27話 希望と絶望
全員、執務室に通される。
アルヴィンに話すことはたくさんあった。
まずは届け物が済んだことを報告し、仲間たちを紹介した。
パメラのことならアルヴィンも知っているけど、他は初対面だから。
フレッドと婚約したことをさらっと話すと、アルヴィンはとても驚いていた。
私としては、そこが何より重要なポイントだけど、客観的にはもっと大事な話しがある。
フレッドが手にした謎の剣が、もしかすると神剣なのかもしれないことや、魔人アガレスのことを深刻な表情で話した。
アルヴィンが剣を手にとり、紋章を確認する。
「神剣ディアマンテ。神が勇者に与えたと伝えられている、勇者にしか扱うことのできない剣……」
アルヴィンは机の引き出しから一つの玉を取り出す。
それを剣の柄に嵌っている石に押し当てると、輝きながら消えていった。
「本物だ! これは神剣ディアマンテに間違いない! フレッドよ! 君は勇者だ!」
「今の玉は何なのですか?」
知っているけど知らない振りをする。
「神剣の覚醒を促すものとして、この教会に代々受け継がれてきた宝玉だ」
剣の柄をアルヴィンがこちらに向ける。
「見るがいい」
「紋章が少し濃くなっている……?」
ジェイクが呟いたとおり、まだハッキリしたものではないけど、先ほどより濃くなっていた。
アルヴィンが神剣をフレッドに渡し、彼の肩をがっちりと掴む。
「フレッドよ! 君は神に選ばれし勇者だ!」
「ここ最近、魔物が活性化しているのは邪神復活の兆候ではないかと、聖区から伝令が着ていた」
「もしも勇者が現れたならば、宝玉を神剣に使うよう指示されている」
「君はこれから他の四カ国へ渡り、各地の教会にある宝玉で神剣を完全に覚醒させなければならない!」
「そして、邪神を討伐するのだ!」
アルヴィンからとてつもない気迫が伝わってきて、私まで気分が高ぶる。
「ソフィー!」
アルヴィンが私を見る。
「はい!」
「君もフレッドの旅に同行するんだ! 君の聖術ならば勇者を支えることが出来る!」
「私も、フレッドさんと共に行きたいと考えておりました」
アルヴィンのほうから旅の許可をくれるなんてツイてる。
「ありがとうございます、アルヴィン様」
ヒロインになってみせる!
「ソフィー、わたしも行くわ!」
「あたしも行く!」
「もちろん、俺も着いて行くぜ!」
他のみんなも名乗りを上げる。
「みなさん……!」
とても良い展開だ。思わず感動してしまう。
それをやや多めに盛って、喜びの表情を浮かべる。
「みんなで力を合わせて頑張りましょう!」
エキナセアから旅立つ前に、見習い仲間に婚約者を紹介することにした。
「ええっ!?」
「婚約したの!?」
「おめでとう、ソフィー!」
みんなはとても驚いている。
だけど、フレッドの正体が勇者だと知ったらもっと驚くだろうな。
神剣が完全に覚醒していない今、勇者であることをみだりに知られないほうがいいとアルヴィンから言われている。
けれどいずれ、みんなも知ることになる。私の結婚相手が勇者であることを。
フレッドの旅に同行することについては、またアルヴィンからお使いを頼まれたということにしてある。
次にみんなと会う時は勇者の嫁になっているはず。
私の未来は希望に満ちている。
【アナザーストーリー】
アルヴィンの執務室にて。
周囲が盛り上がる中、フレッドは置いてけぼりにされているような気分になっていた。
フレッドが内心苦悩していることを周囲は気付かない。
『ソフィーの仲間たち』に比べて、あんなにも弱い自分が本当に勇者なのか?
本当にそうだとしたら、何故自分が選ばれたのか?
そして、ソフィーはどうして、あれ程までに希望に満ちた目を向けるのか?
彼女の視線は『あなたは邪神を倒す勇者です!』と訴えかけてくるかのようで、励まされるどころか足が竦みそうになる。
逃げ出したいのに、それが出来ない。
まるで魂を束縛されているかのようだ。
この錯覚が真実ならば、縛っているのは神なのか、ソフィーなのか……
――もしも、この世界にソフィーがいなければ。
フレッドが村から共に旅立ったのがリアだったのなら。
まだ未熟な少年少女が力を合わせて困難を乗り越える内に、フレッドの心の強さが培われていっただろう。
けれど『この世界』のフレッドはそうならなかった。
ソフィーの頼みで、婚約者として紹介されている最中、フレッドはリアを見つけた。
思わずリアのもとへ駆け寄って縋りつきたくなる。
今ならまだ間に合うのではないだろうかとフレッドは考える。
心変わりしたことを正直に告げれば、優しいソフィーは許してくれるかもしれない。
けれど、そのせいでソフィーを傷つけてしまったら。
パメラもキャロルもジェイクも、あの厳つい大神官も、そしてソフィーの婚約を祝福する大勢の見習い神官たちも、自分を批難するのではないだろうか?
そのことが恐ろしくて、フレッドは黙っていることしか出来なかった。
一方、リアは。
一目見た時から気になっていた少年が、ソフィーの婚約者であることを知り、絶望感を味わっていた。




