第三十七話 四色の反撃
峡谷に、戦いの音が響き渡った。
灰色の兵士たちが押し寄せる。
その中央を、アミムトが突き進んでくる。
「来るぞ!」
白の剣士が叫ぶ。
緑の弓使いが矢を放った。
ヒュッ!
矢は先頭の兵士の武器を弾き飛ばす。
続けて二本。
三本。
灰色の兵士たちの足元へ次々と突き刺さる。
「今だ!」
青の槍使いが駆ける。
槍を大きく振り、道を切り開く。
「はあっ!」
その横を白の剣士が駆け抜ける。
剣が閃く。
赤の武闘家も続く。
「おおおっ!」
拳が兵士を吹き飛ばす。
四人が一気に前進する。
だが――
「甘い!」
アミムトが吠えた。
巨大な前足を振る。
四人が同時に飛び退く。
ドォン!
地面が大きく砕けた。
「危ない!」
緑の弓使いが叫ぶ。
アミムトは地面を踏み鳴らす。
「四つの色が揃えば、強くなると思ったか?」
その口から灰色の霧が噴き出す。
「ならば、まとめて灰にしてやる!」
霧が峡谷を覆っていく。
視界が悪くなる。
「見えない……!」
緑の弓使いが声を上げる。
白の剣士も周囲を見渡す。
「全員、固まるな!」
「どうする!」
赤の武闘家が叫ぶ。
「音を聞け!」
白の剣士が答える。
「敵は動いている!」
その直後。
右から足音。
「右!」
白の剣士が剣を振る。
ガキン!
兵士の攻撃を受け止める。
赤の武闘家が拳を叩き込む。
「そこだ!」
兵士が吹き飛ぶ。
反対側から別の兵士。
「左!」
青の槍使いが突く。
一撃。
二撃。
灰色の兵士が後退する。
「緑!」
「分かってる!」
緑の弓使いが目を閉じた。
霧の向こう。
風の流れを読む。
弓を引く。
「そこ!」
矢が飛ぶ。
ヒュッ!
霧の向こうで、兵士の武器が落ちた。
「当たった!」
赤の武闘家が笑う。
「見えていなくても戦える!」
四人は互いの声だけを頼りに戦った。
やがて――
灰色の霧が薄くなっていく。
その向こうに、アミムトが立っていた。
「……面白い」
アミムトが低く唸る。
「四人とも、思った以上にしぶとい」
赤の武闘家が拳を構える。
「褒めても何も出ないぞ」
「褒めているわけではない」
アミムトが笑う。
「喰らう価値があると言っている」
巨大な身体が跳ぶ。
「来る!」
白の剣士が構える。
アミムトの前足が迫る。
赤の武闘家が受け止める。
「ぐっ……!」
押される。
白の剣士が横から斬り込む。
しかしアミムトは尻尾で剣を弾く。
「白!」
赤の武闘家が叫ぶ。
「大丈夫!」
白の剣士は体勢を立て直す。
その瞬間――
緑の弓使いが矢を放った。
矢はアミムトの足元へ突き刺さる。
「今!」
青の槍使いが走る。
槍を構える。
「はああっ!」
突きがアミムトの胸元へ入る。
「ぐおおおっ!」
アミムトがよろめく。
赤の武闘家が叫ぶ。
「白!」
「任せろ!」
白の剣士が走る。
剣に白い光が集まる。
赤の武闘家のチャクラによって活性化した白。
それが以前より強く輝いている。
「これで――!」
斬撃。
アミムトの身体を灰色の霧が包む。
「まだだ!」
アミムトが耐える。
だが――
四人の攻撃が重なった。
白の斬撃。
緑の矢。
青の槍。
赤の拳。
四色の光が、一瞬だけ重なった。
ドォォォォン!
衝撃が峡谷を駆け抜ける。
アミムトの巨体が吹き飛んだ。
「グオオオオオッ!」
岩壁へ激突する。
灰色の兵士たちも巻き込まれ、次々と倒れていく。
静寂。
四人は息を切らしながら立っていた。
「……倒した?」
緑の弓使いが呟く。
だが――
岩壁の瓦礫が動いた。
アミムトが立ち上がる。
「……まだだ」
身体は傷ついている。
それでも、その目には力が残っていた。
「四つの色……」
アミムトは四人を見渡す。
「やはり、四つ揃うと厄介だ」
赤の武闘家が前へ出る。
「なら、もう一度やるか?」
「いや」
アミムトが笑う。
「今日は十分だ」
身体が灰色の霧へ変わっていく。
「待て!」
白の剣士が追おうとする。
しかし――
アミムトは霧となって峡谷の奥へ消えていった。
「逃げた……?」
青の槍使いが呟く。
赤の武闘家は拳を下ろした。
「違う」
「え?」
「あいつは、何かを確認したんだ」
白の剣士も頷く。
「俺たち四人が揃ったことを……」
緑の弓使いが遠くを見る。
「つまり、魔王にも伝わる」
四人の間に、沈黙が落ちる。
その頃。
遠く離れた黒の居城。
最上階。
黒の魔王の前に、灰色の霧が集まっていた。
やがて、アミムトの姿が現れる。
「四つの色が――」
アミムトが頭を下げる。
「揃いました」
黒の魔王は静かに目を開いた。
「そうか」
その声に、わずかな笑みが混じる。
「ならば――」
黒い城の奥で、巨大な扉が開く。
「こちらも、準備を始めよう」
そして峡谷では。
四人の英雄が、初めて互いに向き合っていた。
まだ名前すら知らない。
けれど――
白、緑、青、赤。
四つの色は、もう別々の旅人ではなかった。




