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BLACK EATER ―色を喰らう魔王と、四色の英雄―  作者: まーサンタ
第四部 赤の旅

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第二十五話 赤の目覚め


 轟音が、山々の間に響いていた。


 火山。


 その麓に建つ古い寺院。


 石造りの小さな堂の中で、一人の男が座っていた。


 赤の武闘家。


 目を閉じ、静かに呼吸を繰り返している。


 吸う。


 吐く。


 吸う。


 吐く。


 周囲には誰もいない。


 聞こえるのは、遠くで煮えたぎる溶岩の音だけだった。


 赤の武闘家の身体には、わずかな赤い光が浮かんでいる。


 それは胸の奥から生まれ、腕へ。


 腕から指先へ。


 そして全身へと巡っていく。


 ――チャクラ。


 体内を巡るエネルギー。


 赤の武闘家は長い年月をかけ、その力を扱う修行を続けていた。


「……焦るな」


 自分へ言い聞かせる。


「力は、怒りから生まれるものじゃない」


 呼吸を整える。


「身体。


 心。


 そして、色」


 胸の奥に意識を集中させる。


 すると、赤い光が強くなった。


 だが――


 まだ弱い。


「……足りない」


 赤の武闘家は目を開けた。


 窓の外を見る。


 世界は灰色だった。


 森も。


 山も。


 空も。


 色を失っている。


「色を喰らう魔王……」


 拳を握る。


「このままでは、世界から本当に色が消える」


 そのとき。


 外から――


 グルルルル……。


 獣の唸り声が聞こえた。


 赤の武闘家は立ち上がる。


 寺院の外へ出る。


 灰色の兵士たちが、寺院を取り囲んでいた。


 その中央に――


 一匹の灰色の狼。


 巨大な身体。


 鋭い牙。


 灰色の毛皮。


 ワーグ。


「見つけたぞ」


 低い声が響く。


 赤の武闘家は拳を構えた。


「……何の用だ」


「お前の赤を喰いに来た」


 ワーグが牙を剥く。


「この世界には、もうほとんど赤が残っていない」


 鼻を鳴らす。


「だが、お前からは濃い赤の匂いがする」


 赤の武闘家は黙っている。


「その身体に宿る赤」


 ワーグが一歩進む。


「全部、俺の腹に入れてやる」


「断る」


「なら――」


 ワーグが低く身を沈める。


「喰い殺す!」


 地面が砕けた。


 巨体が一瞬で迫る。


 赤の武闘家は拳を構えた。


 ドンッ!


 拳と牙がぶつかる。


 衝撃が寺院の壁を揺らした。


「……!」


 赤の武闘家が後ろへ滑る。


 ワーグは笑った。


「弱いな」


「……そうかもしれない」


 赤の武闘家は拳を握り直す。


「だが――」


 胸の奥。


 赤い光が灯る。


「まだ修行中だ」


 地面を蹴る。


 一瞬でワーグの懐へ入る。


 拳。


 肘。


 蹴り。


 連続攻撃。


 ワーグが身体をひねってかわす。


「ちょこまかと!」


 前足が振り下ろされる。


 赤の武闘家は腕で受け止める。


 ズンッ!


 地面が沈む。


「ぐっ……!」


 力が強い。


 赤の武闘家は吹き飛ばされ、寺院の石柱へ激突した。


「修行中なら、ちょうどいい」


 ワーグが笑う。


「ここで死ね!」


 灰色の兵士たちも一斉に襲いかかる。


 赤の武闘家は立ち上がる。


「……一人ずつ相手をする必要はないな」


 拳を握る。


 胸の奥から赤い光が広がる。


 チャクラが全身を巡る。


 腕。


 脚。


 背中。


 指先。


 赤い光が身体全体を包む。


「これが……」


 赤の武闘家は静かに息を吐く。


「俺のチャクラだ」


 次の瞬間。


 地面が爆発した。


 ドンッ!


 赤の武闘家が兵士の群れへ飛び込む。


 一撃。


 兵士が吹き飛ぶ。


 二撃。


 別の兵士が倒れる。


 回し蹴り。


 さらに数人がまとめて吹き飛んだ。


 ワーグが目を見開く。


「……速い!」


 赤の武闘家は止まらない。


 拳を振るたびに、赤い光が弾ける。


 チャクラ。


 それは身体能力を高めるだけではない。


 失われかけた色を、身体の内側から活性化させる力。


 赤の武闘家の拳が、鮮やかな赤に染まっていく。


「赤は――」


 拳を引く。


「消えない」


 ワーグへ向かって踏み込む。


「燃える!」


 拳が激突した。


 ドォォォン!


 ワーグの巨体が吹き飛ぶ。


「ぐおおおおっ!」


 地面を何度も転がる。


 灰色の兵士たちが怯む。


 赤の武闘家は追撃しようとする。


 しかし――


 ワーグが立ち上がった。


 口元から灰色の煙が漏れている。


「……なるほど」


 ワーグが笑う。


「面白い」


 牙を剥く。


「お前の赤は、喰えば喰うほど強くなりそうだ」


 赤の武闘家は拳を構える。


「なら、食べてみろ」


 ワーグが吠える。


 山全体が震えた。


「そうさせてもらう!」


 灰色の兵士たちが一斉に押し寄せる。


 赤の武闘家は拳を握った。


 胸の奥で、赤い光が燃えている。


 火山の炎が、夜空を赤く照らす。


 その炎に呼応するように――


 赤の武闘家の身体から、さらに強い光が放たれた。


 まだ修行の途中。


 まだ完全ではない。


 それでも。


 赤は、確かに目を覚まし始めていた。

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