27 揃いのペンダント
「いやーやっぱレースに勝った後に飲む酒はうめえわ! 今年は過去最多! 百羽のアヒルが爆走する姿は壮観やったなー」
「最後あそこで青いリボンのヤツがコースから脱走さえしなければ! 私の勝ちだったのにっ」
渡した小遣いを倍にして帰ってきたレオと、ヤケ酒がすすんだのか大分頬を赤くしているラルフと、決めていた時間に噴水前で合流した。
「まあお二人さんも楽しかったみたいやな」
お揃いのペンダントをしているのに、目ざとく気づいたレオがニヤニヤしてくる。
キースは無表情で流したが、ミラはつい不自然に目を泳がせてしまった。
これから二人で伯爵邸に行くことになった、と告げると二人は驚いたが、キースの個人的な話があると説明すると流石についていくとは言わなかった。
「あんま遅くならんうちに帰るんやで」とレオに母親のような注意をされるも、本人たちはあの様子だともう一軒くらい飲みに行きそうだ。
伯爵邸に着いて、キースが執事に父親の居場所を尋ねると、当主はまだ執務室にいると返事があった。
執事に声を掛けてきてもらい、ミラたちはエントランスホールで待つことにした。
「こんな時間に客人を連れて帰ってくるとは、どういうつもりだキース」
二階から階段を下りてきたのは、骨ばった体つきをした四十代前半の紳士だった。シャープな輪郭、鋭く細い目、引き結ばれた薄い唇。キースとはまるで似ていない容貌だが、その見事な銀髪が、父子を証明している。
「そちらは、聖女――フィレセント公爵令嬢では?」
階段途中で立ち止まったキアンが、キースの後ろに控えるミラを薄茶の瞳で見下ろす。
「はじめまして」とミラはドレスをつまんで精一杯令嬢らしく礼をとる。
いったいどうした、とキアンは訝しげにキースへ視線を寄こす。
「父上に、話したいことが、あるんだが、今少し時間を取ってもらえるだろうか」
表情には出ないものの、キースの声が僅かに硬い。
やはりそれなりに緊張しているキースに気づいたミラは、彼の背にそっと手を添え、励ますように軽く押した。
しかしキースの背を支えるミラの手と、二人の首に下げられたお揃いのロケットペンダントを見た途端、キアンはその細い目を見開いた。
「お前たち……まさか…………一線超えたのか?」
「コッ、こエてねェよ!!」
こんな高音も出るんだ、と感心するほどひっくり返った声がキースから出た。
「んなワケっ、な、マジ、なに言って……!」
動揺がひどいキースのシャツの裾を、後ろから引っ張って小声で尋ねる。
「ねえ、一線ってなんのこと?」
「あんたもマジかっ!?」
「なによ、知らないと恥ずかしいことなの? なんの線を越えるの?」
「やめろ、俺に聞くな、いや、誰にも聞くなっ、忘れろ!」
囁き声のミラに、声を抑えつつもキースが怒鳴って返す。
「――そうか、違うのか」
静かに騒ぐ二人の前、片手で顔を覆い、安堵の息を長く吐いたキアンの体が、ふいにぐらりと大きく傾く。
「父上!?」
流石の反射神経で階段を駆け上ったキースが、すんでのところで転がり落ちそうになったキアンの体を抱き支えた。
「ミラっ!」
鋭く呼ばれ急いでミラも駆け寄った。
縋るようなキース眼差しに、安心させるよう頷いて応じる。
絨毯の上に横たわらせた体の、額と心臓部分に手を当てて、全身に巡るように聖女の力を使う。
その間キースが主治医を呼ぶよう執事に指示を出す。
しばらくすると、土気色だったキアンの顔に、血の気が戻ってきた。
それを見て、キースの肩から力が抜けた。
様子の安定した父親をキースは軽々抱き上げて、慎重に寝室のベッドへと運んだ。
すぐに呼ばれてきた医者が、改めてキアンの様子を診て、おそらく過労でしょう、と診断を下した。
キアンの正常な寝息をしばらく確認してから、キースとミラはそろって寝室を出た。
「――本当に助かった、礼を言う」
いつもこちらが感謝することばかりだったから、真摯に頭を下げるキースに微笑んで首を振る。
「大したことなさそうでよかったわ。でも念のため一晩私もここで様子を見ることにするわね」
公爵邸には心配しないよう使いをやれば平気だろう。
「それは……すまない、すぐにゲストルームを整えさせる。取り敢えず応接間であんたもちょっと休んでくれ」
もう大丈夫、と安易に言い切れない以上、躊躇いつつもキースはミラの提案を断らなかった。
案内するキースの背に続きながら、ミラは考える。
聖女なんてやってられない、と思うことがたくさんあったのに。
――こういう時はやっぱり、誰かを助ける力が自分にあってよかった、って思っちゃうのよね……。
そんな自分自身にミラは苦笑した。
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