第四十五話 巨獣、再び
灰色の森を、地鳴りが揺らしていた。
ドン……。
ドン……。
ドン……。
木々の向こうから、巨大な影が現れる。
ワニのような顔。
ライオンのような前足。
カバのような後ろ脚。
巨体から灰色の霧を漂わせる異形の魔獣――アミムト。
「……アミムト」
緑の弓使いが呟く。
青の槍使いも、槍を握り直した。
「以前より……大きくなっていないか?」
白の剣士が剣を構える。
その隣で、赤の武闘家が一歩前へ出た。
「こいつは……俺に任せてくれ」
白が赤を見る。
「一人で戦うつもりか?」
「ああ」
赤は拳を握る。
「こいつとは、俺自身の力で決着をつけたい」
アミムトが鼻を鳴らした。
「グルル……」
そして、低い声を響かせる。
「また、お前か」
赤の武闘家が顔を上げる。
「覚えていたか」
「忘れるものか」
アミムトの口が歪む。
「赤い色……貴様の色は、よく覚えている」
「なら、話が早い」
赤が構える。
「今度こそ倒す」
アミムトが笑う。
「倒す?」
巨体がゆっくりと沈む。
「小さき獣が……我を?」
ズンッ。
大地が震える。
「身の程を知れ!」
「来い!」
赤の身体から赤いチャクラが燃え上がった。
アミムトが突進する。
「グオオオオオッ!」
巨大な前足が振り下ろされる。
「くっ!」
赤は横へ飛ぶ。
ドォン!
地面が砕け、土煙が舞う。
「速い……!」
着地した瞬間、今度は後ろ脚が迫る。
「おっと!」
赤が身体を低くしてかわす。
その頭上を、巨大な脚が通り過ぎた。
「まだまだ!」
アミムトが身体をひねる。
「逃がさん!」
巨体から想像できないほど素早い一撃。
赤は両腕を交差して受け止めた。
ドォン!
「ぐっ!」
身体が後方へ吹き飛ぶ。
地面を何度も転がり、ようやく止まる。
「赤!」
緑が叫ぶ。
「来るな!」
赤は立ち上がった。
口元を拭う。
「これは……俺の戦いだ」
アミムトがゆっくりと近づく。
「どうした?」
赤を見下ろす。
「もう終わりか?」
「まだだ」
「ならば立て」
アミムトが吠える。
「立ち上がり、我を楽しませてみろ!」
赤の目が鋭くなる。
「……言われなくても!」
再び駆ける。
「おおおっ!」
拳を叩き込む。
ドンッ!
アミムトの顔面に直撃。
しかし――
「ぬるい!」
アミムトは微動だにしない。
赤の拳が弾かれた。
「くそっ!」
左。
右。
蹴り。
連続攻撃。
だが、アミムトの巨体は揺れない。
「その程度か!」
アミムトが前足を振る。
赤がかわす。
「逃げるだけか!」
もう一撃。
「ならば、潰す!」
赤が跳ぶ。
その足元を巨大な前足が通り過ぎた。
「危なっ……!」
着地した瞬間。
アミムトが後ろ脚を踏み込む。
「グオッ!」
地面が揺れる。
「うわっ!」
赤がバランスを崩した。
そこへ巨大な頭が迫る。
「しまっ――」
ドォン!
赤の身体が吹き飛んだ。
木を何本もなぎ倒し、地面へ転がる。
「赤!」
白が剣を握る。
だが、赤は立ち上がった。
「……来るなって言っただろ」
息を切らしながら笑う。
アミムトが言った。
「なぜ立つ?」
「決まってる」
赤は拳を構える。
「勝つためだ」
「愚かな」
アミムトが鼻を鳴らす。
「我は巨獣。貴様は小さき人間」
大地を踏み鳴らす。
「力の差は明らかだ」
「……力の差」
赤はアミムトを見る。
巨大な身体。
圧倒的な重量。
そして――
その力を利用した攻撃。
「そうか……」
赤が呟いた。
「力が大きすぎるんだ」
アミムトが眉をひそめる。
「何を言っている?」
赤はアミムトの動きを見る。
右前足。
左前足。
後ろ脚。
身体の回転。
すべての攻撃に、巨大な力が乗っている。
「真正面から受けたら、俺は負ける」
「ようやく理解したか」
アミムトが笑う。
「ならば逃げろ」
「いや」
赤は首を振った。
「逆だ」
「何?」
「お前の力を――」
赤の目が変わった。
「利用する」
アミムトが吠える。
「ふざけるな!」
巨大な前足が振り下ろされる。
「受けてみろ!」
赤は動かない。
寸前まで待つ。
「……まだ」
前足が迫る。
「まだ……」
地面が震える。
「今!」
赤は身体を横へ滑らせた。
前足が地面へめり込む。
その腕へ、赤の手が触れる。
「押さない」
身体を回す。
「逆らわない」
アミムトの力に合わせる。
「流す!」
巨大な前足が、その勢いのまま横へ流れていく。
「なにっ!?」
アミムトが驚く。
赤の身体が回転する。
赤いチャクラが一気に拳へ集まった。
「そして――!」
拳がアミムトの身体へ叩き込まれる。
ドンッ!
「グオオッ!」
アミムトの巨体が初めて揺れた。
赤自身も驚く。
「効いた……!」
アミムトが顔を上げる。
「貴様……今、何をした?」
「分からない」
赤は拳を見る。
「でも……感じた」
アミムトが再び構える。
「ならば、もう一度だ!」
巨大な前足が迫る。
赤は避ける。
受ける。
流す。
そして――
拳へ変える。
「これだ!」
赤の身体が、まるで水のように動く。
アミムトが力を込めれば込めるほど、赤の攻撃も強くなる。
「馬鹿な!」
アミムトが叫ぶ。
「我の力を……利用しているだと!?」
「そうだ!」
赤が笑う。
「止めるんじゃない!」
アミムトの攻撃を流す。
「逆らわない!」
身体を回す。
「その力を――!」
赤いチャクラが爆発する。
「俺の攻撃に変える!」
アミムトが吠える。
「その技……何という!」
赤は構える。
「まだ名前なんてない」
拳を握る。
「でも――」
アミムトの巨大な腕が、再び迫ってくる。
赤は真正面から見据えた。
「これが、俺の武闘だ!」
次の瞬間――
巨大な前足と、赤い拳が交差した。
森を揺らす轟音が響き渡った。




