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BLACK EATER ―色を喰らう魔王と、四色の英雄―  作者: まーサンタ
第四部 赤の旅

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第二十八話 灰色の牙


 火山の麓。


 赤の武闘家とワーグが向かい合っていた。


 周囲では、灰色の兵士たちが人々を追っている。


 赤の武闘家は拳を握った。


「お前は、何度も色を喰らってきたのか」


「そうだ」


 ワーグが牙を見せる。


「赤も、青も、緑も」


「……青と緑?」


 赤の武闘家の目が細くなる。


「他の色の英雄もいるのか」


「さあな」


 ワーグは笑った。


「だが、お前より先に見つけた奴らもいる」


 赤の武闘家は黙った。


 この世界のどこかに、自分と同じように戦っている者がいる。


 そう知っただけで、不思議と胸の奥が熱くなった。


「なら、俺も負けられないな」


「その余裕――」


 ワーグが低く身を沈める。


「いつまで続くかな!」


 地面を蹴る。


 一瞬で距離が消えた。


 爪が振り下ろされる。


 赤の武闘家は拳で受け止めた。


 ドンッ!


 衝撃で地面が割れる。


「……重い!」


 赤の武闘家が後ろへ滑る。


 ワーグはさらに追う。


 右。


 左。


 噛みつき。


 爪。


 赤の武闘家は次々とかわす。


 そして――


 腹へ拳を叩き込んだ。


 ドンッ!


「ぐっ!」


 ワーグの巨体が揺れる。


 しかし倒れない。


「その拳……!」


 ワーグが笑う。


「前より熱くなったな!」


「分かるのか」


「俺は色を喰らう獣だ」


 ワーグの目が赤く光る。


「お前の赤が、身体中を巡っているのが分かる」


 赤の武闘家は構え直す。


「なら、もっと味わえ」


 拳を握る。


 赤いチャクラが腕を包む。


「これが――」


 一歩踏み込む。


「今の俺だ!」


 連続攻撃。


 拳。


 肘。


 蹴り。


 ワーグが防ぐ。


 だが、少しずつ押されていく。


「ぬおおおっ!」


 ワーグが咆哮する。


 灰色の霧が身体から噴き出した。


「まだだ!」


 霧が周囲を包む。


 視界が消える。


「……!」


 赤の武闘家は足を止めた。


 どこから来る?


 音も聞こえない。


 気配も分からない。


 そのとき――


 背後から風を切る音。


 赤の武闘家は振り返った。


 ワーグの牙が迫っていた。


「そこか!」


 拳を突き出す。


 ガンッ!


 牙と拳がぶつかる。


 赤い光と灰色の霧が弾ける。


 互いに後退した。


「……今のを防ぐか」


 ワーグが驚く。


「目だけで戦ってるわけじゃない」


 赤の武闘家は呼吸を整える。


「感じるんだ」


「何を?」


「自分の中の力を」


 胸へ手を当てる。


「チャクラは色を活性化させる」


 赤い光が強くなる。


「なら、目が見えなくても戦える」


 ワーグが吠えた。


「生意気な!」


 灰色の霧が一気に広がる。


 赤の武闘家は目を閉じた。


 呼吸。


 吸う。


 吐く。


 ワーグの足音。


 地面の振動。


 空気の動き。


 そして――


 チャクラ。


「……そこだ」


 ワーグが飛び込む。


 赤の武闘家は一歩だけ横へ動いた。


 爪が空を切る。


 そのまま身体を回転させる。


「はあっ!」


 拳がワーグの脇腹へ入る。


「ぐおっ!」


 ワーグが吹き飛ぶ。


 赤の武闘家は追う。


 さらに一撃。


 そして――


 最後の拳を構える。


 拳の周囲に、赤い光が集まっていく。


「これで終わりだ!」


 ワーグが立ち上がる。


 灰色の霧を全身にまとい、赤の武闘家へ突進する。


 赤と灰が激突した。


 ドォォォォン!


 巨大な衝撃波が山肌を走る。


 灰色の兵士たちは吹き飛ばされる。


 赤の武闘家も数歩後退する。


 そして――


 ワーグが片膝をついた。


「……俺が……押された……?」


 赤の武闘家は拳を下ろす。


「もうやめろ」


「ふざけるな……!」


 ワーグは立ち上がろうとする。


 しかし、身体が動かない。


「今日は、お前の負けだ」


 赤の武闘家が言う。


「次に来るなら――」


 拳を構える。


「もっと強くなってこい」


 ワーグはしばらく黙っていた。


 やがて、低く笑う。


「……覚えておけ」


 身体を灰色の霧へ変える。


「俺だけが、お前を狙っているわけじゃない」


 霧が山の向こうへ流れていく。


「魔王は、すでに他の英雄にも獣を向かわせている」


 その言葉を残し――


 ワーグは消えた。


 赤の武闘家は遠ざかる灰色の霧を見つめる。


「他の英雄……」


 青。


 緑。


 そして、自分。


 世界のどこかで、同じ戦いをしている。


 赤の武闘家は拳を握った。


「……なら、急がないとな」


 振り返る。


 寺院の前には、助かった人々が集まっていた。


 赤の武闘家はその中を歩いていく。


 一人の子どもが、赤い小さな石を差し出した。


「これ……」


 赤の武闘家が受け取る。


「ありがとう」


 石には、ほんのわずかに赤い光が残っていた。


 赤の武闘家はそれを握りしめる。


「……色は、まだ残っている」


 そして、黒い山の方向を見る。


 そこには、黒の魔王の居城へ続く道がある。


 赤の武闘家は歩き出した。


 その背中を、火山の赤い炎が照らしている。


 やがて――


 その炎の向こうから、一筋の風が吹いた。


 灰色の羽根が一枚。


 地面へ落ちる。


 赤の武闘家は、それを拾わなかった。


 ただ前を向いて進んでいく。


 青と緑が向かった先へ。


 そして――


 三つの色が、やがて一つの道で交わろうとしていた。

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