第二十六話 燃える拳
夜の火山。
寺院の周囲では、灰色の兵士たちが赤の武闘家を取り囲んでいた。
その中央に、ワーグがいる。
「喰わせろ」
低い声。
「その赤を全部、俺によこせ」
赤の武闘家は拳を握った。
胸の奥で、赤いチャクラが脈打っている。
ドクン。
ドクン。
「……まだだ」
赤の武闘家は目を閉じた。
「もっと深く」
「何をしている!」
ワーグが飛びかかる。
その瞬間――
赤の武闘家が目を開いた。
「感じろ」
身体の中心から、赤い光が走る。
「身体の中を流れる力を」
チャクラが胸から腕へ。
肩から肘。
肘から拳。
そして――
全身へ。
「力は、拳だけにあるんじゃない」
ワーグの爪が迫る。
赤の武闘家は紙一重でかわした。
そのまま懐へ入る。
「身体そのものが、拳になる」
ドンッ!
拳がワーグの腹へ突き刺さった。
「ぐっ……!」
巨体が浮く。
ワーグが後退する。
「この程度……!」
すぐに踏み込む。
赤の武闘家も迎え撃つ。
拳と爪。
蹴りと牙。
何度もぶつかり合う。
ドォン!
ドォン!
ドォン!
寺院の周囲に衝撃音が響き渡る。
灰色の兵士たちが、二人の戦いを囲んでいる。
赤の武闘家が回し蹴りを放つ。
ワーグが前足で受け止める。
「捕まえたぞ!」
ワーグが牙を剥く。
赤の武闘家の腕へ噛みつこうとする。
しかし――
赤の武闘家は身体をひねった。
ワーグの腕を掴む。
「……重い」
「なら、力で押し潰してやる!」
ワーグが全身の力を込める。
赤の武闘家の足が地面へ沈んでいく。
「……!」
押される。
少しずつ。
それでも――
赤の武闘家は倒れない。
「力っていうのは……」
胸のチャクラが強く輝く。
「大きければいいわけじゃない」
足へチャクラを流す。
地面を踏みしめる。
「流れだ」
身体を回転させる。
ワーグの力を利用し、その巨体を投げ飛ばす。
「ぐおおおっ!」
ワーグが宙を舞う。
そのまま地面へ叩きつけられた。
ドォン!
「まだだ!」
ワーグが立ち上がる。
身体から灰色の煙が噴き出す。
牙がさらに大きくなる。
爪も。
身体も。
「俺は灰色の魔獣だ!」
ワーグが吠える。
「お前の赤など、食い尽くしてやる!」
ワーグが突進する。
赤の武闘家は構えた。
拳を引く。
深く息を吸う。
「……赤は」
火山が鳴る。
ゴゴゴゴゴ……。
山の奥から赤い光が漏れる。
「燃える」
ワーグが迫る。
「そして――」
赤の武闘家の全身が赤く輝いた。
「燃え続ける!」
拳を放つ。
ドォォォォン!
赤い衝撃波が走った。
ワーグの巨体を真正面から吹き飛ばす。
「ぐおおおおおおっ!」
ワーグは寺院の石壁を突き破り、外へ転がった。
灰色の兵士たちが怯む。
「ワーグ様が……!」
「退け!」
兵士たちが逃げ始める。
赤の武闘家は追わなかった。
ワーグを見つめる。
「終わりか?」
瓦礫の中。
ワーグがゆっくりと立ち上がった。
身体には深い傷。
だが、その目はまだ死んでいない。
「……違う」
ワーグは笑った。
「今日は、ここまでだ」
赤の武闘家が拳を構える。
「逃がすと思うか?」
「逃げるんじゃない」
ワーグが牙を見せる。
「知らせに行くのさ」
「何を?」
「お前の赤が――」
ワーグの身体から灰色の霧が噴き出す。
「どれほど美味いかをな」
霧がワーグを包む。
次の瞬間。
姿が消えた。
「……!」
赤の武闘家は追おうとした。
だが、足を止める。
寺院を見る。
まだ灰色の兵士が残っている。
赤の武闘家は拳を握った。
「先に、こいつらか」
振り返る。
残った兵士たちが武器を構える。
「来い」
赤の武闘家の身体から赤い光が再び溢れ出す。
「今夜は、まだ終わってない」
――そして。
夜明け前。
最後の兵士が倒れた。
寺院には静寂が戻っていた。
赤の武闘家は一人、火山を見上げる。
先ほどまで激しく燃えていた火口の炎が、静かに揺れている。
「……チャクラ」
拳を開く。
赤い光が指先で揺れた。
「まだ、完全には扱えていない」
ワーグとの戦いで分かった。
自分の力は、まだ足りない。
このままでは、黒の魔王には届かない。
赤の武闘家は寺院の中へ戻った。
そして――
祭壇の前に置かれていた古い巻物を手に取った。
そこには、赤い文字で一つの言葉が記されていた。
「色は、心から生まれる」
赤の武闘家は、その言葉を静かに見つめる。
「……心か」
拳を握る。
「なら、もっと強くなる」
寺院の外。
朝日が昇り始めていた。
灰色の世界の中。
山の向こうから、ほんの少しだけ――
赤い光が差し込んでいた。




