30話 罪深き者たち
私たちはカトルエリ王国の山道を歩いている。
ギルが加わったことで、魔物との戦闘は更に楽なものとなった。
その分、フレッドが活躍することはますます無くなったけれど、もうそのことはいいかなと思っている。
じっくりと修行すれば、フレッドの剣技はきっと上達するけれど、『邪神が復活する前に神剣を覚醒させる』という方針で行動している以上、その時間はない。
邪神を倒せるのは神剣を持つフレッドだけだから、このままフレッドを手厚く護り続け、邪神戦まで持ち込めばいい。
そんなことを考えていたら、前方の繁みがガサゴソと揺れて、一人の男性が現れた。
何というか、山賊っぽい印象がある。
その男性は私たちに向かって正座をし、両手と頭を地面に付ける。
……これって土下座だ。初めて見た。
「神官様!」
多分、私のことだろうな。
神官服と見習い服の違いを知らない人は、意外と多いのかもしれない。
「どうか助けてください!」
「何があったのですか?」
神官ではないという説明は後回しにして、切羽詰った様子の男性に質問する。
「仲間たちが魔物に襲われて、怪我人がたくさんいるんです!」
「怪我人たちが近くにいるの?」
パメラの言葉を男性は否定する。
「俺たちのアジトにいます! 俺たちは山賊なんです!」
山賊っぽいと思っていたら本物だった。
「もう悪いことは二度としません! 改心します! だからどうか助けてください!」
「……怪我を負った人々のもとへ案内してください」
これくらいの寄り道をする時間ならある。
相手が山賊ということで、イヤな予感がするけど、ロールプレイ的には一応助けに行こう。
案内される途中、私は自分の名と、見習い神官であることを告げた。
そうしたら「ソフィー様」と呼ばれてしまった。
普段なら『様付けされるような身分ではない』と断るけれど、今は少し気分が悪いからそうしないでおく。
これから更に気分が悪化する可能性があるから、少しでも気力を削ぎたくない。
アジトだという洞窟の中は、怪我人だらけだった。
軽傷者もいれば重傷者もいる。
「みんな! 見習い神官のソフィー様が助けてくれるぞ!」
助けてあげるよ。『今だけ』ならば。
私は怪我人全てを視界に納め、治癒聖術をかけた。
今の私が持つ治癒聖術の腕前と、聖力最大量ならば、これくらい大雑把でもどうにかなる。
改めて診断聖術を行い、まだ治癒が不完全な者には追加で治癒をかけた。
そして本番はここから。
私は『対象が地獄に落ちるか見極める術』を使う。
……全員、地獄行き。
山賊だから、きっとそうなる者はいるだろうと思っていたけど全員か。
だから禁断聖術で、この場にいる盗賊全てを強制的に改心させる。
それは、もう二度と罪を犯さないよう、善良な人間へと変えるための洗脳。
私が助けた悪党どもが、再犯すると不味いから。
「ありがとうございます!」
盗賊たちが土下座しながら礼を言う。
心底、私に感謝しているのが伝わってくるけれど、私の気分は欠片ほども良くならない。
「このまま山を降り、兵士のもとへ自ら罪人として名乗り出てください」
「はい、ソフィー様!」
「そして、地上で科せられる罰を受け入れてください」
「わかりました! ありがとうございます、ソフィー様!」
「俺たち、ソフィー様へ報いるためにも、罪を償います!」
私に報いなくて良いよ。
いくら罪を償っても、今後どれだけ善行を重ねても、この連中の末路は決まっている。
その後、山賊たちと山を降り、街の常駐兵士のもとへ出頭するのを見届けた。
「あのね、ソフィー。山賊を助けたこと、後悔している?」
キャロルにそう聞かれた。
「いつものソフィーなら、誰かを助けたあとは嬉しそうなのに。今は全然違う」
「さすがに相手が山賊じゃ、助けたくなかったか?」
ジェイクの言葉は、正解に近いけど外れ。
正しくは『山賊だから』じゃなく『地獄行き確定者』だから。
……ちょっとくらい、愚痴を言ってもいいかな。
「彼らは全員、地獄に落ちます」
「えっ!?」
フレッドが驚く。
「彼らは間違いなく重罪人で、地獄に落ちて当然の者たちです」
全員が地獄落ち判定に引っかかったのは、さすがに意外だったけど。
せめて、仲間を助けてほしいと懇願してきたあいつだけでも、例外だったらよかったのに。
「けれど私は、彼らが地獄へ行くまでの時間を伸ばしました」
あのまま放っておけば、そう長くないうちに死んだはず。
「……まだ未熟者の私では、胸のつかえがおりないのです」
座学の先生は地獄を『牢獄』だと言ったけど、私は『廃棄物投棄場』だと思っている。
神が不要だと判断した魂を落とす場所。
「あの山賊たち、改心するって言ってただろ! だからソフィーのしたことは正しいよ!」
今日のフレッドは少しおしゃべりだ。
普段の私なら、喜んで会話を続けただろうけど、今の気分じゃ無理だ。
「一度、地獄へ落ちると決まった者は、その後どれだけ罪を償ったとしても、神からの許しは得られません」
地獄について考えると、どうしては私はこんなにも落ち込むのだろう?
ヒロインになる私にとって、地獄なんて関係ない場所なのに。




