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BLACK EATER ―色を喰らう魔王と、四色の英雄―  作者: まーサンタ
第一部 白の旅

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第十話 白の旅立ち



 黒の魔王の居城へ続く街道。


 その入り口に、白の剣士は立っていた。


 目の前には、灰色の兵士たち。


 数は多い。


 街道を埋め尽くすほどの軍勢が、無言でこちらを見ている。


 その先に、黒い城がある。


 巨大な塔。


 黒い壁。


 空へ伸びる無数の尖塔。


 まるで城そのものが、世界の色を吸い込んでいるようだった。


 白の剣士は剣を抜いた。


「ここを通る」


 返事はない。


 灰色の兵士たちが、一斉に走り出した。


 地面が震える。


 白の剣士も駆けた。


 最初の兵士を斬る。


 横から槍。


 剣で弾く。


 背後から別の兵士。


 身を翻し、柄を叩き込む。


 一人。


 二人。


 三人。


 次々と倒していく。


 だが、敵の数はあまりにも多い。


「……多すぎる」


 息が乱れる。


 それでも、足を止めない。


 灰色の兵士たちは、ただ白の剣士を倒そうとしているわけではなかった。


 左右から挟み込む。


 逃げ道を塞ぐ。


 まるで、どこかへ追い込もうとしている。


「……誘導している?」


 白の剣士が気づいた瞬間。


 巨大な門が開いた。


 その向こうから、さらに兵士が現れる。


「そういうことか」


 白の剣士は笑った。


「城へ誘い込むつもりだな」


 だが、白の剣士は門へ向かわなかった。


 道の脇へ飛び出す。


 灰色の兵士たちが追ってくる。


 白の剣士は街道を外れ、崖沿いの細い道を駆けた。


「城へ行くのは、まだ早い」


 今の自分では、黒の魔王には届かない。


 それは分かっていた。


 ワーグとの戦い。


 灰色の兵士との戦い。


 そのたびに、自分の白が削られている。


 身体を見る。


 灰色はまだ残っている。


 眠れば薄くなる。


 だが、完全には消えなくなってきた。


「このままでは……」


 白の剣士は立ち止まった。


 崖の向こうには、黒の城が見える。


 近い。


 それでも、まだ遠い。


 そのとき。


 城の最上階に、黒い光が灯った。


 白の剣士は目を細める。


 黒い光の中に、一瞬だけ巨大な人影が見えた。


 ――黒の魔王。


 声が響いた。


「白の剣士」


 大地そのものが震えるような声だった。


「お前の旅は、ここで終わりだ」


 白の剣士は剣を構える。


「まだ始まったばかりだ」


「愚かな」


 黒の魔王が笑う。


「お前一人で、何ができる?」


「一人だから何もできないとは限らない」


 白の剣士は黒い城を睨む。


「俺は、この世界の色を取り戻す」


「ならば来い」


 黒の魔王の声が消える。


「すべての色を失う前にな」


 黒い光が消えた。


 白の剣士は剣を下ろした。


 すぐに城へ向かうことはできない。


 まだ力が足りない。


 だからこそ、旅を続ける。


 白の剣士は街道を離れた。


 山を越え、黒の城から離れていく。


 その途中。


 小さな村を見つけた。


 そこには、かつて旅の途中で出会った人々がいた。


 あの村から逃げてきた者たちだった。


 白の剣士に気づくと、村人たちが駆け寄ってくる。


「白の剣士!」


「無事だったのか!」


「あなたのおかげで、あの村を出られた」


 白の剣士は驚いた。


「……あの種は?」


 老人が笑った。


「芽が出たよ」


「緑の芽が?」


「ああ」


 老人が指差す。


 灰色の大地。


 その中央に、小さな畑があった。


 そこには――


 一面の緑。


 まだ小さい。


 まだ弱い。


 それでも、確かに緑だった。


 白の剣士は立ち尽くした。


「……」


 言葉が出なかった。


 世界のほとんどが灰色になった。


 それでも。


 色は消え切っていない。


 人々が守ろうとしている限り。


 色は残る。


 白の剣士は静かに笑った。


「そうか」


 そして、村人たちへ告げる。


「守ってくれ」


「え?」


「その色を」


 白の剣士は黒の城を見る。


「俺は、もっと色を取り戻してくる」


 村人たちは頷いた。


 白の剣士は再び歩き出した。


 黒の城へではない。


 その周囲に広がる、まだ知らない土地へ。


 黒の魔王と戦うには、もっと力が必要だった。


 もっと多くの色を知る必要がある。


 そして何より――


 この世界に残された色を、一つでも多く守らなければならない。


 白の剣士は歩く。


 灰色の大地を。


 白い剣を背負って。


 その背中を、小さな緑の畑が見送っていた。


 やがて夕暮れになる。


 灰色の空の向こう。


 ほんの一瞬だけ、雲の隙間から光が差した。


 白の剣士は空を見上げる。


 そして、まだ見ぬ道へ歩み出す。


 ――第一部。


 白の旅。


 それは、ここで一つの区切りを迎える。


 しかし世界では、まだ誰も知らない場所で。


 別の色が、静かに目を覚まそうとしていた。

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