29話 青髪の少年
もうじき、宝玉がある教会の街へ到着する。
その前にある街で、一時それぞれ自由行動をすることになった。
私は『気配を薄くする聖術』を使って街を歩く。
これでナンパされることはない。
この術は制限書に記されていたものだ。
著者は不明だが、マースルと知り合いだったらしい。
『雄叫びを上げながら突撃してどうする? こっそり近づけばいいじゃないか』
なお、著者はこの術を使ってマースルを驚かせようとしたが失敗している。
『あいつは勘が良すぎる』
そんなことを思い出していると、突然、肩をつかまれた。
「……っ!?」
「あっ……! 驚かせてしまってすまない」
青色の髪に水色の目をした少年が謝ってきた。
……ナンパなの?
気配を薄くしているから、そんじょそこらのナンパ野郎じゃ私に気付くことさえないはずなのに。もしかしてレベルの高いナンパ野郎?
「まるで幻の様に見えて……つい触れてしまった」
どうやらナンパ野郎ではないらしい。単に勘の良い人かな?
「一応聞くが、君は人間なのか?」
聞きようによっては、なかなか失礼な台詞だな。まぁ、私は許すけど。
「はい、私は人間です」
「そうだな……今の君はちゃんと人間に見える」
ふと、気付く。この少年に見覚えがあることを。
槍を持っていて、このカラーリングにこの服装……隠しキャラの槍使いに似ている。
「私はソフィー。見習い神官です」
「……オレはギル」
当たりだよ! 隠しキャラのギルだ!
本名はギルバード。正体はデルフデア王国の王子。
「それじゃあ」
そう言うと、ギルはあっという間に立ち去ってしまった。
……惜しかったな。ギルを仲間にするチャンスだったかもしれないのに。
だけど婚約者持ちの私が、人には言えない事情で他の男性を追いかけたら、変な誤解をされるかもしれない。
『あの人を仲間にすれば便利だと、前世の記憶で知っています』と言うわけにはいかない。
もともと、この世界でギルを仲間にするのは諦めるつもりだったし。
残念だけど放っておこう。
センクレト王国の宝玉により、神剣はまた一段解放された。
今度はカトルエリ王国へ行くために、街道を歩いているのだけれど、ゲーム通りならそろそろアレが出る。
四天王最弱の魔人が。
そのことを考えていたら、突然背後から羽交い絞めにされた。
何!? 変態!?
「クククククッ! 隙だらけだぞ!」
私はどうにか顔を上げて確認する。こいつは……
「俺様は邪神四天王が一人、魔人エイベル!」
四天王最弱のエイベル!
こいつ、何で私を羽交い絞めにしてるの!?
ゲームでは真正面から現れたのに!
嫌がらせなの!?
私の美しさにやられたの!?
それなら大人しく羨望の眼差しを向けるだけにしてよ! 気持ち悪い!
「ソフィー!」
私が人質状態になっているせいか、仲間たちは手を出せないようだ。
……私は杖をちゃんと握っている。
こうなったら、まずは制限書で覚えた禁断聖術で、自分自身の両肩と二の腕の骨を粉砕する。痛みは我慢。そうすれば羽交い絞めから抜け出せるだろうから、瞬時に脱出&治癒。そして聖杖術でボコる!
それを実行しようとした時、背後から素早い足音と、それに続いて何だかすごい音がした。
何だろう……? まるで堅いものを貫いたような……?
「ぐわぁっ!」
エイベルが私を放す。
背後を振り向くと、ギルがエイベルにトドメを指すところだった。
エイベルが塵となって消えた後、ギルが私の顔を見る。
「大丈夫か!?」
「はい。助けていただき、ありがとうございます」
覚悟を決めていたとはいえ、骨を粉砕するのはやっぱり痛いだろうし、それを避けることが出来て良かった。
「あなた、だれ?」
キャロルがギルに質問する。
「オレはギル。邪神を討つため、旅をしている者だ」
その言葉に、私も含めてみんな驚いている。
ゲームでは旅の目的について、もったいぶってなかなか話さなかったのに、今ここで言うなんて意外だ。
「君たちが勇者一行であることは知っている。どうかオレも仲間に入れてほしい。頼む!」
ますます驚いた。
ゲームのギルはフレッドをライバル視していたし、仲間にするにはわりと面倒なサブイベントをこなさなければならなかったのに。
「良いんじゃないか」
ジェイクが言った。
「ギルはソフィーを助けてくれたし、実力はかなりのものだ」
「そうだね! ギル、すごく強かった!」
「私も賛成よ。強い仲間がいると頼もしいわ」
フレッドは何も言わない。無口モードだ。
「私も、ギルさんがいてくだされば、より心強いと思います。フレッドさんはどうですか?」
「……僕も、一緒に来てほしいと思う」
旅の仲間にギルが加わった。ラッキー!
【アナザーストーリー】
ギルはソフィーに一目惚れした。
まるで幻のように、儚くも美しい姿を見て、思わず手を伸ばした。
彼女が幻ではなく人間だと分かってなお、心は魅了されたまま。
その際は立ち去ったけれど、未練を断ち切れなかった。
邪神の手がかりを探すため、勇者の足取りを追ううちに、彼女が勇者一行の一員であり、勇者の婚約者であることを知った。
それでもなお、側にいたいと思う程、心を囚われてしまった。




