21話 少女たちの受難
ヒース暦2013年。
今日の自由時間は聖杖術の訓練を行うことにした。
練習場に行くと、リアが杖を振っている姿を見た。
……すごいな。
杖に通う聖力は強烈なものだし、杖を振る構えも洗礼されている。
思わず見入っていると、リアと視線が合った。
「リアさん、ステキです。私も見習わなければなりません」
リアからの返事はない。そういえば私、リアと会話したことないな。
まぁ、リアと仲良くしなくても、どうにかすれば主人公の村にいけような予感がするし良いか。
そういえば、初対面の時に感じた激しい警戒心はもうないけれど、大丈夫なのかな?
それからも、修行に励み、見習い仲間たちと談笑し、教会でバイトをし、料理のレパートリーを増やし、キャロルに手紙を書き、パメラと一緒に散策し……色々と充実した日々を送った。
九月。野外活動で組むことになった後輩の中にリアがいた。
他の三人――エイダ、ケイシー、ジェマが笑顔で挨拶したあと、リアも小さな声で挨拶した。
リアの声、初めて聞いたな。
私たちが野営することになったのは森の近く。
リアがそっけないこと以外は順調に進んだ。
薄暗くなってきて、そろそろ焚き火をしようと話していたとき、森のほうから音が聞こえた。
木の枝が折れる音と、足音……?
そちらを見ると、強そうな魔物がいた。
「……っ!」
やばい! あれ、絶対やばい!
ゲームをプレイしていた時のように、相手のレベルが見えるわけじゃないけれど、それでも強敵だと分かる。
あいつ絶対、私たちに害意を持ってるよ!
どうすればいい?
「……私が囮になります。結界聖術で耐え忍ぶので、みなさんは先生を呼んで来てください」
そう。これがベストな選択。
私の結界聖術ならきっと耐えられる。
ただしそれは、範囲を私だけに限定した場合。
他のみんなまではカバーするのはさすがにしんどい。
だからみんな早く逃げて。そして先生を呼んで来て。
それで大丈夫だから。
なのにどうして、リアは魔物に向かって駆け出すの!?
杖を持ってるいるけど、もしかして戦うつもり!?
その杖が届く前に、鋭い爪の生えた魔物の前足がリアを吹き飛ばした。
血を流しながら私たちの元まで飛ばされたリアは、地面に倒れピクリとも動かない。
リアに治癒をかけようとしたけれど、それは叶わなかった。
――魔物はリアを吹き飛ばした直後、前足で空中を引き裂く動作をしていた。
激しい風が吹いて身体に鋭い痛みと悪寒が走る。
どうにか立ったままでいられたけれど、元々倒れていたリア以外の六人が崩れ落ちて動かなくなった。
私と同じ様に、全員が身体を裂かれて血を流している。
――風の刃に呪詛攻撃!?
魔物がこちらに走ってくる。
私は自分以外に治癒と浄化をかけ、結界を張った。
すんでの所で間に合い、魔物を阻むことが出来たけど、状況はかなり悪い。
今は結界を張り続けるため聖力を使っているから、診察することはできない。
……もっと聖力の最大量が多ければ、並行して術を使えたのだろうけど。
だけど多分、大丈夫。
勘だけど、みんなの治癒と呪詛の浄化は上手くいったはず。
自分自身に治癒と浄化をかける余裕はなかったけど仕方ない。
みんなが気絶している中で、私が意識を保っていられるのは『意識確保』のおかげだ。
習得しておいて本当に良かった。
失血と呪詛により体力が減っていくのが分かる。
だけど今は意識を保つことと、結界を張り続けることしかできない。
とても長い時間が経った気がする。
――呪詛が魂まで達したことが分かった。
魂があるというのは知っていたし、理解しているつもりだったけど、本当に実感したのは初めてだな。
何だか状況が悪化している気がするけど、きっと生き延びることが出来る。
だって私はとても運が良いから。
「ソフィー……」
足元からリンダの声がした。良かった、目が覚めたんだね。
心配そうな声だけど、大丈夫だよ。
だって私は『綺麗で優秀でとてもステキな未来のヒロイン』なんだから。
「ごめんね……」
謝らなくていいのに。
良いことは更に続いて、背後からパメラの声がした。
「ソフィー! 今、助けるから!」
やった!
「燃えなさい!」
炎の塊が魔物にぶつかった。攻撃魔術を見るのは初めてだ。
助けに来てくれたのはパメラだけじゃなくて、アルヴィンや先生、他の神官たちに、兵士たちまでいる。
「我が拳を喰らえ!」
アルヴィンの拳が魔獣を揺るがす。まるでマースルみたいだ。
先生や神官、兵士も加わり、魔獣は打ちのめされている。
そして、魔物は撃破された。
私、やったよ。助けが来るまでちゃんと持ちこたえたよ。私すごい。
もう結界を張らなくていいから、自分の治癒と浄化をしよう。
……あれ? 術が発動しない。どうして?
「もう大丈夫だ。今は休みたまえ」
わかった。そうする……
【アナザーストーリー】
倒れたソフィーをアルヴィンが受け止める。
神官たちが治癒聖術をかけ、ソフィー以外の見習いたちは完治した。
「ソフィー!」
パメラが駆け寄る。
ソフィーにも治癒がかけられ、傷は塞がっていた。
けれど、パメラの魔術師としての感覚が、ソフィーはまだ無事ではないと告げている。
「ソフィー……」
リンダが泣き出した。
「私たちを守るために、自分を後回しにして……役に立てなくてごめんね」
嘆くリンダをクララが慰める。
そして、ミーナはリアをにらんだ。
「どうしてあんな事をしたの?」
静かな声だが怒気が滲んでいる。
リアが何故、あのような無謀な行動を取ったのか。
それは正義感と、ソフィーに対する謝罪の表れだった。
ソフィーと初対面の際に感じた警戒心は、今では勘違いだったのだと思うようになっていた。
それでも心に残るわだかまりが、ソフィーと向き合うことを妨げていた。
あの時、ソフィーが自ら囮になると宣言した際、こんなに良い人を置いていけないと強く思った。
聖杖術には長けているという自負がある。
ソフィーからも褒められたこの力で、優しい彼女を守りたかった。
そして、そうすることでソフィーを誤解していたことの償いをしたかった。
その結果、自体は悪化した。
この一件で、一番ダメージを受けたのはソフィーだけれど、一番不幸になったのはリアだ。




