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BLACK EATER ―色を喰らう魔王と、四色の英雄―  作者: まーサンタ
第五部 四色の邂逅

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第三十八話 四色、ひとつの道


 峡谷に、静けさが戻っていた。


 先ほどまで響いていた戦いの音は、もう聞こえない。


 崩れた岩。


 灰色の霧。


 地面に残された無数の足跡。


 その中に、四人の英雄が立っていた。


「……終わったな」


 赤の武闘家が息を吐く。


 緑の弓使いが周囲を見渡す。


「村人たちは?」


「大丈夫だ」


 白の剣士が答える。


「俺たちが戦っている間に、峡谷の向こうへ逃げていった」


「そうか」


 青の槍使いが頷いた。


「ならば、ひとまず安心だ」


 四人は、それぞれ武器を下ろした。


 だが――


 白の剣士がふらついた。


「……!」


 赤の武闘家がすぐに支える。


「大丈夫か?」


「ああ……少し、疲れただけだ」


 しかし、赤の武闘家は白の剣士の腕を見る。


 そこには、再び灰色の筋が浮かんでいた。


「……侵食が進んでいる」


 緑の弓使いが眉を寄せる。


「灰色に?」


「ああ」


 白の剣士が自分の腕を見る。


「戦えば、どうしても進む」


 赤の武闘家が背後へ回る。


「座れ」


「またチャクラを?」


「ああ」


 白の剣士は素直に腰を下ろした。


 赤の武闘家が両手を背中へ当てる。


 ゆっくりと呼吸する。


 赤い光が生まれた。


 それが手のひらから白の身体へ流れていく。


「……!」


 白の剣士の身体が淡く輝く。


 白い光が、灰色を包み込む。


 灰色の筋が少しずつ薄くなっていく。


「すごい……」


 緑の弓使いが呟く。


「色が戻っている」


 青の槍使いも静かに見つめていた。


「赤の力は、他の色を活性化できるのか」


「まだ分からない」


 赤の武闘家が答える。


「ただ、白には効くらしい」


 しばらくして、赤の武闘家が手を離した。


「これ以上はやめておこう」


 白の剣士が立ち上がる。


「助かった」


「礼はいい」


 赤の武闘家は笑う。


「仲間なら当然だ」


 その言葉に――


 三人が一瞬、赤を見る。


「……仲間?」


 緑の弓使いが言った。


「ああ」


 赤の武闘家が何でもないように答える。


「違うのか?」


 白の剣士が少し笑った。


「いや」


 青の槍使いも頷く。


「俺は異論ない」


 緑の弓使いが肩をすくめる。


「僕も」


 四人の間に、初めて穏やかな空気が流れた。


* * *


 その夜。


 四人は峡谷の外で焚き火を囲んでいた。


 炎が揺れる。


 白、緑、青、赤。


 それぞれの色が、炎の明かりに照らされている。


「そういえば」


 赤の武闘家が口を開く。


「俺たちは、お互いのことをほとんど知らないな」


「確かに」


 緑の弓使いが頷く。


「僕は森から来た」


「俺は川を辿ってきた」


 青の槍使いが続ける。


「赤は?」


「火山近くの寺院で修行していた」


 赤の武闘家が答える。


 そして――


 三人の視線が白へ向いた。


「……俺は」


 白の剣士が炎を見る。


「最初から一人だった」


 灰色の兵士たち。


 色を失った町。


 戦い続けた日々。


 そして、自分自身の身体を蝕む灰色。


 白の剣士は、これまでの旅を話した。


 緑も自分の旅を語った。


 森を守ったこと。


 動物たちを逃がしたこと。


 灰色の侵食から村を救ったこと。


 青も語った。


 川沿いの町。


 水を求める人々。


 激流の中での戦い。


 そして、アエローとの戦い。


 赤も、自分の旅を話した。


 火山の寺院。


 チャクラの修行。


 ワーグとの戦い。


 灰色の兵士たちとの戦い。


 四人は、互いの話を聞いた。


 そして気づいた。


 それぞれが――


 別々の場所で、同じように戦っていたことに。


「……不思議だな」


 緑の弓使いが言う。


「僕たちは誰にも頼まれていないのに、同じ方向へ向かっていた」


 青の槍使いが黒の居城を見る。


「魔王を止めるためだ」


 白の剣士が頷く。


「俺たちは、それぞれ一人で戦ってきた」


 赤の武闘家が拳を握る。


「でも、もう一人じゃない」


 四人の視線が重なる。


「黒の居城へ行こう」


 白の剣士が言った。


「四人で」


「賛成」


 緑の弓使い。


「異論はない」


 青の槍使い。


「決まりだな」


 赤の武闘家。


 四人は立ち上がった。


 黒の居城を見る。


 その姿は、夜空の向こうに巨大な影として浮かんでいる。


「明日から、あの城を目指す」


 白の剣士が言う。


「途中に何があっても」


 緑の弓使い。


「人々を助けながら進む」


 青の槍使い。


「敵が来たら、全員で戦う」


 赤の武闘家。


 白の剣士が笑った。


「頼もしいな」


「お互い様だ」


 赤が笑う。


 その夜。


 四人は初めて、同じ焚き火を囲んで眠った。


 そして――


 遠く離れた黒の居城。


 最上階から、黒の魔王が夜空を見上げていた。


 遥か彼方。


 四つの色が、小さく輝いている。


「白……」


 黒の魔王が呟く。


「緑……青……赤……」


 四つの光を見つめる。


「四色が揃ったか」


 その背後。


 巨大な扉が、ゆっくりと開いた。


 ゴゴゴゴゴ……。


 闇の奥から――


 巨大な影が現れる。


 まだ、その姿は見えない。


 黒の魔王が静かに告げた。


「ならば――」


 影が動く。


「次は、四色を分断しろ」


 黒の居城に、低い咆哮が響き渡った。


 その頃。


 焚き火の前では、四つの色が静かに揺れていた。


 白。


 緑。


 青。


 赤。


 世界から奪われた色を取り戻すため――


 四色の英雄は、初めて同じ道を歩き始めた。

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