三千世界を殺してきた神の話 第84話
「ライトはこの世界の神として生きることになったということですか」
プララ妃の言葉に教皇ライト=サリスが少し悩んだそぶりを見せたが、「簡単に言うとね」と肯定した。
マンバは聞いちゃいけない話を聞かされているな、と思う。いつの間にか、このライト=サリス沼に腰までつかっている。
「今まででもお前様は神のごとき力を振るってきたが、それとは違うのかの」
「認識の違いだよ、ジャロロ。神のごとき力を振るうのと神であるという認識を持つのでは違うだろう」
「うむ――」
ジャロロは少し考え混むように黙る。
少しの間沈黙が支配する。その沈黙を破ったのは皇女エミーだった。
「私が口をはさむのは、気が引けるのですが――猊下、私とゼナの街を歩いた時になにかあったのですか?」
「うん、あったよ。サンスースとの邂逅が」
ざわ、っとそこにいる者すべてがざわついた。
創造神サンスースとの邂逅。マンバのようななり立て助祭でも知っている。サンスースとはこの世界の創造神。イル教の最高神にあたる。
「知らない者はこの機会に知っておいてくれ。サンスースは俺の妹レティだ」
とんでもないことを教皇ライト=サリスがさらりと言った。しかしながらイル=サン27世もプラローロも特段驚いた様子がない。
「創造神サンスースが妹とな――」
と言ったのは置物になっている前魔王のリャララ=リャラ。同じ元魔王でもジャロロ=ジャロは「そうであろうな、うむ、そうであろう」と頷いている。皇女エミーは血の気が失せたみたいな顔をしている。あまりのことに受け入れられないのだろうか。
「ああ。ただ、それは神理解を果たした人間なら知っている。俺が神託の御子なら、レティは神の巫女。もっともいまだに人格と神格は分離しているからな。あいつはそれに気づいていないし、今後も気づかないはずだ。これはここにいるだけの人間が知っていればいい。口外は神の禁忌に触れるので、理解してくれ」
神の禁忌についての説明が軽くされる。話せなくなること、話そうとすれば苦痛が襲うこと、さらにそれを無視すれば死まであること――マンバはもうただの村人Aには戻れないことをぼんやりと知覚した。
「で、その邂逅がライトに何をもたらしたんだい?!」
「自分の封印した記憶」
「ふうん」
教皇ライト=サリスに封印された記憶があったということは、プラローロにしてみたら大した情報ではないらしい。奥様トリオはビクッとしていたが。
「それから、俺たち双子がこの世界に誕生した意味を」
「わかったよ!」
プラローロは手を打った。何が分かったというのだろうか。そこにいた誰もが頭に?マークを浮かべていた。教皇ライト=サリスだけはそんな彼女の様子に得心が言ったように苦笑した。
「師匠は昔っから何かを気づいていますよね。今、この空間に神の禁忌は発動しませんから話してください」
「世界五分前仮説ってやつをライトに聞いた時に思ったこと。この世界は誰かの手によって作られたのではないか――そんな風に考えたさ!」
世界五分前仮説ってなに?と思ったが、そこはみんなスルーした。マンバも当然口を挟めるほどの勇気はない。
「お母様、それは前もお話しした通り創造神サンスースによって作られたと――」
「プララ!私はそんな神話の話をしているわけじゃないのさ!私が言っているのは――」
「サンスースが、我らが旦那様と自分のために作った世界ということじゃな」
ジャロロ=ジャロが口をはさんだ。少しあきれ顔、そして若干重い空気をジャロロ=ジャロからは感じた。
「ふふふ、さすが我が1番弟子だよ!」
「なるほど、私にもわかりました。わがままな世界と国母様はおっしゃられたことがあります」
イル=サン27世が静かに話す。動揺はしていないが、その表情には若干の焦燥が見られる。
「そうさ!ライトは何度も世界を転生しながらこの世界にたどり着いた。それにも意味があったのだろうさ!だけどそれは!」
世の中には知らないことが多すぎる、とマンバは思う。全く意味が分からない。転生ってなぁに?
「すべてはこの世界にたどり着くためにあったし、この世界のすべては俺とサンスースのために、サンスースが用意したものだ」
「恋人でらしたんですか?」
皇后の立場としては譲れない質問であったのかもしれない。だが、マンバからしてみたら、卑近な話題だと少し思った。
「俺たちは同位体なのさ。二人で一人、そして決して混ざらない陰と陽。それがともに歩むことを目指したら――」
「目指したらどうなったんだい!?」
「神々が怒ってね」
「神話の――」
「もっと原初の争い。そして原初にして最後の戦争が起こされた」
「へえ」
プラローロが興味深そうに頷いた。
「俺たちは敗れた。そして俺は記憶を封じられて転生の日々ってやつで」
つまり、陰と陽が交じり合おうとしたら周りの神様が怒って喧嘩を吹っかけてきたので受けたら負けた――?そんな理解でいいのかな、とマンバは思う。
「魂をすり減らして、ただの一介の魂となるまで転生を繰り返させる。多くの神々の狙いはそこだったはずだ。死ぬたびに俺の魂の評価がシステムとしてなされて転生を繰り返していく――それだけであったはずだが、俺たちは覚悟していた。世界よりも互いを選ぶことを」
これはもう神ではないのかもしれない。と教皇ライト=サリスは自嘲気味に笑った。
「神格と人格を切り離されて、何れの世界を回りながら、俺が死んだらその魂を回収するスキを狙って、俺の神格が自動的にその世界を崩壊させるようにした。サンスースが作った世界で俺が死に、世界を崩壊させる。そこでその世界の神が消滅する。永遠に匹敵する量の世界を渡り歩き、ひとつ残らず崩壊させ、1柱残らず消滅させた。そして最後に作ったこの世界が、ここなのさ」
ライト=サリスはコーヒーを飲んだ。マンバにはこの世界も見えないが、つまり、ライト=サリスはほかの神々が治める世界をすべて駆逐してきたということか。
「で、俺はこの世界の世界神として永遠にこの世界に安寧をもたらしていく。それがレティ=サンスースとともに歩むための――方策ってやつで」
「レティさんに対する愛ですか」
「まぁ、アガペーってやつだ。むしろこれは神の本質、本能に近い。人間性とか人格とかそういうレベルではないんだ」
マンバはなんとなく言っている意味が分かった。が、全くわからないことが一つあった。なので、意を決して手を挙げた。
「あ、あの、発言してもいいですか?」
「もちろんマンバ」
「なぜ僕は助祭になったのでしょう」
ここでは自分が助祭になった理由を教えてもらえるはずだったはずだ。
「ん?今の話を聞いていてわからない?」
「わかりませんよ」
「俺が破壊神ハードンだからさ」
マンバの頭が白くなる。ハードンってなんだっけ。ぱーどぅん?
「俺の使徒だろ?可愛がるのは当然。最初意識なかったんだけどな。でも無性にお前が可愛くてな。よく考えたら、そりゃぁ、俺が最初に見た俺のための使徒だから」
「破壊神、ハードン?」
マンバは繰り返した。自分が何の神の助祭であったかなんて、頭の片隅位においておくくらいで、あまり意味を持っていなかった。
そんなマンバを見て、教皇ライト=サリスは優しい微笑みを浮かべ、頷いた。
「うん、そうだね、俺、破壊神ハードン。別にこの世界を破壊するつもりはコレっぽっちもないから気にしないで。今は神格としては劣るこの世界の世界神として降神しているから」
「わけわからなすぎるのう」
リャララ=リャラがふぅぅぅぅと長い溜息を吐いて、ソファに身を沈めた。
「リャララ様、まぁ、事実だけ受け止めてもらえれば――」
「はいっ」
珍しく、皇后プララが勢いよく手を挙げた。とても真剣な目をしている。
「大事なことがあります。確認させてください、いいですか」
「もちろん」
「私達への愛はまだありますか?神様であるライトは私達をまだ愛していますか?」
3人の妻たちがライト=サリスを真剣な目で見つめている。
「ああ、勘違いしないで、めっちゃ愛してる。あのね、うーん、別問題。全く別なんだよ。そうだな。昔からプララを愛しているけれど、俺はレティを妹として愛しているだろう?それと同じで神の本質に近いところで、サンスースとともに歩む使命があると思ってくれればいいんだけれど」
「ええ、納得しました。問題ありません。たぶん、私達はみな同意見でしょう」
「はい」
「当然じゃ」
3人はそろって頷く。
「兄貴――俺たちはどうしてここにいるんだ?」
「縁だろ。この話聞いてもう抜けられないからな」
ガントの言葉に対するライト=サリスの言葉はすごく雑だった。が、ガントはとても満足した様子だった。
「ういす。抜けるつもりもありません」
「ぼ、僕も、ハードンの助祭ですから!」
「そのうち司祭にするからな」
マンバの喉の奥がヒッとなる。これはどうなのだろう、厄介な相手に目をつけられたと思っていいのだろうか。
「まぁ、私とリャララとイルは同じ意見さ。前から変わらない。そして、世界神ライト=サリスの従者としてより良い世界を構築する、その使命に燃えるさ」
国母プラローロは笑っていた。なんとなく今日話されたことを予感していたのだろう。
「師匠、ありがとうございます。次に、神意発現について――」
教皇ライト=サリスの話はまだ続いていた。
これが神様の作る世界、というやつか、とマンバは言われている言葉の意味は半分もわからなかったが、なんとなくすげえなぁ、と思った。
夏が終わってしまいますね。
涼しくなると別室のソファーが使いやすくなるので、執筆速度が上がる予定です。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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