第二十二話 青の山道
青の槍使いは、川を離れた。
黒い山へ続く道を、一人で登っていく。
山道は険しかった。
岩肌は灰色。
木々は枯れ。
空には、黒い雲が渦巻いている。
それでも、足元には細い水の流れがあった。
湖から続く川の支流だ。
青の槍使いは、その流れに沿って進んだ。
「水は、山の中まで続いている」
槍を杖代わりにしながら登る。
しばらく進むと、小さな洞窟を見つけた。
中から水音が聞こえる。
「……地下水か」
洞窟へ入る。
暗闇の奥から、青い光が漏れていた。
青の槍使いが近づくと――
小さな泉があった。
灰色の山の中で、そこだけが青い。
水面には、見覚えのない花が一輪浮かんでいた。
「……まだ、こんなものが」
手を伸ばす。
その瞬間。
ズズズ……。
洞窟の奥から地鳴りが響いた。
青の槍使いは槍を構える。
「また魔獣か」
岩壁が崩れる。
その向こうから、灰色の兵士たちが現れた。
「いたぞ!」
「青の英雄だ!」
兵士たちが一斉に襲いかかる。
青の槍使いは槍を振る。
ガキン!
一人。
二人。
三人。
狭い洞窟の中では、槍の動きも制限される。
それでも、水の流れを利用して敵の動きを読む。
足元の水が教えてくれる。
敵が近づく。
槍を突く。
敵が倒れる。
別の兵士が背後から迫る。
水面の波紋が揺れた。
青の槍使いは振り返らず、槍の柄を後ろへ突き出す。
「ぐっ!」
兵士が倒れる。
最後の一人が逃げ出した。
「待て!」
青の槍使いが追う。
洞窟の出口へ出た瞬間――
巨大な影が頭上を横切った。
「……!」
灰色の翼。
アエロー。
「見つけたわ」
空から笑い声が響く。
青の槍使いは槍を構える。
「またお前か」
「しつこいのは、あなたでしょう?」
アエローが急降下する。
青の槍使いは槍を突き上げた。
ガキィン!
爪と槍がぶつかる。
アエローはすぐに離れた。
「今日は戦わないわ」
「何?」
「あなたを追っているうちに、面白いものを見つけたの」
アエローが山の頂を指す。
「この山の向こうに、たくさんの青が眠っている」
青の槍使いの表情が変わった。
「……何だと?」
「湖なんか比べものにならないくらい」
アエローが笑う。
「だから先に行かせてもらうわ」
翼を広げる。
「全部、私がいただく」
飛び去ろうとする。
青の槍使いは槍を構えた。
「待て!」
槍を投げる。
青い槍が空を裂く。
アエローは翼をひねってかわす。
だが――
槍はそのまま山肌へ突き刺さった。
「……!」
青の槍使いが手を伸ばす。
槍が青い光を放つ。
水が山肌から噴き出した。
アエローの進路を塞ぐ。
「なっ!」
大量の水が滝のように流れ落ちる。
アエローは急上昇してかわした。
「やるじゃない!」
そのまま灰色の空へ消えていく。
青の槍使いは槍を引き抜いた。
「……先に行かれた」
山頂を見る。
だが、今のアエローの言葉が気になっていた。
この山の向こうに、巨大な青が眠っている。
それが何なのかは分からない。
しかし――
魔王軍が狙うほどの青なら、放っておくことはできない。
青の槍使いは山道を急いだ。
やがて。
山頂付近に到着する。
そこには、巨大な石門があった。
石門の表面には、古い文字が刻まれている。
青の槍使いは手を触れた。
すると――
石門が青く輝いた。
ゴゴゴゴゴ……。
ゆっくりと開いていく。
その向こうには――
巨大な地下湖が広がっていた。
見渡す限りの青。
天井から無数の水滴が落ちる。
水滴一つ一つが、青い光を放っている。
「……これが」
青の槍使いは息を呑んだ。
「山の中に、こんな場所が……」
地下湖の中央には、巨大な青い結晶が浮かんでいた。
だが、その周囲には――
灰色の鎖が巻きついている。
「……魔王軍が、もう来ている」
青の槍使いは槍を握り直した。
遠くから羽音が聞こえる。
バサッ。
バサッ。
アエローの声が響いた。
「待っていたわ」
青の槍使いが振り返る。
洞窟の入口。
そこにアエローが立っていた。
その後ろには――
無数の灰色の兵士。
「今度こそ」
アエローが笑う。
「この山の青を全部いただくわ」
青の槍使いは地下湖を背に、槍を構えた。
「……なら」
青い光が槍を包む。
「ここから先は、一歩も通さない」
地下湖の青が、大きく揺れた。
まるで――
これから始まる戦いを、待っているかのように。




