第三十三話 白と赤の道
翌朝。
白の剣士は目を覚ました。
身体を起こす。
昨日までの重さが、少しだけ軽くなっている。
腕を見る。
灰色の侵食は、まだ残っている。
それでも――
その周囲には、確かな白が戻っていた。
「……動ける」
「無理はするな」
赤の武闘家が焚き火を消している。
「分かっている」
「本当か?」
「……努力する」
「それならいい」
二人は歩き始めた。
目指すのは、北。
黒の居城。
道中には、灰色に染まった村や町がいくつもあった。
その最初の村に入ったとき――
「助けてくれ!」
叫び声が聞こえた。
二人が駆けつける。
灰色の兵士たちが、村人を追い詰めていた。
「色を出せ!」
「赤い布はどこだ!」
「白い花も残っているはずだ!」
兵士たちが家々を荒らしている。
白の剣士が剣を抜いた。
「やめろ」
兵士たちが振り返る。
「英雄だ!」
「二人いるぞ!」
赤の武闘家が拳を鳴らす。
「二人なら、十分だ」
兵士たちが一斉に襲いかかる。
白の剣士が前へ出る。
一閃。
灰色の兵士の武器を弾き飛ばす。
そこへ別の兵士が迫る。
赤の武闘家が拳で吹き飛ばす。
「右!」
「任せろ!」
白が右を斬る。
「左!」
赤が左を叩く。
「後ろ!」
二人同時に振り返る。
剣と拳が同時に炸裂した。
兵士たちが次々と倒れていく。
やがて――
最後の兵士が灰色の霧となって消えた。
村に静寂が戻る。
「……助かった」
村人たちが二人へ頭を下げる。
白の剣士は首を振った。
「礼はいらない」
赤の武闘家も頷く。
「俺たちは通りかかっただけだ」
すると、一人の老人が近づいてきた。
「通りかかっただけで、命を張る者などそうはいない」
老人は、二人を見つめる。
「この村にも、まだ少しだけ色が残っている」
老人が案内した先。
村の中央に、小さな花畑があった。
灰色の大地の中。
一本だけ――
白い花が咲いている。
白の剣士が近づく。
「……」
そっと手を伸ばす。
花に触れることはしなかった。
「綺麗だな」
赤の武闘家が隣に立つ。
「ああ」
「守りたいな」
「……そうだな」
二人は花畑を後にした。
* * *
夕方。
二人は村を離れた。
しばらく歩いたところで、白の剣士が足を止める。
「……少し休む」
「賛成だ」
二人は岩陰に腰を下ろす。
赤の武闘家が水を差し出す。
「飲め」
「ありがとう」
白の剣士は水を飲む。
そして、自分の身体を見る。
「灰色が……また少し薄くなっている」
「チャクラが効いているんだろう」
「お前の力か」
「それだけじゃない」
赤の武闘家が言う。
「お前自身の白が、戻ろうとしているんだ」
「……俺自身の白」
「ああ」
白の剣士は自分の手を見つめる。
その手には、確かに白い光が宿っていた。
「なら、俺も負けられないな」
赤の武闘家が笑う。
「何に?」
「お前に」
「勝負していたのか?」
「今決めた」
「急だな」
二人の間に、初めて小さな笑いが生まれた。
その夜。
焚き火を囲みながら、二人は黒の居城を見つめた。
「あとどれくらいだろう」
白の剣士が尋ねる。
「まだ遠い」
「そうか」
「でも――」
赤の武闘家が黒い城を指差す。
「昨日より近い」
白の剣士は頷いた。
「ああ」
二つの色が、焚き火の明かりの中で揺れていた。
白。
赤。
灰色の世界で、その二色だけが確かに輝いている。
そして翌朝。
二人は再び歩き始めた。
黒の居城へ。
その先で待つ、まだ見ぬ二人の英雄へ――。




