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BLACK EATER ―色を喰らう魔王と、四色の英雄―  作者: まーサンタ
第三部 青の旅

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第二十三話 緑と青


 地下湖に、槍の音が響いた。


 ガキィン!


 青の槍使いの一撃を、アエローが爪で受け止める。


「これほどの青を守るなんて……」


 アエローは笑った。


「あなた、本当に邪魔ね!」


 翼を大きく広げる。


 灰色の風が地下湖を駆け抜けた。


 水面が大きく波打つ。


 青の槍使いは槍を構え直した。


「この青は、お前には渡さない」


「なら、あなたごと喰らう!」


 アエローが飛び上がる。


 急降下。


 青の槍使いは横へ跳ぶ。


 爪が地面を砕いた。


「……速い」


 青の槍使いは槍を突き出す。


 アエローは翼をひねってかわす。


 反撃の風。


 青の槍使いが吹き飛ばされる。


「ぐっ!」


 岩壁へ叩きつけられた。


 その隙にアエローが地下湖へ向かう。


「さあ!」


 巨大な翼が青い水面を覆う。


「この青、全部いただくわ!」


 灰色の風が湖へ流れ込む。


 青い水が灰色へ変わり始めた。


「やめろ!」


 青の槍使いが走る。


 槍を突き立てる。


 青い光が広がる。


 だが、アエローの風が強すぎる。


「無駄よ!」


 アエローが笑う。


「一人で私に勝てると思わないことね!」


 巨大な風圧。


 青の槍使いは耐えきれず、地下湖の出口へ吹き飛ばされた。


 そのまま洞窟の外へ。


 地面を転がる。


 目の前には、山肌を流れる川があった。


 地下湖から流れ出た水が、谷へ向かって勢いよく流れている。


「……川か」


 青の槍使いは立ち上がろうとした。


 そのとき。


 川上から――


 何かが流れてきた。


 岩。


 木。


 そして――


 人。


「……!」


 青の槍使いは川へ飛び込んだ。


 流されてきた人の腕を掴む。


「しっかりしろ!」


 激流に身体を持っていかれながら、なんとか岸へ引き上げる。


 濡れた身体。


 傷だらけの服。


 そして――


 その身体には、わずかな緑色が残っていた。


「……緑?」


 青の槍使いが目を見開く。


 緑の弓使いだった。


 意識を失っている。


 弓はない。


 矢筒もない。


 それでも、生きている。


「おい!」


 青の槍使いが肩を揺する。


「目を覚ませ!」


 反応がない。


 青の槍使いは川の水をすくい、口元へ運ぶ。


 緑の弓使いが小さく咳き込んだ。


「……っ」


「分かるか?」


「……ここは……」


「川辺だ」


 緑の弓使いがゆっくり目を開く。


「……お前は……青か」


「ああ」


 緑の弓使いは苦しそうに笑った。


「……青の槍使い」


「なぜ俺のことを知っている?」


「知らない……」


 緑の弓使いは目を閉じる。


「ただ……青い光が見えたから……」


 その瞬間。


 上空から巨大な風が吹き荒れた。


「……!」


 二人が空を見る。


 アエローが洞窟から出てきた。


「まさか!」


 アエローの顔から笑みが消える。


「緑の弓使い……!」


 緑の弓使いは立ち上がろうとする。


 だが、足に力が入らない。


「無理するな」


 青の槍使いが支える。


「まだ戦える」


「その身体で?」


「……俺は、緑だ」


 緑の弓使いは苦笑する。


「簡単には枯れない」


 青の槍使いが槍を握る。


「なら、二人でやる」


「二人で?」


「ああ」


 アエローが笑い始める。


「面白いわ」


 翼を広げる。


「二人まとめて、色を喰らってあげる!」


 巨大な風が迫る。


 青の槍使いは槍を川へ突き立てた。


「水は、俺が止める」


 青い光が川へ広がる。


 激流が渦を巻き、巨大な水壁となる。


 風が水壁へぶつかった。


 ドォォォォン!


 水しぶきが舞う。


「今だ!」


 青の槍使いが叫ぶ。


 緑の弓使いは地面に片膝をつきながら、拳を握った。


「弓が……ない」


 そのとき。


 川岸の草むらから、何かが見えた。


 折れた木の枝。


 その先に、緑の蔓が絡んでいる。


 緑の弓使いはそれを拾った。


「これでいい」


「それは弓じゃないぞ」


「分かってる」


 蔓を引き絞る。


 緑の光が集まる。


 青の槍使いが目を見開いた。


「……矢がない」


「必要ない」


 緑の弓使いが笑う。


 蔓から一本の緑の光が生まれた。


「緑は、どこにでもある」


 光の矢を放つ。


 ヒュッ!


 アエローがかわす。


「そんなもの!」


 だが――


 青の槍使いがすでに懐へ入っていた。


「こっちを見ろ!」


 槍を突き出す。


 アエローが翼で防ぐ。


 その翼へ――


 緑の光の矢が突き刺さった。


「きゃああっ!」


 アエローが体勢を崩す。


 青の槍使いがさらに踏み込む。


「今度は逃がさない!」


 槍から青い水流が放たれる。


 アエローが吹き飛ばされる。


 しかし、空中で翼を広げる。


「まだよ!」


 灰色の風を集める。


 緑の弓使いは立ち上がった。


「青」


「ああ」


「合わせられるか?」


「やってみろ」


 緑の弓使いが光の矢をつがえる。


 青の槍使いが川へ槍を突き立てる。


 青い水が巻き上がる。


 緑の矢が飛ぶ。


 青い水流が、その矢を包み込んだ。


「なっ――!」


 一本の矢が、巨大な青緑の光となってアエローへ向かう。


「そんな……!」


 アエローが風を放つ。


 灰色の風。


 青い水。


 緑の光。


 三つの力が激突する。


 大地が震える。


 川が逆巻く。


 やがて――


 灰色の風が砕けた。


「きゃああああっ!」


 アエローが空高く吹き飛ばされる。


 翼の羽根が大量に舞い散る。


「覚えていなさい!」


 遠ざかりながら叫ぶ。


「次は必ず……!」


 灰色の雲の向こうへ消えていった。


 静寂が戻る。


 青の槍使いは槍を下ろした。


「……逃げたか」


 緑の弓使いはその場に座り込む。


「助かった」


「こちらこそ」


 二人は初めて、互いを見た。


 青の槍使いが尋ねる。


「名前は?」


 緑の弓使いは首を振った。


「名前は……ない」


「そうか」


「お前も?」


「ああ」


 二人は少しだけ笑った。


 川は二人の足元を流れている。


 青く。


 そして、その岸には――


 小さな緑の芽が生えていた。


 緑の弓使いはそれを見つめる。


「……俺の旅は、ここまでかもしれない」


「どういう意味だ?」


「川に流されて、死にかけた」


 緑の弓使いは苦笑する。


「でも、ここで青に拾われた」


 青の槍使いは黒い山を見る。


「なら、次は一緒に行くか」


 緑の弓使いが顔を上げる。


「……黒の城へ?」


「ああ」


 緑の弓使いは少し考えた。


 そして――


「そうだな」


 二人は立ち上がった。


 青い川が、二人の横を流れている。


 その岸には、小さな緑。


 灰色の世界の中で――


 青と緑が、初めて並んだ。

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