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成長した成果 第87話

 夜が明けた。


 ガントは砦に上って、敵が来るであろう方向に目を向けた。


 見晴らしのいい草原地帯であり、正直、こんなところを守るのはホントに勘弁と思える場所だ。山岳地帯ならもう少し守りようもあるだろうし、川などがあればそれを頼みにすることができる。しかし、左右前後ともに草原。若干の外郭っぽい壁が立っているが、12000人もいれば2重3重に囲むことも容易なつくりだ。


 これまでは、問題なかった。とりあえず外部と隔てられた国であったため、外敵はない。部族同士の細かいいざこざはともかく、戦争というようなものはほとんどない。


 大きくなりそうな問題に関しては、それよりも先にハンが調停を行うからだ。


 ――今回はそのハンが相手だからな。


 ガントは思う。ハン軍が示威以外で、つまり本当の軍事行動をするなんて何年ぶりだろうか、と。自分が生きている時代にはないし、おそらく爺様たちも知らんだろう。それほど珍しいことだ。


「だからこそ、そこに勝機がある。――爺さんたち、警鐘を鳴らしてくれ、お客さんだ!みんな門前に集合!」


 向こうに砂煙が上がったのを見るとガントは叫んだ。


 爺さんたちは一堂にニヤッと笑っていた。ガントは理解していなかったのだが、爺さんたちはこの若い指揮官を気に入っていた。直情的であるがバカではない。人情味が厚く、自分たちに死ぬなと言った。死んでもらっては困る、とも。


 それはガントの偽らざる心境であり、作戦の一つであったのだが、ご老人達はまず自分が先に死のうと妙なテンションの中で思っていた。


 門の前にガントは爺様たちを一列に並ばせ、自分はその前面に立った。


 この人数差でもあるし、いきなり矢を射かけるようなことはあるまい。


 そもそも、この戦いはハンにとって大義名分がなくてはならない。


 突然蹂躙したのでは、自らの正当性を踏みにじることになる。その正当性を欠くと、そのほかの部族も次は自分の部族が攻められるのではないか、という恐れにつながる。恐れは次のハンの選出時に必ず自分のところに降りかかってくる。


「爺さんたち、まずは俺が相手の機先を逸らす。黙って聞いておってくれよ」

「ふぇふぇふぇ、大丈夫かのぅ?」

「大丈夫だって。見てろよ」


 遠くに見えていた砂煙はどんどん近づいてきた。そしてその威容が明らかになる。


「12000とはこれほどの兵なのかのぅ」


 爺さんたちのつぶやきは、ガントのそのままの印象だ。ガントは知らなかったが、クイ3兄弟は鶴翼の陣をしいているため、実数もさることながら、その陣の横の広がりが2倍くらいには見える。


「我はオゴタ=ハン3将軍が一人、ジャコン=クイである」


 陣の真ん中から、一人の男が進み出た。ガントはいまいち知らなかったが、あれがクイ族3兄弟の末弟か、と爺様たちが後ろで話していた。


「オゴタ=ハンの勅命で、ハン敵、ハプーナ族を征討しにきた。」

「高名なるジャコン将軍閣下、ハプーナの地までよくぞいらっしゃいました。私はこの砦を預かるガント=シンバであります。閣下に拝謁できましたことは、我が生涯の栄誉となりましょう」


 歯の浮くようなセリフだが、こういうセリフ回しは相手の気概を削ぐ効果があると、師匠に教えてもらった。文化的な素養の高さを見せつけるためにも有効だと。


 まぁ、最も文化的な素養の高さとはどの口がいうのか、と元チンピラとしては思うが。


「なッ、いや、ご苦労である!」


 ジャコンと名乗ったクイ3兄弟の末弟将軍は見事に機先を削がれた。しかも少しうれしそうだ。


「我こそは勇猛将軍ヴェンツェ=クイである!」

「はっ、閣下があの、剣を握らせては当代一と言われるヴェンツェ将軍閣下であられましたか!」


 もちろんガントはヴェンツェも知らない。剣を握って高く掲げているところから、剣が好きなのだろうと思ったまでだ。


「我が勇名はハプーナの地にまで届いておるか!」

「はっ」


 ――ホントに褒められ待ちかよ。


 そんなもん届いているわけがない。戦争のない国の将軍なんぞただの飾りであることをみんな知っている。冒険者の活躍に経済の大半を寄って立つ国なので、冒険者のうわさはすぐに流れてきたが。


 だからこそ、意外性があり、嬉しいものなのだろう。照れた顔をして満足げだ。


「俺はダピング!クイ族の拳闘士である!」


 同じような奴がきた。マッスルポージングをしているが、あれって女性用のドレスじゃね?と思わせる服を着ていた。もし教皇ライト=サリスがいたら「筋骨隆々の男のチャイナドレス姿など見たくない」と言ったであろう。


「は、存じ上げております。抜山蓋世の勇者であると!」

「ならばよし!」


 名乗りを上げるのが夢であったのだろうか、とガントは思った。嬉しそうな顔をして下がっていく。


 3人の逸る気持ちを逸らした。


 だが、ここからが、ガントの勝負である。


「さて、クイ族の勇者である将軍閣下が、なにゆえ、我が故郷を蹂躙なさるというのでしょうか」


 ガントは声を上げた。


「この地は、見ての通り、警備にも爺様たちに出てもらわなければならぬほど、人材も少なく、細々と革細工をして暮らしているのは知っての通り。ジャコン閣下、それを知らぬほどの閣下ではないでしょう」

「も、もちろんだ!」

「ならば、なぜこの地を征討などなさるのです?」


 ガントはそう問いながら、勝ったと思った。相手がハプーナを貧しくて貧弱な部族であると認めたのだ。


「――グッ。ハプーナは我がハンを蔑ろにしておるからだ!」

「ハン様を蔑ろにした覚えはないのですけれど」

「なにを!事実、おぬしらはイル教国と手を結んでおるではないか!」

「どの部族であっても、イル教の助祭がおりましょう!ハン様のもとには枢機卿もいらっしゃるはずです。今でも司祭様はいらっしゃいますよね?」


 イル教の聖職者は軍に従軍するのが、一般的である。神聖魔法を使えるし、司祭がいることで兵の安心が図られることもある。


「司祭のデン=テウである」

「デン司祭様にお聞きしたい。我が国はイル教の教皇ライト=サリス猊下から、互恵関係を結ぶことを提案され、それを受けた。それは罪ですか」

「罪であるわけがなかろう」

「我々はハン国を蔑ろにしたといえますか」

「いや、その――ハン様にお諮りすべき事案である、と」


 デン司祭はイル教の司祭であるが、クイ族の司祭でもある。挟まれて少し苦しい顔をしている。


「何をハン様にはかるというのですか。私は教皇猊下に連れられて、イル教国でイル27世猊下や教皇猊下から薫陶を受け、教母プラローロの末弟子として修行する身。それが罪とおっしゃるのですか」


 無茶苦茶な論理であるが、司祭の顔が引きつった。


「そなたが教母プラローロ様の弟子である、と?」


 初代イル=サンであり、5賢人の1人であるプラローロの否定は、司祭の身分ではしてはならないことである。破門レベルであり、知られてはいないが、プラローロの固有スキル神罰により、確実な死が待っている。


 ざわざわと、周囲の、とくに12000人の兵隊が騒めいた。


「そうだ。デン司祭様に重ねて問う。私の行動は罪ですか」

「――罪ではない」

「ならば兄弟の契りを結んだ教皇猊下との友人としての付き合いや、我が部族の長を紹介することに何が問題がありますか」

「罪ではない。そもそも猊下と貴殿の付き合いに関して、私は認めるとか認めないということをいうことができない。猊下の御心を忖度して話すことは許されていない――」


 デン司祭は言って口をつぐんだ。


「イル教では罪にならぬ、と言われた。では、ジャコン閣下、私達は何の罪で裁かれようとしているのでしょう」

「い、イル教は関係ない。我が国を蔑ろにした罪である」

「互いに助け合いましょう、ということが、蔑ろでありましょうか!」

「そうだ!」

「ならば重ねて問いたい。我が部族は貧しい。ハンにもなれず、12000の兵に対して30人の爺様を相対させるような部族だ。なんとか食い扶持を見つけようという努力を『蔑ろ』という言葉でヤニャン様は潰すのか!」


 従軍しているのはクイ族だけではない。大小強弱様々な部族が従軍している。その各部族が耳をそばだてている。


 返答を間違えれば、部族の離反を招く。そんな空気を醸成させた。


「さらに重ねて問う。罪であるとしたら、12000の兵をもって我が地を蹂躙するといわれる、それほどまでの罪を我が部族は犯したというのか。そして、我がハンは、蔑ろにされたという前に、我らの言い分を聞くなり、指導するなりするべきであったのではないのですか!」


 そこそこ流暢に言葉がでてくる。こういった言い訳は、自分の不明の言い訳ではなく、相手の粗相を指摘すると効果的である。不作為はどこにでも転がっているからだ、というのは兄貴分の教皇ライト=サリスの弁。


 ジャコン=クイは言葉に詰まっていた。


 これ以上追い詰めると反転を招きかねない。と、ガントは助け舟を出すことにした。


 概ね勝ちは拾えた。あまりに言葉で勝ちすぎると、反発があることをガントは知っていた。


「クイの3将軍に申し上げる。我々は懲罰を受けるようなことはしていない。しかし、それでは納得いただけないようです。ならば、勝負を!」

「勝負、であると?」


 瞬間的に3将軍が顔を上げた。まさか勝負を挑んでくるとは思わなかったからだろう。


「このガント=シンバの身への攻撃でもって終わりとしてほしいのです」

「バカな!3人の誰であれ、そのようなことをすればお前は死ぬが――それでも良いと!?」

「良くはない、お1人ならば耐えきって見せる!私が耐えきった暁には兵を引いていただきたい」


 妖精王の武具をつけていることを知らないのだ、と3将軍は内心笑った。類を見ない破壊力。大幅に人の限界を超えさせる武具。万が一にも負けることはあるまい。


「あい分かった。我々が勝ったら、ハプーナの地を征討するがよろしいな?」

「はい――」


 こうして、クイ族とハプーナ族の戦いの火ぶたが切られようとしていた。

なんとかブクマ100を超えました。ありがとうございます。

嬉しい。



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