↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
BLACK EATER ―色を喰らう魔王と、四色の英雄―  作者: まーサンタ
第二部 緑の旅

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
15/19

第十五話 森を越える風



 朝。


 緑の弓使いは、平原の端にある岩陰で目を覚ました。


 肩には、いつもの小さな鳥がいる。


 鳥は目を覚ますなり、空へ飛び立った。


「……先に行くな」


 緑の弓使いが立ち上がる。


 鳥は少し先まで飛ぶと、振り返った。


「案内してくれるのか?」


 鳥が鳴く。


 緑の弓使いは弓を背負った。


「分かった」


 二人は灰色の大地を進んだ。


 やがて、遠くに山が見えてきた。


 その山の向こうには、黒の魔王の居城へ続く街道がある。


 だが――


 山の手前には、巨大な谷があった。


 谷底には、かつて川だった場所が伸びている。


 今は水もなく、灰色の石だけが残っていた。


「……橋は?」


 緑の弓使いが見渡す。


 橋は崩れている。


 向こう岸まで渡る方法がない。


 そのとき。


 鳥が急に鳴いた。


「どうした?」


 鳥が谷の上を飛ぶ。


 その先に、小さな集落があった。


 緑の弓使いは集落へ向かった。


 しかし、近づいた瞬間――


 無数の灰色の兵士が現れた。


「止まれ!」


 槍が一斉に向けられる。


 緑の弓使いは弓へ手を伸ばした。


 だが、兵士たちは攻撃してこない。


「この先へ行くな」


 先頭の兵士が言った。


「なぜ?」


「谷の向こうは魔王軍の支配地域だ」


「それだけか?」


「違う」


 兵士は空を見上げた。


「この谷には、風の魔獣がいる」


 緑の弓使いは眉をひそめた。


「アエローか?」


「違う」


 兵士は首を振る。


「もっと大きい」


 その言葉が終わった瞬間。


 ゴォォォォ――。


 遠くから風の音が聞こえてきた。


 地面の砂が舞い上がる。


 木々が激しく揺れる。


「来るぞ!」


 兵士たちが叫ぶ。


 緑の弓使いは空を見上げた。


 灰色の雲が渦を巻いている。


 その中心に――


 巨大な影。


「……何だ、あれは」


 影が近づく。


 翼ではない。


 風そのものが生き物の形をしている。


 灰色の巨大な獣。


 風をまとい、山ほどの身体を持つ魔獣だった。


 その姿が現れた瞬間、集落の人々が逃げ始める。


「逃げろ!」


 緑の弓使いも弓を構えた。


 だが、魔獣は集落には向かわなかった。


 谷へ向かっている。


「……狙いは橋か」


 緑の弓使いは気づいた。


 魔獣が風を起こす。


 崩れかけた橋が、さらに吹き飛ばされる。


「待て!」


 緑の弓使いが矢を放つ。


 矢は風に流され、魔獣には届かない。


「くっ……!」


 二本目。


 三本目。


 すべて弾き飛ばされる。


 風の中では、矢がまっすぐ飛ばない。


 緑の弓使いは考えた。


 風に逆らうから届かない。


 なら――


「風を使う」


 弓を引く。


 魔獣が起こす風を読む。


 風の流れ。


 強さ。


 方向。


 そのすべてを見極める。


「……今」


 矢を放つ。


 ヒュッ。


 矢は風に乗った。


 右へ流れ――


 大きく旋回し――


 魔獣の背後へ回り込む。


「そこだ!」


 矢が魔獣へ突き刺さった。


 グオオオオッ!


 魔獣が咆哮する。


 風がさらに強くなる。


 緑の弓使いは吹き飛ばされ、地面を転がった。


「ぐっ……!」


 弓が手から離れる。


 魔獣がこちらへ向かってくる。


 そのとき。


 小さな鳥が飛び立った。


「お前……!」


 鳥は魔獣の頭上を旋回する。


 その小さな翼から、緑の光がこぼれた。


 風の流れが変わる。


「……そうか」


 緑の弓使いは立ち上がった。


「風には、必ず流れがある」


 弓を拾う。


「なら、その流れを借りればいい」


 目を閉じる。


 風を感じる。


 灰色の風。


 山から谷へ。


 谷から平原へ。


 そして――


 一瞬だけ、風が止まる場所。


「そこだ」


 緑の弓使いは矢をつがえた。


 緑の光が集まる。


 魔獣が突進する。


「行け!」


 矢が飛ぶ。


 風に乗る。


 右へ。


 左へ。


 上へ。


 そして、魔獣の風の中心へ。


 ズドン!


 緑の光が弾けた。


 魔獣の身体を包んでいた風が消えていく。


 巨大な身体が崩れ落ちる。


 灰色の霧となって、谷の向こうへ流れていった。


 静寂。


 緑の弓使いは、その場に座り込んだ。


 兵士たちは呆然としている。


「倒した……」


 誰かが呟いた。


 緑の弓使いは谷を見る。


 橋は壊れたままだ。


「……これでは渡れないな」


 そのとき。


 集落の人々が動き始めた。


 木材を運ぶ者。


 縄を持ってくる者。


 橋の残骸を集める者。


「何をしている?」


 緑の弓使いが尋ねる。


 老人が答えた。


「橋を直すんだ」


「魔王軍がまた来るかもしれない」


「それでもだ」


 老人は笑った。


「橋がなければ、向こう側へ行けない者がいる」


 緑の弓使いは黙った。


 しばらくして。


 橋の修復が始まった。


 緑の弓使いも手伝った。


 木材を運び、縄を結ぶ。


 夕方には、粗末ながらも人が渡れる橋が完成した。


 老人が言う。


「これで、お前も向こうへ行ける」


 緑の弓使いは頷いた。


「ありがとう」


 橋を渡る。


 途中で振り返る。


 集落の人々が手を振っている。


 肩の鳥も鳴いた。


 緑の弓使いは笑った。


「行こう」


 谷の向こうへ進む。


 そこには、灰色の森が広がっていた。


 だが、その森の奥。


 一本だけ、緑の木が見える。


 緑の弓使いは目を細めた。


「あの木……」


 なぜか、胸の奥がざわめく。


 ただの木ではない。


 そう感じた。


 そして、その木のさらに向こう。


 黒い山の頂に――


 黒の城が、かすかに見えていた。


 緑の弓使いは弓を握る。


 旅は、少しずつ終着点へ近づいている。


 けれど。


 黒の魔王のもとへ辿り着くには、まだ越えなければならない場所がある。


 そして、その先には――


 まだ見ぬ色が待っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。