20話 古き大神官の教え
図書館にて。私はとある本を手に取った。
古の大神官マースルの自叙伝。
マースルは神の声を聞きたいと願い、修行に明け暮れた。
その最中、ある魔物と遭遇し、瀕死の重傷を負う。
どうにか生き延びることが出来たものの、このままではいけないとマースルは決意した。
更に厳しい修行に励み、ついに因縁の魔物を撃破したのだ。
『神の声が聞きたい』が目的だったはずなのに。
『魔物を倒したぞ! やったー!』で終わる、何とも微妙な気持ちになる内容だ。
私が参考にしたいのは、マースルが重傷を負っても意識を保つために行ったことだ。
いくら聖術に長けていても、意識を保っていられなければ意味がない。
『意識と聖力さえあれば、いざという時どうにかなる!』
その考えのもと、マースルが編み出したのが『意識確保』という言葉通りの技術。
聖力は身体中に満ちていて、聖術を使わない限り変化しないものだ。
それを頭部で血液が循環しているかのようイメージし、実際に聖力を流動させる。
これを四十六時中、自然体で行えるようになれば、本来ならば意識を失うような自体になっても、意識を保つことが出来るのだという。
以前この本を読んだ時、意識を保つことだけしか出来ない事を軽視してしまった。
でも、今ならとても重要なことだと分かる。
ありがとう、マースル。
この技術、収めてみせる!
半年後。
意識せずとも頭部で聖力を循環させることが出来るようになった。
だけどまだ、これで『意識確保』が出来るのかはわからない。
いざという時、失敗したら酷いことになる。
私は聖杖術の先生に、気絶する程のダメージを与えてほしいと頼んだ。
この先生は杖だけでなく、徒手空拳にも優れていると評判だ。
マースルの意識確保を試したいことを熱心に訴えたけれど、先生の反応は良くなかった。
「君が非常に優秀なのだと分かっているが、それでも生徒に暴力を振るうというのは……」
「どうかお願いします! 立派な神官となるために必要なことなんです!」
「……君の信念はよく分かった。ただ、やはり私には荷が重い。アルヴィン様に頼もう!」
こうして私はアルヴィンから渾身の一撃を食らうことになった。
「君の熱意に応えるため、一切の手加減はしない!」
その言葉を違えることなく、アルヴィンは容赦なく私の頬に拳をぶち込んだ。
あまりの衝撃に身体が吹き飛ぶ。
顔の骨が砕けているし、皮膚もグチャグチャ。
歯も抜けていたりボロボロになっていたり。
吹き飛ばされた際、身体が壁にぶつかったから、それによる打撲もある。
診断を瞬時に行い回復する。
すごく痛かった……
「素晴らしいぞ、ソフィー! よくぞ意識確保を会得した!」
ああ、そうか。意識確保を成功させたんだ。
「マースル様の教えを理解する者は少ない。私もかつて、意識確保を会得した際、周囲の神官に勧めたが、誰一人として会得できるものはいなかった」
アルヴィンがマースルに向ける尊敬の念が伝わってくる。
もしかしてアルヴィンがごついのは、マースルに影響されて鍛えたから?
「まだ見習いである君が成し遂げるとは……! 私たちは時を越えてマスール様の弟子となった! 私たちは兄妹弟子だ!」
アルヴィンの浮かれ具合がすごい。
少し引いたけど、言うべきことは言わないと。
「アルヴィン様。ありがとうございます。私が更なる道へ進むことができたのは、マースル様とアルヴィン様のおかげです」
「ああ! 私も君の躍進が嬉しくてならない!」
二年目の野外活動。
今回は私と同室三人娘の四人だけで野営する。
準備はさくさくと進んで、四人でまったりと過ごす。
「来年は後輩たちも一緒ですね」
私がぽつりとそう言うと、三人娘の反応が返ってきた。
「どの子たちと組むんだろうね?」
「結構楽しみ」
「先輩らしいところ、見せたいよね」
うん。私も『ステキな先輩』としての姿を見せ付けたい。今から楽しみだ。
十月。二度目の試練もあっさり合格した。
三度目の試練は一気に難易度が上がるらしく、それを突破するのに数年間要する者もいる。
だけど私なら三度目の試練も一発合格するはずだよね。
「ソフィーって天才だよね!」
「ソフィーなら、来年にはもう神官になれるでしょ!」
「そうだよ! ソフィーならきっと出来る!」
三人娘も私を褒めちぎってくれている。
すごく気分が良いよ。だけど謙虚な振る舞いも大事だよね。
「まだ、どうなるかは分かりません。更に修行を積まなければ……」
「ソフィーってどこまですごくなる気なの?」
邪神討伐の一員として活躍できるようになるまでだよ。
「だけど、ソフィーがここからいなくなるのは寂しいな」
「……うん。私もそう思う」
「ねぇ、ソフィー。神官になったらどうするの?」
リアが主人公の村へ行くのに同行するから、二年後もエキナセアにいる予定だけれど、今はそれを言うわけにはいかない。
「まだはっきりと決めていません……ただ、私もみなさんと離れるのは寂しいです」
私は悲しげに微笑んだ。




