第二十四話 黒の城を望む
青の槍使いと緑の弓使いは、山道を進んでいた。
アエローを退けてから、三日。
緑の弓使いはまだ傷が癒えていない。
歩くたびに顔をしかめる。
「大丈夫か?」
青の槍使いが振り返る。
「大丈夫」
「さっきから三回転んだぞ」
「……山道が悪い」
「山道のせいにするな」
「じゃあ、俺の足が悪い」
「それは大丈夫じゃないだろ」
二人の間に、ほんの少し笑いが生まれた。
だが――
その先に待っていたのは、笑っていられる道ではなかった。
山道の両脇。
灰色の兵士たちが現れた。
「来るぞ」
青の槍使いが槍を抜く。
「分かってる」
緑の弓使いも、拾った枝と蔓で作った簡易の弓を構える。
兵士たちが一斉に襲いかかる。
「行く!」
青の槍使いが先頭へ突っ込む。
槍が閃く。
兵士の剣を弾き飛ばす。
続けて横薙ぎ。
二人、三人と倒れていく。
その隙に緑の弓使いが矢を放つ。
ヒュッ!
兵士の足元へ刺さる。
蔓が地面から伸び、兵士の足を絡め取る。
「右!」
「分かってる!」
青の槍使いが振り返る。
背後から迫っていた兵士を槍の柄で打ち倒す。
「助かった」
「こっちも!」
二人は互いの背中を預けた。
青い槍。
緑の矢。
二つの色が、灰色の兵士たちを次々と退けていく。
だが――
敵は減らなかった。
「まだ来るのか……!」
山道の向こう。
さらに灰色の兵士が現れる。
「魔王軍は、どれだけいるんだ」
緑の弓使いが息を切らす。
「考えるのは後だ」
青の槍使いが構える。
「進むぞ」
「分かった」
二人は走った。
戦って。
走って。
また戦う。
途中、灰色の兵士が道を塞いでいた。
青の槍使いが川から水を引き上げる。
巨大な水流が兵士たちを吹き飛ばす。
「今だ!」
緑の弓使いが矢を放つ。
緑の蔓が道いっぱいに広がり、兵士たちの動きを止める。
二人はその隙に駆け抜けた。
だが、山はまだ終わらない。
日が沈み始める。
空が赤く染まり――
やがて灰色へ変わる。
「……もう夜か」
緑の弓使いが呟く。
「まだ進める」
青の槍使いは前を向く。
「あと少しだ」
そのとき。
山道の先から風が吹いた。
灰色の霧が晴れていく。
二人の前に、崖の上へ続く最後の坂道が現れた。
そこを登る。
一歩。
また一歩。
そして――
二人は山頂へ辿り着いた。
「……!」
緑の弓使いが足を止める。
青の槍使いも、何も言わない。
目の前に広がっていたのは――
巨大な黒い城だった。
遥か彼方。
黒い山々に囲まれた谷の中心。
世界そのものを覆うような巨大な城がそびえている。
塔。
城壁。
無数の黒い尖塔。
そのすべてが、灰色の空へ突き刺さっていた。
「あれが……」
緑の弓使いが呟く。
「黒の居城」
青の槍使いは槍を握った。
長い旅だった。
滝から始まり。
川を上り。
湖を越え。
山を登った。
そして今――
ついに、魔王の居城を目にした。
「近いな」
「近い」
緑の弓使いが頷く。
だが、その瞬間。
背後から――
ドォン!
地面が揺れた。
二人が振り返る。
山道を埋め尽くすように、灰色の兵士たちが現れていた。
「……まだ来るのか」
緑の弓使いが苦笑する。
「最後まで、歓迎してくれるらしい」
「歓迎じゃない」
「分かってる」
二人は再び武器を構えた。
黒の城を背に。
灰色の兵士たちを前に。
しかし――
青の槍使いは、ふと遠くを見る。
山の向こう。
さらに遠い場所。
灰色の大地のどこかから――
微かな音が聞こえた。
ドン。
ドン。
ドン。
何かを叩く音。
炎が燃えるような音。
そして――
地面を踏み鳴らす音。
「……何だ?」
緑の弓使いも耳を澄ます。
「聞こえるか?」
「ああ」
遠くの山。
灰色の雲の向こう。
一瞬だけ――
赤い光が見えた。
「……赤?」
二人は目を細める。
だが、すぐに雲が光を隠した。
「今のは……」
青の槍使いが呟く。
答えはない。
ただ――
遠い大地のどこかで。
何かが燃えている。
そして。
その炎の中で――
一人の男が、静かに拳を握っていた。
顔はまだ見えない。
名前もない。
ただ、その拳には――
赤い光が宿っていた。
青と緑の旅は、ここで一区切りを迎える。
そして次に始まるのは――
赤の旅。




