閑話 キースという友人
キースの友人視点で、花祭り前の話です。読まなくても本編にすすめますが、短いのでよければ!
ロイは通っている士官学校で、遅れていた課題を提出して帰ろうとしたところ、校門で同じ学年の伯爵令息と鉢合わせた。
キース・シルヴァンティス。この国の司法大臣の息子だが、母親は異国の踊り子だという話は、下級貴族のロイでも知っていた。褐色の肌と、目立つ銀髪をした、とてもきれいな顔をした青年である。
しかし今、その整った顔の左頬には出来たばかりとおぼしき青痣があった。思わず声を掛けた。
「ど、どうした?! 大丈夫か!?」
「同じクラスの奴ら三人に、なんかいきなり殴られた」
「なんだよそれ! 先生に言った方がいいんじゃないか?」
「いい、告げ口とかだりぃし」
憤り心配するロイに、キースは肩を竦める。
「つーか、負けた時に『相手が卑怯だった』とか言う奴だせえだろ」
そうだろうか、普通に考えて三対一とか、騎士道にもとるので、教師に訴えてもいいのでは?
よくわからない美学に首を傾げるロイに、「今回は不意打ち食らったが」とキースは元から低い声を、さらに低くして言った。
「――あいつら、次はボコボコにしてやる」
血のような深紅の瞳をぎらつかせ、不敵に笑う。
何コイツ、こわっ、と正直思った。
その数日後、背が小さくてからかわれやすかったロイは、上級生から持っていた教科書を中庭の木の上へ放り投げられる、という嫌がらせを受けてしまった。
木の下で一人困っていた時、通りかかったのがキースだった。
無視して通り過ぎてもよかったのに、キースはこちらに向かってくると、木の下から軽々と跳躍し、枝に引っ掛かっていた教科書を、長い腕で取ってくれた。
「あ、ありがとな」
「ん」
大したことないという風に頷く。
なんだ、無愛想だけどいい奴だな、というのが新たな印象だった。
しかしそのさらに数日後、再び絡んできたという三人を、キースがまとめて神殿送りにしたという話を聞いたから、やっぱり怖い奴ではあった。
そんな風に関わりが出来、四月に学年が変わった際に、同じクラスで前後の席になったこともあって、ロイはキースと仲良くなった。
キース自身は、あまり群れたがる方ではないし、口数も多くはないが、ロイ以外にも彼と話したがる生徒は一杯いる。キースの生まれを蔑んだり、美形すぎることをやっかんだりする奴が一部いたところで、キースはクラスの中で断トツに人気があるのだ。
いつだって当然「強くてカッコいい」奴は、士官学校に通う男子の憧れの対象だからである。
五月に入ったある日、休み時間の教室で、ロイは後ろの席で本を読んでいたキースに声を掛けた。
インドアな趣味があるようには見えないこの男だが、意外と読書が好きなのだ。いつも英雄騎士譚や歴史書を好んで読んでいる。
「なあ、みんなで花祭り行くの、キースはいつがいい? 初日でいっか?」
「あー…俺は初日ダメだ」
「ん? なんか用あんの? あ、もしかして女と行くとか」
「……」
「マジで!?」
完全に冗談のつもりで言ったのに、黙ったキースに驚愕する。「女遊びが激しい」などのデマが出回っているが、本人を知る者からするとキースは「女とか、めんどくせえ」とかいうタイプだし、興味のない人間の相手をするくらいなら、剣術の鍛錬をしていたい公言して憚らない男なのだ。
「か、彼女が出来たのか!」
「そういうんじゃねえよ」
「花祭りに女と行くのに、そういうんじゃないっ!? お前それ国中のモテない男を敵に回す発言だぞ?!」
「なんでだよ」
面倒くさそうにキースが突っ込む。
「え、因みにどんな子なの?」
この美男子と花祭りに行く子は、どんだけ可愛い子なんだろう、と想像しながら聞いてみる。
答えてくれないかと思ったが、キースは暫く黙って考えてから、ハッと吐息で笑った。
「――悪女になりたがってる、変なヤツだ」
うっわ……とロイは内心で再び驚愕する。
めちゃくちゃ機嫌いい時の顔じゃん……。
こっちがドキドキしてしまうような顔をしておいて――。
なのにコイツ、自覚ないのか……?
――まあなんにせよ。
花祭りの初日が、きれいに晴れたらいいな、とロイは友人のために祈った。
残り5話程の予定なので、最後まで読んでいただけたら嬉しいです!




