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BLACK EATER ―色を喰らう魔王と、四色の英雄―  作者: まーサンタ
第三部 青の旅

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第二十話 青い湖



 川上へ進むにつれて、山道は険しくなっていった。


 道は細くなり、岩が増えていく。


 それでも、青の槍使いは歩き続けた。


 隣を流れる川だけが、彼を導いている。


 時折、川辺には動物の姿があった。


 鹿。


 狼。


 小さな鳥。


 皆、青の槍使いを見ると、少しだけ距離を置きながらも逃げなかった。


 その中に――


 先日助けた狼の姿もあった。


「……お前か」


 狼は振り返り、山の奥へ歩いていく。


 青の槍使いは、その後を追った。


 やがて。


 木々の向こうから、眩しい光が差し込んできた。


「……!」


 青の槍使いが足を止める。


 目の前に広がっていたのは――


 巨大な湖だった。


 灰色の世界の中で、そこだけが鮮やかな青を湛えている。


 空を映し。


 山を映し。


 雲さえも青く染めている。


「こんな場所が……」


 青の槍使いは湖へ近づいた。


 水面に手を入れる。


 冷たい。


 そして、深い。


 川は、この湖から流れ出していた。


「ここが源か」


 その瞬間。


 湖の奥から、低い音が響いた。


 ゴゴゴゴゴ……。


 水面が揺れる。


 狼が唸る。


 青の槍使いは槍を抜いた。


「……何かいる」


 湖の中央。


 水が大きく盛り上がる。


 巨大な影が浮かび上がった。


 魚とも。


 蛇とも。


 龍とも違う。


 青い水を身体にまとった巨大な獣だった。


 だが、その身体の一部には灰色の染みが広がっている。


「お前は……この湖の守り手か?」


 獣は答えない。


 ただ、青の槍使いを睨んでいる。


 次の瞬間。


 水柱が上がった。


「!」


 青の槍使いは横へ飛ぶ。


 地面が水に抉られる。


 槍を構える。


「敵か」


 獣が咆哮する。


 湖全体が揺れた。


 青の槍使いは走る。


 水面を蹴る。


 槍を突き出す。


 獣が尾を振る。


 ドンッ!


 槍と尾がぶつかる。


 青の槍使いの身体が吹き飛ばされた。


「ぐっ……!」


 湖岸まで転がる。


 獣が水中へ潜る。


 姿が消えた。


「……どこだ」


 静かすぎる。


 青の槍使いは耳を澄ませた。


 水音。


 わずかな水流。


「そこ!」


 槍を突き出す。


 水面から飛び出してきた獣の頭部を弾く。


 獣が再び潜る。


 青の槍使いは湖へ飛び込んだ。


 水中。


 視界は青一色。


 巨大な影が動く。


 速い。


 だが――


 水の流れが教えてくれる。


 青の槍使いは身体をひねる。


 獣の爪をかわす。


 そのまま槍を突く。


 ザンッ!


 獣の身体から灰色の霧が噴き出した。


「……やっぱり」


 灰色の染み。


 魔王の力が獣を蝕んでいる。


 獣が苦しそうに暴れる。


 湖全体に波が起きる。


「待て!」


 青の槍使いは槍を構え直した。


「お前は敵じゃない」


 獣はさらに暴れる。


「その灰色を――」


 槍が青く輝く。


「俺が取り除く!」


 槍先から青い光が広がった。


 湖の水が一斉に輝く。


 獣の身体を包んでいた灰色が、少しずつ薄くなっていく。


 だが――


 青の槍使いの身体から力が抜けていく。


「……くっ」


 それでも槍を離さない。


「まだだ……!」


 さらに力を込める。


 灰色が消えていく。


 獣の身体が、本来の青い色を取り戻していく。


 最後に――


 巨大な灰色の塊が獣から剥がれ落ちた。


 それは湖底へ沈み、消えた。


 獣の目から、敵意が消える。


 青の槍使いは水面へ浮かび上がった。


 激しく息をする。


 獣がゆっくりと近づいてくる。


 巨大な頭を、青の槍使いの前へ下げた。


「……ありがとう、か?」


 獣は答えない。


 ただ、青の槍使いの槍へ鼻先を寄せた。


 槍の青い光が、さらに強くなる。


 湖の水が波打つ。


 そして――


 湖から一本の青い水流が空へ昇った。


 その水流は、川へ戻っていく。


 下流へ。


 村へ。


 さらにその先へ。


 青の槍使いは、その光景を見つめた。


「……これで、川は大丈夫だ」


 岸辺へ戻る。


 狼が待っていた。


「お前も、ありがとうな」


 狼が小さく鳴く。


 青の槍使いは笑った。


 しかし。


 空を見上げた瞬間、その表情が変わった。


 湖の向こう。


 山のさらに奥。


 黒い雲が立ち込めている。


 その中心に――


 黒い城の影があった。


「……あれが」


 黒の魔王の居城。


 ここからでも分かる。


 異様なほど巨大だった。


 青の槍使いは槍を握る。


「近い」


 だが、そのとき。


 空から灰色の羽根が一枚、湖へ落ちてきた。


 青の槍使いは拾い上げる。


「……アエロー」


 先ほどの戦いで感じた気配。


 間違いない。


 あの魔獣は、まだ近くにいる。


 青の槍使いは空を睨んだ。


「次に来たら――」


 槍を構える。


「逃がさない」


 その言葉を聞いたかのように。


 遠い空で――


 一羽の巨大な影が、灰色の雲の中を飛んでいた。


 アエロー。


 その視線は、青の湖へ向けられている。


 そして、その顔には笑みが浮かんでいた。


「青……」


 翼を広げる。


「次は、もっと美味しくいただくわ」


 灰色の空に、翼の音だけが響いた。

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