一人で我に挑むか!」
「ああ」
赤が拳を構える。
「今の俺なら――」
アミムトが吠える。
赤も踏み込む。
「お前の力を、全部返してやる!」
二つの巨影が激突する。
拳と前足。
赤と灰色。
その瞬間――
赤の身体に、これまでとは違う赤い光が走った。
力を受ける。
流す。
転化する。
そして――
自らの一撃として返す。
赤の武闘家は、ついに奥義の核心を掴み始めていた。




