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28話 夢

 エキナセアから旅立つ前。

 私はアルヴィンに頼み込み、教会所蔵の役立つ道具をいくつか持ち出させてもらった。

 その上なんと、軍資金まで与えられた。

 ゲームでのアルヴィンはこんなに太っ腹じゃなかった。

 これは私がアルヴィンの好感度を上げていたおかげだろう。



 この世界は聖区を中心に五つの王国がある。

 アンゼルク王国から時計周りにセンクレト王国→カトルエリ王国→トロワルタ王国→デルフデア王国と巡ってアンゼルク王国に戻ることが出来る。

 聖区は特別な土地だから、余程の理由が無い限り、他の国へ行くための通り道として使うことは出来ない。


 私たちは宝玉を求め、センクレト王国に旅立った。



 とある村に到着し、宿へ向かう途中、頭に大きなリボンをつけた女の子を見かけた。ずいぶんと落ち込んでいる様子で、私はゲーム中にあるサブイベントを思い出した。

 私は女の子の側まで行き、しゃがんで視線を合わせる。

 「どうしたのですか?」

 「……シンカンさま?」

 私が着ている見習い服を見て勘違いしたらしい。

 「私は見習い神官ですが、何かお手伝いを出来ることがあるなら、どうかおっしゃってください」

 「おかあさんをたすけて!」

 女の子が私にすがりつく。

 「おかあさん、ビョーキなの! だけどむらのシンカンさまじゃなおせないって! ヤクソウがあればどうにかなるけど、キョーカイにはもうないの! おねがい、おかあさんをたすけて! みならいのおねえちゃん……!」

 泣きながら訴える女の子に、私は安心させるような微笑を向ける。

 「わかりました。あなたのお母さんに会いに行きます」

 私は仲間たちのほうを見る。

 「みなさんは、どうか先に宿へ行ってください」

 「……大丈夫なの?」

 フレッドが聞きたいのは、私に病気を治すことが出来るのかということかな?

 不安になるのも無理はないか。

 正規の神官でも治せないのを、見習いの私に治すことが出来るのか、普通は疑うよね。

 だけど……

 「ソフィーの腕ならどうにかなるだろ!」

 「うん! ソフィーって治癒がすごく上手いんだよ!」

 「ソフィーなら大丈夫」

 他の仲間たちが信頼の声をくれる。

 ジェイクやキャロルは私が重傷者を治癒するのを見たことがあるし、パメラは私が直に治癒したことがあるからね。

 それにパメラなら、野外活動で魔物に襲われた時、私が持ちこたえたことも知っている。

 「気になるなら、お前もついて行ったらどうだ?」

 「……そうだね」

 ナイスだよ、ジェイク!

 フレッドの前で良い所を見せるチャンス!

 婚約したからといって、アピールを怠るのはよくないよね。


 私とフレッドは女の子についていった。



 病気を治すのは、怪我を治すよりも難しい。

 神官でも薬草の力に頼りながら治す者が多いという。

 確か、ここの教会の庭でも薬草が育てられているけど、運悪く足りなくなったという事情があったような。

 だからゲームでは、野生の薬草を採取しに行き、魔物と戦うことになる。

 けれど、聖術で治すことが出来るなら、わざわざ手間をかけて薬草を取りに行くことはないよね。


 今の私の腕ならば、病気を治せる自信がある。

 エキナセアの教会でも、雑用だったはずが神官並みに治癒聖術を任されるようになった程だから。



 思っていた通り、病気をきちんと治癒することが出来た。

 体力も回復させたから、すっかり健康だ。

 「ありがとうございます!」

 「ありがとう、おねえちゃん!」

 感謝されるのは、いつだって気持ちいい。

 フレッドの前だからなおさらだ。



 女の子の家から出た後、フレッドがぽつりと言った。

 「ソフィーはすごいんだね」

 そうだよ、私はすごいんだよ。だけど本音は黙っておく。

 「修行の成果が現れて、嬉しいです」

 「どうして、ソフィーは神官になろうと思ったの?」

 フレッドがこんな風に私のことを聞いてくるのは初めてだ。


 「私は、ベルガモット・シティの教会にある孤児院で育ちました」


 「優しい神官様と、同じように身寄りのない子供たちが家族です」


 「ある日、家族の一人が怪我を負ってしまいました。私ではその子を助けることができなくて、歯がゆかった」


 「神官様が聖術でその子を癒す光景を見て、私は感動しました」


 「私も、辛い思いをしている人々を救うことが出来るようになりたいと、夢を見たのです」


 今思うと、私は恵まれた環境で育ったな。

 アリアさんもジョゼフ様も、他の神官たちもみんな優しかった。

 テオや他の家族みんなも、何だかんだで良い子ばかりで、幸せだったな。


 「……ソフィーは優しいね」

 「ありがとうございます」


 私も聞いてみようかな?


 「フレッドさんは、夢をお持ちですか?」

 「えっ?」

 何だか『聞かれたくないことを聞かれた』ような反応だ。

 この話題は失敗だったかな?

 「……勇者になりたかった」

 「……!」

 「勇者みたいに、すごい人になりたかった」

 「それは、素晴らしいことですね」

 さっきの反応は、『この年で勇者になりたかったっていうのが恥かしい』という所かな?

 本当に勇者になれるとは思っていなかっただろうから。

 「邪神討伐は困難なことでしょう。ですが、フレッドさんがそれを成すために、私も力を尽くします」


 一緒にハッピーエンドを目指そう。

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