↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/13

8 神殿の寄付金


「暫く様子を見に来るわ。この辺りで同じような症状の子は他にもいるのかしら」


「この辺りにはとくに……でもここからさらに北の方は結構ひどいみたいです」


 北に行くほど貧民街へと近づくそうだ。まともなベッドで寝ることも出来ない暮らしで、基本的に医者にかかる余裕などないのだと聞く。


 故郷の村は、ほとんどの村人の生活が平等に苦しい分、みんなで助け合って暮らしていた。


 王都は村と違ってとても豊かに見えたけれど、逆に一部の貧困が激しいことを知る。


「でも昔からひどい怪我や病気は神殿に行けば神官に診て貰えるものでしょ。それに今は聖女の私もいるんだから」


 地方の教会の場合、治癒を行えるほどの強い神聖力をもった神官が常駐していないことがあるが、王都の神殿ではありえないことだ。


 神官を頼る際はいくばくかの寄付金を包むのが慣例なのは知っているが、それだって強制ではないはずだ。


「むろん聖女には誰でも無料で診て貰える。だが一日に診て貰える人数には限りもある。診療の順番は早い者順ってわけじゃない。神殿への心づけをより多くした者から、ってのが暗黙のルールになってるんだよ。貴族連中は寄付金を惜しみなく出せるから、優先的に診て貰える」


 神殿を訪れる貴族が多いと、寄付金を出す余裕のない平民は、いつまで待っても順番が回ってこないということだ。


「数十年ぶりの聖女の誕生だからな。今、貴族の間じゃ、話題の聖女様に診て貰うのが流行りになってる。一般の神官に診て貰ったり、怪我を治さないままでいたりすると、すなわち寄付金を多めに出せない貧乏貴族、と見下される恐れがあるから、みなこぞって金を出したがる」


 聖女に診て貰うのが一種のステイタスになる、というキースの説明を聞いて頭に血が上った。


「なにそれ、人をなんだと……」


 寄付金のやり取りは神殿の受付が行い、ミラは一切関与していないため知らなかった。


 どうりでくだらない怪我ばかりだと思っていた。


「治癒力のある神官は多くないし、あぶれるヤツらが出てくるわけだ。そもそも重篤なヤツは神殿まで行くのも厳しいし、聖女様に出張して欲しいなんて、それこそ特別な寄付を積まなきゃ無理だ。結局金持ちだけしか治療しないんだって、正直近頃じゃ庶民の間であんたの評判は落ちてるぜ」


 なあ? と同意を求めるキースの視線から、リゼは申し訳なさそうに目を逸らしている。


 ――私ってもうほんとっ、バカ……! 


 改めて愕然としているミラを見て、キースが小さく息を吐く。


「あんた、やっぱりなんも知らなかったんだな。昨日今日しゃべった感じでそんな気はしてたが」


「……診療の順番について神殿と早急に相談するわ。それから出来るだけ早く、下町や貧民街への定期的な往診を開始します」


 死ぬほどの後悔なら、文字通りすでにした。


 後悔よりも前向きな計画を口にするミラにキースが頷き、「素晴らしいお考えです!」と胸の前で両手を合わせたリゼが絶賛する。


「一先ず今日はもう日も落ちてくる頃だ、屋敷まで送る。言うまでもないが、下町や貧民街を一人で訪れたりするなよ。必ず公爵家の騎士をつけろ。……授業のない時間帯なら、俺が付き添ってもいい」


 恋人のふり以外も付き合ってくれるらしい。意外と面倒見のいい男だ。



「――護衛と言えば、あんた守護精霊はいないのか?」


 リゼに見送られてアパートメントを出たところで、キースが聞いてきた。


「あ、最初の頃に神殿で大神官に習って、精霊を呼び出す儀式ならやったわよ。聖女には通常一人、守護たる精霊がつくものだって聞いて」


 この世界には、人間の目には映らないたくさんの精霊がいる。稀に精霊の方から姿を現すことがあるとは聞いていたが、少なくともミラは聖女になるまでおとぎ話の挿絵でしか見たことなかった。


 精霊は女神の眷属なので、歴代の聖女ともかかわってきたそうだ。


「その守護精霊は今どこにいるんだ?」


「どこだろ、神殿じゃない?」


 そういえば最初に挨拶して以来、全然見かけていないから存在を忘れていた。


 あの薄情な精霊は、ミラの死に際にだって姿を現さなかったのだから。


 思い出して腹を立てていると、キースが呆れた声を出す。


「なんで疑問形なんだ。普通聖女ってのは精霊を連れ歩くもんなんじゃないのか。聖女の命を受けて聖女を守るのが精霊の役目だろ」


「えっ、そういうものなの?」


「守護精霊は『名を呼びて、命ずれば、精霊の力及ぶ限り、聖女の願いを叶える』って記述が確か『リモナ宗教史第二巻』にあったような」


「知らなかった」


 ――じゃあもしかしたら兵士に追われていたあの時も、名前呼んで助けを求めていたら来てくれてたってこと!? 


 ショックを受けているミラに、キースがさらに続ける。


「そもそも神殿のまわりは加護に守られて、普段雑多な精霊は入って来れないようになっている。逆を言えば、一度聖女に呼ばれて神殿内に入った精霊は、聖女の許可なく外には出れないんじゃないのか」


 なぜ聖女本人よりもキースの方が詳しいのだ。座学をパスした弊害がここにも出ている。


 神殿に入った当初、ミラは常にテンパっていたから、もしかすると軽く説明されていたのに聞いていなかった可能性もある。


 キースの言い分通りならば、勝手に呼び出して閉じ込めたことになる。今も神殿内のどこかで放置されているはずの精霊のことを考えて、ミラは頭痛がしてきた。


読んでいただきありがとうございます!

↓☆☆☆☆☆の評価&ブックマークして貰えると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。