第三十一話 赤い火種
赤の武闘家は、平原を進んでいた。
黒の居城は、まだ遠い。
けれど、昨日までよりはっきりと見える。
黒い塔が、灰色の空を突き刺している。
「……近づいている」
赤の武闘家は拳を握った。
赤い石は、もう光っていない。
それでも、進むべき方向は分かっていた。
北。
黒の居城へ。
ただ――
平原に入ってから、妙なことが続いていた。
鳥の姿がない。
獣の声もしない。
風さえ、ほとんど吹かない。
「静かすぎるな」
赤の武闘家が足を止める。
その瞬間。
地面から灰色の手が伸びた。
「!」
飛び退く。
ズズズ……。
地面が盛り上がる。
灰色の兵士たちが次々と現れた。
「待ち伏せか」
赤の武闘家は構える。
「数が多いな」
兵士たちが剣を抜く。
その中から、一人だけ赤の武闘家へ向かって歩いてくる。
「色を置いていけ」
「断る」
「ならば、力ずくで奪う」
兵士が斬りかかる。
赤の武闘家は拳で剣を弾いた。
そのまま踏み込み、胸元へ一撃。
兵士が吹き飛ぶ。
左右から二人。
同時に攻撃が来る。
赤の武闘家は身体を低くしてかわした。
回転。
蹴り。
二人まとめて倒れる。
「まだだ!」
さらに兵士たちが押し寄せる。
赤の武闘家は拳を握った。
チャクラが燃える。
赤い光が腕を包む。
「はあっ!」
拳を振る。
衝撃が広がり、兵士たちが一斉に吹き飛んだ。
静かになる。
だが――
倒れた兵士たちは、灰色の霧となって立ち上がった。
「……!」
赤の武闘家が目を見開く。
「何度でも戻るのか」
霧が集まり、再び兵士の姿になる。
「色がある限り――」
兵士たちが口を揃える。
「我らは生まれる」
赤の武闘家は眉をひそめる。
「……厄介だな」
再び兵士たちが襲ってくる。
赤の武闘家は戦う。
倒す。
また立ち上がる。
倒す。
また立ち上がる。
終わらない。
「くっ……!」
少しずつ体力を削られていく。
チャクラも消耗している。
赤の光が弱くなる。
そのときだった。
平原の向こうから――
小さな赤い光が見えた。
赤の武闘家は振り返る。
「……何だ?」
光は地面の上をゆっくり進んでいる。
やがて――
一匹の小さな獣が現れた。
灰色の毛。
だが、その胸元に赤い光が灯っている。
獣は赤の武闘家を見つめた。
そして、兵士たちへ向かって吠えた。
キャン!
小さな声だった。
だが――
赤の武闘家のチャクラが反応した。
「……赤い」
胸の奥が熱くなる。
赤い光が、再び強くなった。
獣が走る。
兵士たちの間を抜ける。
赤の武闘家は理解した。
「そういうことか」
赤は、自分だけのものではない。
世界のどこかに、まだ残っている。
小さな火種。
消えそうでも、確かに存在している。
赤の武闘家は拳を握った。
「なら――」
全身にチャクラを巡らせる。
「俺が守る!」
赤い光が一気に広がった。
兵士たちが怯む。
「何だ、この光は!」
「赤が……強くなっている!」
赤の武闘家が踏み込む。
一撃。
二撃。
三撃。
今度は、兵士たちが灰色の霧へ戻っていく前に――
赤い光が霧を包み込んだ。
「消えろ!」
ドォン!
灰色の霧が吹き飛ぶ。
兵士たちは再び姿を取り戻せない。
平原に静寂が戻った。
赤の武闘家は息を整える。
小さな獣が足元へ近づいてきた。
「お前も、赤を持っているんだな」
獣は答えない。
ただ、赤の武闘家の足元を一周すると、北へ走り出した。
「……案内してくれるのか?」
獣は振り返る。
赤の武闘家は少し笑った。
「分かった」
獣の後を追う。
平原を抜ける。
小さな丘を越える。
その先に――
巨大な街道があった。
そして、その街道の向こうには黒の居城。
今までより、はるかに大きく見える。
「……もうすぐだ」
赤の武闘家は立ち止まる。
しかし、小さな獣はそのまま街道を走っていった。
「おい」
追いかけようとする。
だが――
獣は途中で振り返り、静かに森の中へ消えていった。
「……ありがとう」
赤の武闘家は北を見る。
そのとき。
遠くから、かすかな音が聞こえた。
剣がぶつかる音。
そして――
何かが大地を走る音。
「……誰か戦っている?」
赤の武闘家は耳を澄ませる。
その音は、黒の居城とは別の方向から聞こえていた。
赤の武闘家は少し迷う。
そして――
「……行くか」
拳を握る。
「困っているなら、放っておけない」
黒の居城へ向かう前に、音のする方向へ走り出した。
まだ知らない。
そこにいるのが誰なのか。
そして、その出会いが――
四つの色を一つへ近づけることになるとは。




