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BLACK EATER ―色を喰らう魔王と、四色の英雄―  作者: まーサンタ
第二部 緑の旅

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第十六話 緑の灯火



 谷を越えてから、四日。


 緑の弓使いは、灰色の森を進んでいた。


 木々は枯れている。


 葉はない。


 鳥の声もない。


 それでも、肩の小さな鳥だけは元気に飛び回っていた。


「お前は、本当に元気だな」


 鳥が鳴く。


 緑の弓使いは少し笑った。


 そのとき。


 鳥が突然、前方へ飛んでいった。


「待て」


 緑の弓使いも追いかける。


 森の奥へ進むにつれて、空気が変わっていく。


 灰色の霧が薄い。


 そして――


 微かな緑の光が見えた。


「……灯り?」


 近づく。


 そこには、小さな村があった。


 村そのものは灰色だった。


 家も。


 道も。


 柵も。


 だが、村の中央だけが違っていた。


 大きな石の器。


 その中で、小さな緑色の炎が燃えている。


「火……?」


 緑の弓使いが近づく。


 炎は普通の火ではなかった。


 燃えているのに熱くない。


 風が吹いても消えない。


 ただ、淡い緑色の光を放っている。


「それに触れてはいけない」


 背後から声がした。


 振り返る。


 一人の老人が立っている。


「それは、この村の最後の緑だ」


「最後の?」


「そうだ」


 老人は緑の炎を見る。


「昔、この村には大きな森があった」


 静かに語る。


「木々も草も、すべて緑だった」


「だが、魔王が現れて――」


「全部、喰われた」


 緑の弓使いは炎を見る。


「この炎だけが残った」


「どうやって?」


「分からない」


 老人は首を振る。


「ただ、昔から村に伝わっていた」


 緑の弓使いは炎の前に座った。


「これを守っているのか」


「ああ」


 老人は頷く。


「村人は毎晩、交代で見張っている」


「魔王軍が狙っている?」


「もう来た」


 老人の表情が曇る。


「三日前に」


「どうなった?」


「追い返した」


「誰が?」


 老人は村の外を指差した。


 そこには、折れた槍や灰色の鎧が転がっている。


「村人全員で戦った」


 緑の弓使いは黙った。


「この炎は、ただの色じゃない」


 老人が続ける。


「これを失えば、村の人々は心まで灰色になってしまう気がするんだ」


「……心まで」


「ああ」


 その言葉を聞いた瞬間。


 遠くから音が聞こえた。


 ドン。


 ドン。


 ドン。


 緑の弓使いが立ち上がる。


「来たな」


 村人たちが慌てて集まってくる。


 灰色の兵士。


 その数は多い。


 村を完全に囲んでいた。


 そして、その後ろに――


 巨大な影。


 アミムトだった。


「また会ったな」


 巨大な獣が笑う。


「緑の弓使い」


 緑の弓使いは弓を構える。


「今度は、この村か」


「そうだ」


 アミムトは緑の炎を見る。


「あれを喰えば、どれだけの力が手に入るか」


「渡さない」


「お前に何ができる?」


 アミムトが前足を振る。


 灰色の衝撃波が飛ぶ。


 緑の弓使いは矢を放つ。


 緑の光が衝撃波を貫く。


 ドンッ!


 爆風が起きる。


 村人たちが悲鳴を上げる。


「村の中へ!」


 緑の弓使いが叫ぶ。


「ここは俺が止める!」


 兵士たちが一斉に襲いかかってくる。


 矢を放つ。


 一本。


 二本。


 三本。


 兵士たちの武器を弾き飛ばす。


 だが、数が多すぎる。


 左右から次々と迫ってくる。


「くっ……!」


 緑の弓使いは後退する。


 そのとき。


 緑の炎が大きく揺れた。


「……?」


 炎から、一本の緑色の光が伸びる。


 それが弓へ触れた。


 弓全体が緑色に輝く。


 緑の弓使いは驚いた。


「この炎が……」


 老人が叫ぶ。


「その炎は、守ろうとする者に力を与える!」


 緑の弓使いは弓を引いた。


 今までとは違う。


 一本の矢。


 その矢に、村の緑が集まってくる。


 小さな草。


 木の葉。


 そして――


 緑の炎。


「これなら……!」


 アミムトが突進する。


「喰ってやる!」


 巨大な口が迫る。


 緑の弓使いは矢を放った。


 ヒュオオオオッ!


 緑の矢は一直線に飛んだ。


 アミムトの口へ入る直前で、巨大な蔓へ変わる。


「なにっ!」


 蔓がアミムトの身体を縛る。


 一本。


 二本。


 十本。


 百本。


 地面から無数の蔓が伸び、アミムトを押さえ込む。


「ぐおおおおっ!」


 アミムトが暴れる。


 だが、緑の弓使いは弓を引き続ける。


「この村の緑は――」


 弓がさらに輝く。


「お前には喰わせない!」


 最後の一矢。


 アミムトの胸へ突き刺さる。


「ぐああああっ!」


 巨大な身体が吹き飛ぶ。


 灰色の兵士たちも一斉に逃げ始めた。


 アミムトは地面を転がりながら、森の向こうへ消えていく。


「覚えていろ!」


 声だけが響いた。


「次は必ず喰ってやる!」


 やがて静寂が戻った。


 村人たちは緑の炎の周りに集まった。


 炎は、まだ燃えている。


 老人が緑の弓使いを見る。


「助かった」


「俺だけじゃない」


 緑の弓使いは炎を見る。


「この炎と、村のみんなが守ったんだ」


 老人は頷いた。


 その夜。


 村では小さな宴が開かれた。


 灰色の世界で、久しぶりの笑い声が響く。


 緑の弓使いは炎のそばに座っていた。


 小さな鳥が肩へ戻ってくる。


「そろそろ行く」


 老人が尋ねる。


「黒の城へ?」


「ああ」


「怖くないのか?」


 緑の弓使いは少し考えた。


「怖い」


 正直に答える。


「でも――」


 緑の炎を見る。


「この炎を見ていると、怖くても進める気がする」


 翌朝。


 緑の弓使いは村を出た。


 背後では、緑の炎が朝日に輝いている。


 ほんの小さな光。


 けれど、それは確かに消えていない。


 緑の弓使いは前を向く。


 その先にあるのは、黒い山。


 そして、その頂にそびえる――


 黒の魔王の居城。


「……あと少しだ」


 そう呟いた。


 だが、緑の弓使いは知らなかった。


 黒の城へ向かう道の先に――


 自分とは異なる色をまとった、もう一人の英雄が目を覚まそうとしていることを。


 灰色の世界のどこかで。


 今度は――


 青が、静かに動き始めていた。

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