第三十九話 黒の森へ
翌朝。
四人は、黒の居城を目指して歩き始めた。
先頭に白の剣士。
その少し後ろを、緑の弓使いと青の槍使い。
最後尾には赤の武闘家。
昨日まで、それぞれ別々に歩いていた四人。
今は――
同じ道を進んでいる。
「……妙な感じだな」
赤の武闘家が呟いた。
「何が?」
緑の弓使いが振り返る。
「昨日まで一人だったのに、今日は三人もいる」
「僕も同じことを思っていた」
青の槍使いが笑う。
白の剣士は前を向いたまま言った。
「慣れるまで時間がかかるかもしれないな」
「そのうち慣れるさ」
赤が答えた。
四人の前に広がっているのは――
巨大な森だった。
木々は黒く、葉は灰色。
かつて緑だったはずの森は、ほとんど色を失っている。
森の奥には、黒の居城へ続く道がある。
緑の弓使いが足を止めた。
「……この森は、僕が先に行く」
「分かるのか?」
白の剣士が尋ねる。
「森なら、まだ分かる」
緑の弓使いは木々を見上げた。
「灰色になっていても、木々の形や風の流れは残っている」
目を閉じる。
風が吹く。
枝が揺れる。
葉が擦れる。
「……右だ」
緑の弓使いが歩き出す。
「右に進めば、古い道がある」
三人が続く。
しばらく進むと、確かに細い道が現れた。
「すごいな」
赤の武闘家が感心する。
「森のことなら任せて」
緑の弓使いが少し得意そうに答える。
そのとき――
ガサッ。
茂みが揺れた。
四人が止まる。
「敵か?」
青の槍使いが槍を構える。
しかし、茂みから出てきたのは――
一匹の小さな鹿だった。
灰色の身体。
怯えた目。
「……」
緑の弓使いが弓を下ろす。
「大丈夫だ」
ゆっくり近づく。
鹿は逃げようとしない。
その身体には、ほんのわずかに――
緑色が残っていた。
「まだ色が残っている」
白の剣士が呟く。
緑の弓使いがそっと手を伸ばす。
「森には、まだ生きているものがいる」
鹿は緑の弓使いを見つめた。
そして――
森の奥へ走っていった。
「……行こう」
緑の弓使いが言った。
「この森にも、守るものがある」
* * *
森を進んでしばらくすると――
突然、木々の間から灰色の兵士が飛び出してきた。
「来るぞ!」
青の槍使いが叫ぶ。
数十体。
四人はすぐに構えた。
「囲まれる前に抜ける!」
白の剣士が前へ出る。
剣を振る。
灰色の兵士が倒れる。
赤の武闘家が横から飛び込む。
「道を開ける!」
拳が炸裂する。
緑の弓使いは木の上へ飛び上がった。
「上は任せて!」
矢が次々と放たれる。
青の槍使いは最後尾を守る。
「後ろから来ている!」
槍を振り、兵士たちを押し返す。
四人の連携は、昨日よりさらに自然になっていた。
「白、左!」
「分かった!」
「赤、前!」
「任せろ!」
「青、後ろ!」
「了解!」
戦いながら、四人は森の奥へ進んでいく。
やがて――
兵士たちが途切れた。
「……終わったか」
赤の武闘家が息を吐く。
しかし緑の弓使いが、森の奥を見る。
「違う」
「何?」
「敵は……僕たちを追い込んでいる」
白の剣士が周囲を見る。
「……そういうことか」
森の先。
木々が途切れている。
そこには――
巨大な崖。
そして、その向こうに黒の居城が見えた。
「近い……!」
青の槍使いが目を見開く。
だが、喜ぶ暇はなかった。
背後から――
低い咆哮が響く。
グルルルル……。
四人が振り返る。
木々の向こう。
灰色の霧が集まっている。
「……また魔獣か」
赤の武闘家が拳を握る。
白の剣士が剣を構えた。
「いや」
緑の弓使いが呟く。
「これは……」
霧の奥から、巨大な影が現れる。
四人は息を呑んだ。
昨日、アミムトが言っていた。
――次は、四色を分断しろ。
その言葉が頭をよぎる。
影が四人を見据える。
そして――
森の奥から、四方向へ灰色の霧が伸び始めた。
「まずい!」
青の槍使いが叫ぶ。
霧が四人の間へ入り込む。
「離れるな!」
白の剣士が叫ぶ。
赤の武闘家が手を伸ばす。
「全員、俺の近くへ!」
だが――
地面が大きく揺れた。
ドォン!
四人の足元が崩れる。
「うわっ!」
「青!」
「緑!」
「白!」
互いの手を伸ばす。
しかし――
灰色の霧が視界を完全に覆った。
最後に聞こえたのは――
「絶対に離れるな!」
白の剣士の声だった。
次の瞬間。
四人の姿は、灰色の霧の中へ消えた。
黒の森に――
四色の叫び声だけが残った。




