11 四人での会合
予定を尋ねる手紙を送ってから三日後、キースが公爵邸を訪れた。
ミラに与えられた豪華な応接室、大理石の天板が張られたローテーブルを挟んで向かい合うキースへ、ミラはソファから身を乗り出して言う。
「真面目に聞いて欲しいんだけど、私ね、これから半年後には横領の罪で断罪されて殺されちゃうの」
「それは大変だな」
キースは大真面目な顔で頷いた。
「全然本気にしてないでしょ!?」
ミラの突っ込みに、浅い息を吐きつつキースは前髪を掻き上げた。
「……流石に反応に困る。説明してくれ」
応接間にはラルフとレオも同席している。
説明する前に、リゼが四人分のお茶とお茶菓子を運んできた。
弟が全快するのを待って、リゼはミラの侍女として公爵家で働いている。
リゼを雇ったのは同情からだけではない。
まともに仕事をしない者に給金は出さない、父にも伝えて屋敷を出て行って貰うと誓言して以降、メイド達は真面目に働くようになっている。
だが公爵家のメイドとはべつに、きちんとミラを敬い、裏切らないと信頼できる者が必要だったから、リゼに声を掛けたのだ。
三人の客に興味を隠せぬ様子のリゼは、去り際も扉の前で再度こちらを振り返っていた。
侍女としてはやや無作法だが、キースはもとより、文字通り「人間離れした美貌」の精霊二人連れなのだから大目に見てあげたい。
「夢を見たの、神殿の寄付金を横領してるって知りもしない罪を着せられて、捕まりそうになった時、兵士の剣に誤って刺されて、そのまま死んじゃう夢。すっごくリアルで、あれは絶対女神様からの啓示だってわかったわ」
女神の裁量で体験したことを、どこまで人に話していいのかわからない。
精霊の二人にはありのまま話してもいいのかもしれないが、一度死んで回帰したなんて突拍子のない出来事にキースがあまり混乱しないよう、ミラは「予知夢」として説明することにした。
死に際を思い起こし、脇腹を押さえて身震いしたミラの様子に、キースは真剣に取り合うことにしたらしく、ソファから居住まいを正した。
「あんたを嵌めた相手が誰か、犯人捜しがしたいわけだ。そこの派手な二人組が、精霊の力でどうにかしちゃくれないのか」
「こちとらなんでもできる魔法使いとちゃうで。基本的にラルフは水の、俺は火の力しか使えへん」
ラズベリージャムを挟んだクッキーがお気に召したらしく、二、三枚続けて頬張っていたレオが、ぺろりと行儀悪く指先を舐めて言う。
隣で音を立てずにティーカップを口に運んでいたラルフも頷く。
湖でミラが聞いた制限含めて説明すると、キースがぼそりと感想を漏らす。
「ふうん、意外と使えねえんだな」
「――今、なんて言いました?」
「そんなことないからっ、誰にも気づかれずどこにも行けるとか、充分アドバンテージだからっ。許して、この人ちょっとノンデリなの!」
笑顔が凍りついたラルフに、ミラが必死のフォローを入れる羽目になった。
「寄付金を集める受付の神官は、どうやって決められてるんだ」
「毎日の朝礼で選ばれた下級神官の、二人一組で行うことになってるわ」
まず寄付者が、その日のリストに氏名と寄付する金額を記入する。神官側で記入された金額に間違いないか確認の上、実際受け取った金を募金箱へとしまう。
「三人の目がある中でやり取りするなら、その時点での不正は難しそうだ。王宮にリストを送るのは月ごとだったか?」
「ええ、毎月末ね。つまり月末前に、いったん保管庫にしまってあるお金を、神殿の誰かが抜き取って、王宮へ送るリストも改ざんしてるってことよね?」
神殿が力を持ち過ぎないよう、寄付金はすべて王室に把握され、その年の財政に応じて一定の金額が国に徴収される仕組みになっているのだ。
「寄付金の横領ってのは、つまるところ神殿から入ってくる『国家の金』の横領と言えるから、バレれば即刻王立騎士団が動く事案になる。そんな大罪を『神殿の新参者で世間知らずそうな聖女』のせいにしたって流れか」
「私の扱いがひどい……!」
「寄付金の増減は神殿にとっては死活問題だが、公爵家の財源から見れば微々たるものだ」
公爵の身内が寄付金横領なんて、普通に考えたらありえない。
「でもまあ『平民出の頭の悪い娘』が、遊ぶ金欲しさに神殿にある金を愚かにもちょろまかした、はギリありそうな話だな」
「私の扱いがひどすぎる……!!」
「神殿内で寄付金とリストを保管している部屋に入れるのは誰だ」
「一応聖女の肩書ある私は入れるわ。私以外だと保管庫の鍵を使えるのは、大神官と副神官が二人ね。城に送るリストは神殿の書記が清書してるけれど、それを最後に間違いがないか確認して認めの印章を押すのも、大神官か副神官のどちらかよ」
「ならその三人をまず疑うべきだろ。三人で共謀してる可能性もあるが」
やはりキースを頼ってよかった。話をスムーズに整理してくれてありがたい。
「ねえ、私に罪を着せることで、お父様を失脚させようという陰謀だとは思わない?」
「神殿とグルになってる他の貴族がいるってことか? なくはないだろうが……もっと単純に、あんたに個人的怨みがある奴の仕業かもしれないぞ」
「個人的な怨み……」
ヘコみそうになるミラへ「今の時点で予想ばかりしてても、キリないってことだ」と、キースがフォローを入れる。
「俺は父の遣いで王城を出入りすることがあるから、書類関連の管理場所もわかる。これまでの寄付金のリスト内容を洗ってみれば、不正の実情がわかるんじゃないか」
それなら、レオかラルフに行ってきてもらえばいい。
「ひとまず仮定の検証だから、すべてのリストじゃなくて、バレにくいよう先々月分だけ抜き出してもらえばいい」
黙って聞いていたラルフが口を挟む。
「透明化して壁をすり抜けて中に入れても、見つけた書類を持ったまま部屋を出て、城内を自由には歩けませんよ。ドアの鍵が開けっ放しでも騒ぎになるでしょうし」
「飛べるんなら窓から出ろ。書類の管理室は四階にある。侵入を疑うより施錠忘れだと処理されるだろ」
「あーそうかも。いいねあんた、悪知恵が回るやん」
褒め言葉としては微妙だが、キースは受け流す。
「管理室から神殿の寄付金リストはどうやって見つけるんです?」
「そのくらいは自力で探してくれ」
ラルフがむうと口を閉じ、レオは「マジかー」とオレンジの髪を掻き回す。
「それからミラ、敵の正体を探ろうにも、あんたが神殿内の人間のことも、貴族連中のことも、まったく知らないんじゃしょうがないぞ」
「大神官様にはよく会うけど、他の二人は……。今度副神官の人たちが講師を務めてる、宗教学の講習にでも出てみようかしら」
「貴族連中の方はそうだな……。来週末に、バルマン侯爵主催の舞踏会がある。うちに招待状が来てたし、おそらくあんたのところにも送られてるはずだ。二人でそれに出るぞ」
「舞踏会というと……」
察して青くなるミラに、キースは無情に頷く。
「そうだ、踊れるようにしておけよ」
……マジかーと心の中で呟いた。
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