表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
朝倉詩音の怪異録  作者: ゆるっとおやじ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
14/24

二つが一つになる

月曜日の放課後、三人は図書室に集まった。

テーブルの上に、二つの巻物を並べた。

朝倉家の巻物と、水無瀬家の巻物。

並べた瞬間、何かが変わった。空気が、静かに緊張した。図書室の蛍光灯が一瞬だけ揺れた。

「感じる?」と凛が言った。

「感じる」と朝倉が言った。

俺には何も見えなかった。でも皮膚がざわついた。


「開けよう」と朝倉が言った。

朝倉家の巻物を広げた。

細かい文字が並んでいた。古い仮名交じりの文章。朝倉がゆっくりと読んだ。

「土の下に眠るものは、名を持たない。名を持たないがゆえに、縛ることができない。ゆえに封じるには——」朝倉は続きを読んだ。


「声と、水と、血が必要だ」

「血?」と俺は聞いた。

「一族の血。朝倉家の血と、水無瀬家の血を合わせて、封印の核とする」朝倉は巻物から目を上げた。「それが朝倉家の役割。血を提供すること」

次に凛が水無瀬家の巻物を広げた。

こちらも古い文字が並んでいた。凛が読み上げた。


「水無瀬家の役割は、声だ。地下のものに届く言葉を唱える。この言葉は水無瀬家の者にしか発音できない。血が、声に力を与えるから」

「つまり」俺は言った。「朝倉が血を提供して、凛が言葉を唱える。それが儀式だ」

「そう」朝倉は巻物を読み続けた。「でも——」

朝倉の手が止まった。

「どうした」と俺は聞いた。

朝倉は答えなかった。


凛が朝倉の巻物を覗き込んだ。

「何が書いてあるんですか」

朝倉はゆっくりと読み上げた。

「朝倉家の者は、血を提供した後——三日間、意識を失う。目覚めたとき、地下のものの記憶の一部を持ち帰る。その記憶は、永遠に消えない」

沈黙が落ちた。


凛が小さな声で言った。

「地下のものの記憶を、持ち帰る——」

「どういう意味だ」と俺は朝倉に聞いた。

「そのままの意味だと思う」朝倉は静かに言った。「封印の代償として、朝倉家の者は地下のものと——一部、繋がる」

「消えない記憶を持つ、というのは」

「地下のものが見てきたものが、頭に入ってくる。何百年分の記憶が」朝倉は巻物を見た。「それが、祖母が言っていた重いことだ」


俺は朝倉を見た。

「お前がそれをやるのか」

「朝倉家の者が必要だ。私しかいない」

「三日間、意識を失うんだぞ」

「知ってる」朝倉は俺を見た。「怖いよ。でも——やらなければ、地下のものが目を覚ます。そうなったら、もっと大変なことになる」

俺は何も言えなかった。


凛が手を挙げた。

「一つ聞いていいですか」

「何?」と朝倉が言った。

「三日間、意識を失うって——どこで? 病院に運ばれたりしませんか」


朝倉は巻物を読んだ。

「儀式を行った場所に、そのまま横になる。近くにいる者が、水を与え続ける。それだけでいい、と書いてある」

「じゃあ誰かが、ずっとそばにいないといけないですね」凛は俺を見た。「桐島先輩が、いてあげればいいんじゃないですか」

朝倉が俺を見た。

俺は朝倉を見た。

「当たり前だ」と俺は言った。「どこにも行かない」

朝倉は少し目を伏せた。

「……ありがとう」


田村先生に話した。

先生は話を聞き終えてから、しばらく黙っていた。

「三日間、意識を失う」先生は繰り返した。「それは——学校側に何か説明しないといけない」

「どう説明するんですか」と凛が聞いた。

「体調不良で欠席、でいい。私が対応する」先生は三人を見た。「でも一つ条件がある」

「何ですか」


「儀式は週末にやれ。平日は困る」先生は立ち上がった。「それと——儀式の場所を決めておけ。私も立ち会う」

「先生も来てくれるんですか」と俺は言った。

「当たり前だ」先生は少し笑った。「第一シーズンから一緒にやってきた。最後まで一緒にやる」

場所は、すぐに決まった。

瀬戸神社の境内だ。


神社以前の怪異を封じるのに、神社跡を使うのは皮肉だ、と俺は思った。でも朝倉は言った。

「白哉さんたちが守ってきた場所だから。一番、力が集まる」

それは確かにそうだった。


儀式は土曜日の朝に決まった。

金曜日の放課後、三人は最後の確認をした。

巻物を並べて、手順を確かめた。

凛が唱える言葉を、何度も練習した。古い言葉で、発音が難しかった。凛は何度も繰り返して、少しずつ形にしていった。


「すごいな」と俺は言った。「初めて見る文字なのに」

「体が覚えてる感じがします」凛は不思議そうに言った。「水無瀬家の血が、引き出してくれてるのかもしれない」

朝倉は自分の手のひらを見ていた。


「どこで血を出すんだ」と俺は聞いた。

「指先でいい。少量で足りると書いてある」朝倉は手を閉じた。「怖いのは血じゃない」

「記憶か」

「地下のものが、何百年かけて見てきたものが——頭に入ってくる。それがどんなものか、分からない」朝倉は静かに言った。「耐えられるものかどうか」


俺は朝倉の隣に座った。

「目覚めたとき、俺がいる」

「三日間も、ここにいるの?」

「いる」

「学校は」

「先生が何とかすると言ってた」

朝倉は少し笑った。


「桐島くんって、頑固だね」

「お前に言われたくない」

凛が二人を見て、小さく笑った。

「仲いいなあ」

「そんなことない」と朝倉が言った。

「そうですか」凛は笑い続けた。「私には、全然そう見えないですけど」


金曜日の夜、朝倉からメッセージが来た。

明日のこと、少し怖い

俺はすぐに返した。

そうだろうな

地下のものの記憶が入ってきたら、私は変わってしまうかもしれない

変わらない

なんで言い切れるの

俺は少し考えた。


お前はお前だから。記憶が増えても、朝倉詩音はお前だ

しばらく間があった。


桐島くんは、なんでそんなに確信が持てるの

一年間、お前を見てきたから

また間があった。今度は少し長かった。

……ありがとう

明日、頑張れ

うん


それから少しして、もう一行来た。

目覚めたとき、最初に桐島くんの顔が見たい

俺はスマホを持ったまま、しばらく動けなかった。

分かった。絶対にそこにいる

送信した。


窓の外に、春の夜が広がっていた。

明日、全部が動く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ