22話 制限書庫
目が覚めたとき、私は今どこにいるのか分からなかった。
ベッドで横になっている私の顔を、見覚えのある神官が覗き込む。
この神官は救護室担当の人だ――そうか、ここは救護室だ。
野外活動で魔物を相手に耐え切ったことを思い出す。
そして改めて思った。私すごい!
目覚めてすぐに、重々しい表情のアルヴィンがやってきた。
「無事に目覚めて良かった」
「はい。あの時、アルヴィン様も助けてくださり、ありがとうございます」
「いや……遅れてすまない」
アルヴィンの話しによると、私は丸一日眠っていたそうだ。
あの日、何だか嫌な予感がしたアルヴィンが草原に行こうとしたところ、すごい速さで走っていくパメラと、それを追いかける兵士たちを見た。
パメラに追いつき事情を聞いたら、私の危機を察知して救助しに行く所だと言い、草原到着後に先生たちと合流して助けに来たのだという。
ちなみにパメラが兵士に追いかけられたのは、草原に走っていく途中で兵士を一人弾き飛ばしたかららしい。
私たちを救うためだった為お咎めなしだと。
「他のみんなはどうなりましたか?」
「君以外の全員は完治しており、寮に戻っている。だが……君には残念な話しをしなければならない」
何……? 何かヤバい自体になってる?
「君が自分以外に浄化聖術をかけたおかげで、呪詛による悪影響は彼女たちに現れなかった。だが君は、随分と呪詛に侵されてしまった。魂にまで届いており、食い込む寸前だった」
うわぁ……思っていた以上に酷い状態だったんだな。
あれは時間経過と共に悪化していく類のものだったのだろう。
とっさにみんなの呪詛を浄化した私の判断は正しかった。
私自身も浄化することが出来ればもっと良かったんだけど。
「君の浄化は完了したが、魂の疲弊を癒すため、当分の間安静にしなければならない。最低でも一ヶ月だ。そして、今年の試練を受けさせるわけにはいかない」
ああ、そうか。来月の試験を突破すれば、私は正式な神官になれるはずだったんだ。
「三度目の試練は今まで以上に厳しいものとなる。万全の状態でない者には受けさせられない」
「……わかりました」
残念そうな表情をしたけど、別に構わない。
来年までエキナセアに留まりたかったし、むしろ都合がいいんじゃないかな。
こうして救護室での暮らしが始まった。
アルヴィンの次にやって来たのはパメラだった。
「ソフィー!」
パメラが私の手を強く握る。
「パメラさん、ありがとうございます。あなたのおかげで助かりました」
パメラと仲良くしていて本当に良かった。
同室三人娘とリア、他の後輩三人も来た。
「ごめんなさい」
リアが私に謝った。
「このことを教訓に、今後はもっと慎重に行動してくださいね」
これくらい言えばいいかな?
他にも面会に来たがる者は大勢いるらしいけど、私の安静のために面会規制が敷かれているそうだ。
私って人気者だよね、嬉しい!
あれから一ヶ月過ぎて、やっと安静状態が解除された。
久しぶりに聖術を使って診断すると、すっかり健康を取り戻している。
この時に気が付いたけど、聖力の最大量がものすごく増えていた。
あれって修行になったんだね。やったぁ!
その日の晩は、食堂で私の完治記念祝いが開かれた。
周囲からとても好かれていることを実感できて最高だった。
数日後、アルヴィンに呼び出された。
「君に制限書庫への入室を許可しよう」
制限書庫とは『閲覧する者が制限されている書物を保管した書庫』のことだ。
「とても貴重な書物が収められているのだと聞き及んでおりますが、私が入って良いのですか?」
「ああ」
アルヴィンは頷く。
「あそこに有る書物は、貴重性の高いものだけでなく、内容が過激なものもあるのだ」
過激……?
「聖典に記されていない異説や、禁断聖術について。見習いが目を通すには不適切なものもある」
「禁断聖術とは?」
「言葉通り、禁じられた聖術だ。聖術の応用により人間を害する方法や、人に道に外れた術、術者にかかる負担が重すぎるもの等を指す」
そんな術があったのか。
「君はまだ見習いだが、技術面でも精神面でも、既に神官の域に達している。君にはあそこの書物を読む権利がある」
すごく評価されてるよ!
「ありがとうございます。より一層、立派な神官となるために励みます」
その日の自由時間。さっそく制限書庫に入った。
本棚に収められた本の背表紙を見ていく。
『メアリー聖女説』
『聖典に関する所感』
『地獄についての考察』
『神が与えた五つの武具』
『禁断聖術概論』
『筋肉論』
……筋肉?
それが一番気になったから手に取る。
著者はマースル。
『正しき筋肉を得るためには、神に頼ってはいけない!』
『自らの意思と鍛錬でのみ筋肉を鍛え上げるべし!』
筋肉へのこだわりと、筋トレ方法がひたすら記されていた。
キツそうだけど危険な内容ではないし、貴重だから収められているんだろうな。
個人的には、筋肉増量より聖力増量を目指すべきだと思うけど。
しかし、マースル考案の意識確保にはずいぶん助けられたから、マースルの考えは否定しづらい。
マースルを尊敬しているけど、私はマッチョになりたくない。
……いくら尊敬する人物の教えでも、全て受け入れる必要はないし、いいか。
その後も時間を見つけては制限書を読んでいった。




