24 花祭りの誘い
五月に入り、国家であるリモアナの花が盛りを迎えた。
国民はこの花を愛しており、公園や歩道脇、玄関先やベランダの植木鉢と、あちこちに植えて楽しんでいる。公爵邸でも、庭の一部がリモアナの花で青い絨毯になっており、とてもきれいだ。
「あんたの地元では、花祭りの時期はどう過ごすんだ」
下町診療の帰り道、馬車の中向かい合って座るキースが、窓の外、街路地に咲くリモアナの花に目を向けながら言った。
精霊たちは神殿でさっそくコルベル大神官の動向を探っているところなので、今日はキースと二人きりだ。
五月の最初の週の週末から、王国各地で「花祭り」が開かれる。生命の輝き眩しい新緑の季節を尊ぶとともに、建国の月を祝う祭りだ。
「やっぱり家族で過ごす人が多いわね。外に出稼ぎに出てた人たちも、その時期は帰ってくることが多いから、いつもより村に人が増えて賑やかになるのよね。お祭りってほどの規模でもないけど、外からの商隊や大道芸の人が来たりして楽しかったな。それから……お母さんが毎年おっきなケーキを焼いてくれたわ」
母子で過ごす特別な日だった。
「王都ではどういうのが一般的なの」
「まず社交界じゃ王室でパーティが開かれるだろ。ま、これに呼ばれんのはごく一部の限られた貴族だけだが」
「ああ、お父様はそれに出なきゃいけないって言ってたわ。私もよければ一緒にって誘われたけど、また緊張しそうだし断っちゃった」
ミラのエスコートが出来なくて、父は残念そうだった。
「そのパーティに、どんだけ出たくっても出れねえ貴族連中、山ほどいんだけどな」
相変わらずチキってんのな、と呆れられる。
「王宮以外でもあちこちでパーティが開かれるから、それに参加する貴族が多いな。その時期に里帰りするコーネリア様に付き添って、伯爵家も義母の実家の催しに参加することが多い。まあ俺はほとんど行かないが」
義母の親戚が集まるパーティなんて、キースには居心地悪いだけなのだろう。
「今年もコーネリア様はアレスタを連れて実家に帰るが、父は仕事があるから屋敷に残るそうだ」
司法大臣というのは多忙な職のようだ。
「貴族街で行われる、建国史を演じるオペラも花祭り名物だが、やっぱ一番活気があるのは、噴水広場を中心に行われる祭りだろ」
下町、中流階級、貴族のお忍び、他国からの旅行客、いろんな人間が一同に集まるという。
「俺も大体クラスの奴ら何人かと毎年参加してんな」
級友を神殿送りにしているイメージが強かったもので、よかった、ちゃんとまとも友達もいるんだ、とお節介にも思ったが口にはしない。
「へえ、楽しそうね」
「……行ってみたいなら、案内するが?」
「え、でもお友達と行くんじゃないの?」
「祭りは一週間続くんだから問題ないだろ」
友人とは別の日に行くという。
「んで? どうするんだ」
「えっと、いいのかしら、私、お祭りとか行ってる場合じゃないんじゃ、いやそりゃ興味はあるんだけど、でもほら、聖女の仕事もあるし」
「んーで? 行きてえの、行きたくねえの」
「…………広場のお祭りに行きたいです」
「さっさとそう言やいいんだよ」
ハンっと小馬鹿にしたように鼻を鳴らされた。
態度は悪いが……もしかしたら、父と母の過去を知って、このとこ少し落ち込んでいたミラを気にして誘ってくれた可能性もある。
確かに最近忙しかったし、たまには考えごとはすべて忘れて、純粋に楽しむ日があってもいいかもしれない。
公爵邸前でキースと別れ、自室に戻ったミラは独り呟く。
「キースとお祭りか……」
知らずミラの頬が少し緩む。
「……何着ていこうかな」




