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31話 地獄語り

 カトルエリ王国にある宝玉により、神剣が更に解放された。

 良い事だけど、この後には四天王との戦いが控えている。


 私は少し不安げな表情を浮かべて言った。

 「何か、よくないことが起る予感がします。杞憂だと良いのですが……」

 仲間たちはみんな、私の言葉を信じてくれた。


 そして……

 「フッ。ようやく会えたね。僕は邪神四天王が一人、魔人ウィレム!」

 思ったとおり、四天王のウィレムが現れた。

 四天王最弱のエイベルとは違い、ゲーム中ではステージ相応の中ボスだった。

 だけど、この世界の勇者一行は、勇者(フレッド)の戦闘力がイマイチな変わりに、仲間たちがみんなすごい。

 「呪う!」

 パメラが呪詛魔術をかけ、ウィレムの動きを鈍らせる。

 「ハアッ!」

 あらかじめ私が聖力を込めていた弓をキャロルが放ち、ウィレムの左目に命中する。

 そして、ジェイクとギルが前線に出ると同時に、私は加護聖術で二人の体力を一時的に底上げする。

 フレッドは結界聖術の中で待機。神剣が完全覚醒するまで前線に出すことは出来ない。

 勇者は最後の戦い(ラスボスせん)で活躍すればいい。


 ウィリアム撃破後、私たちは勝利に沸き立った。フレッドを除いて。

 フレッドは無表情だけど、負のオーラを放っている。

 ……何だか不味いかな?



 野営の準備が終わった後、私はフレッドに声をかけた。

 「二人で話しをしたいのですが、良いでしょうか?」

 まだ室内で二人きりになる気はないけれど、野外なら『変なこと』にはならないだろう。

 フレッドが頷いたため、仲間たちに声をかけて、会話が聞かれない程度に離れた場所へ移動した。


 「フレッドさんが、何か悩んでいるように思えました。私が力になれることはありますか?」

 私はフレッドに、心から心配しているような表情で伝える。

 フレッドは少しの間、黙っていたけれど、重い口をようやく開いた。

 「……前に、ソフィーは『重罪人は地獄に落ちる』って言ってただろ?」

 「はい」

 「人殺しは重罪だって、村の神官が言ってた。それなら、魔人を殺すのは罪じゃないのか?」

 何言ってるの?

 ……ああ、もしかして、フレッドは勘違いをしているのかもしれない。

 「魔人は人間ではありません」

 私は真剣な表情で話す。

 「魔人の姿は人間とよく似ていますが、まったく違う存在です」

 「でも……」

 フレッドが言葉に詰まったようだから、私は話しの続きをする。

 「伝説の勇者様も、神よりそのことを教わったと伝えられています。邪神の配下である魔人たちを殺めた者に、殺人の罪は無いのだと」

 「……ソフィーはどうして平気なの?」

 平気って、何のこと?

 「山賊たちのことは、あんなに辛そうだったのに」

 ほんの少しだけ考え、『優しい私』ならこう言うであろうことを口に出す。

 「フレッドさんは優しいのですね」

 私は悲しげに微笑む。

 「魔人に慈悲をかけるのも、尊いことだと私は思います。ですが、彼らは邪神の(しもべ)。彼らに救いはないのです」

 「魔人も地獄に落ちるから?」

 地獄という言葉を聞いて、少しだけ不快になる。

 「それは、わかりません。神のお言葉には、魔人の死後について触れられていませんから」

 「……ソフィーは地獄が嫌いなの?」

 「はい。大嫌いです」

 何だか話しがそれたな。フレッドを励ますつもりだったのに。

 だけどフレッドはこのまま話しを続けたいらしい。

 「地獄ってどんな場所? 『怖い場所』ってことくらいしか知らないけど」

 「ゴミ捨て場です」

 今まで口から出したことの無い、冷たい声色になってしまった。

 フレッドだけではなく私自身も驚いていると、背後から声が聞こえた。

 「地獄とは『牢獄』だと、神官は言うのではなかったか?」

 「ギル?」

 フレッドの言葉通り、後ろにいたのはギルだった。

 「すまない。立ち聞きしてしまった。君たちが中々戻ってこないから、迎えに来たつもりだったんだが……」

 「心配をかけてしまい、申し訳有りません」

 「いや、かまわない。ところで、地獄についてオレも興味を引かれたのだが、聞いてもいいか?」

 「先ほど、ギルさんがおっしゃった通り、地獄は『魂の牢獄』という解釈が正統です」

 「君の考えを聞きたいんだ」

 そっか。それなら、ドロドロした感情が漏れない程度に話してみよう。


 「私は地獄について、『神が不要だと判断した魂を捨てる場所』だと考えています」


 「地上の牢獄であれば、罪を償えば解放されますが、地獄ではそのようなことはありません」


 ちなみに、この世界での牢獄は軽犯罪者が入る場所で、重罪人は呪詛魔術を受けた上で強制労働だ。

 死刑制度はない。どんな理由であれ、殺人者は地獄行きになるから。


 「既に死者である以上、死によって解放されることもなく、地獄から逃れることは出来ません」


 「そんな場所を、私は牢獄だとは思えません。神が不要だと判断した魂を捨てる場所です」


 そこまで話して一息つく。もう少し話したい。不満を吐き出したい。

 後、もう少しだけ……

 「地獄に関して、とある男性の話をしてもいいでしょうか?」

 「オレは構わない」

 「僕も」

 「では……」


 「古い時代に生きていた男性の話です」


 「彼は幼い頃、刃物を持った悪者に殺されかけました。けれど彼の母が身を挺して庇い、彼は助かりました」


 「彼の母も刃物を手に取り、悪者と刺し違えたのです」


 「母の死を、幼い彼は深く嘆きました。けれど希望もあったのです。母は神のもとへ渡り、天より己を見守ってくれるのだと」


 「それは間違った考えだと、彼は神官から教わります」


 「どのような理由であれ、殺人は重罪です。たとえ我が子を守る為でも、彼の母は地獄へ落ちたと神官は告げたのです」


 そこで私が言葉を切ると、ギルが口を開く。

 「それは、地獄への道を開いたというダニエルの話しか?」

 「はい、そうです」

 ギルもこの話しを知っていたのか。

 私は制限書で読んだけど、歴史的にはマイナーらしいから意外だな。

 そういえば、ダニエルはデルフデア王国の貴族だったし、あの国では案外知られているのかも。それとも、ギルが王族だから特別に教わっていたとか?

 まぁ、その辺りの事情はどうでもいいか。

 「地獄への道って開けるのか!?」

 フレッドが驚いている。

 「ダニエルは開きました。彼は聖術を極め、地獄への道を開く術を編み出したのです」

 その術は制限書にも載っていた。

 私が使うことはないはずなのに、何故か覚えてしまった。

 「彼は自ら地獄へ赴き、母を救おうとしたのです。ですが……彼は地獄に足を踏み入れることが出来ませんでした」

 「生きてる人間じゃ入れないから?」

 「いや、違う」

 ギルが言った。

 「地獄から漂う気配があまりにおぞましく、進むことが出来なかったんだ」

 そこで沈黙が降り、私たちは野営の地へと戻ることになった。


 もうこれ以上、地獄の話しをするべきではない。




 どうして私は地獄に対して拘ってしまうのだろう?

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