ミチビカレシものタチ 第83話
「つまり、シュシュトリ様は教皇猊下が、なぜ僕を助祭にしたか知りたいということですか?」
「ええ、そうね」
シュシュトリの言葉遣いが平易なものになっている。子供がいたうちはマンバの立場を尊重していた。子供達がいなくなり、こうして神殿の応接室でお茶を飲んでいるプライベートの時は、彼の意思を尊重したのだ。
マンバもさすがに『助祭だから今すぐに対等な立場で』などとは言わないし、言うつもりもない。むしろ本当の貴族に――実際はシュシュトリは魔帝として爵位を得たにわか貴族なわけだが――助祭として扱われ敬われることの方が恥ずかしい。
「すみません。理由は分かりません。ただ――」
「ええ」
「僕でなくてもよかったことは事実です。そういう意味では僕は運がよかった、という感じでして」
「ふぅん……それだけ?」
シュシュトリが目を細める。マンバは、信用されてないなぁ、と思う。
「ああ、いや、そこらへんはですね、ああ、そうだ。後宮付きのカンナさんだったら、会話ができるんじゃないですか?」
「誰と?あたしは言っておくけど、ほとんど変わらない感じで、最近、教皇猊下に拾われてここにいるのよ」
「そうなんですか?道理で同じ匂いがすると思った」
「わかる!あたしら、なんか生まれが違うって感じだもんね!」
マンバはカンナも同じ境遇と聞いて少しほっとした。
「それで誰とよ」
カンナの表情が和らいで口調も砕ける。彼女もなんだかんだ言って、生まれの良い人間に囲まれて少し卑屈になっていたことも事実で、同じ境遇の人間はありがたいのだろう。
「ああ、ジャロロ様とです。僕が助祭になった時に一緒におられましたから」
「ジャロロ様か――シュシュトリ様、同じ魔族ですからどうです?」
「あー、あのね、ジャロロ様は魔国の国民にとっては信仰の対象となるレベルの方よ。私とジャリリにしても尊敬と憧れと――まぁ、そういう感じでおいそれと聞ける相手ではないわね」
シュシュトリが嘆息する。
「じゃぁ、俺に聞けばいいのに」
突然現れたのは、教皇ライト=サリスだった。
「猊下!」
カンナが立ち上がり、直立不動。マンバも釣られて立ち上がる。シュシュトリは少し驚いた顔をしたが、そのまま座っていた。
「いいよ、二人とも座りなよ」
「猊下は傅かれるのはあまり好きじゃないのよね」
「互いに立場の差を理解していればいいだけで、好きとか嫌いとかじゃない」
教皇ライト=サリスはそういいながら、マンバの隣に、そしてシュシュトリとカンナに向き合う位置に座った。
「それにしてもどこから入ってきたのよ――」
「ああ、ここの神殿にも転移魔法陣をつなげてあるから」
「あのさ、ライトくん、転移魔法陣はこんなにパカパカ設置するものじゃないと思うけれど」
教皇ライト=サリスはニヤッと笑う。
「いや、ここは必要な場所なんですよ。まぁ、それよりも、俺がなんでマンバを助祭にしたか、だよね」
マンバはその話題にとても興味があった。この立場はありがたいがきわめて不安定だ。教皇ライト=サリスの一存によってすべてが決まってしまう。理由が知れたら、安心もできるし、対策も立てられる。心構えもできる。
「そうね、報告するな、と言われればしないから教えてほしいわ」
「いいよ。報告はしちゃだめだけど、話をしようかね。マンバもそりゃ聞きたいよな」
「あ、は、はい、聞きたいです」
教皇ライト=サリスは少し考えた後、「せっかくならみんなに話をしようか」と言って立ち上がった。
ついていくと転移魔法陣の部屋に連れてかれた。
そういえばここに部屋を作ることを伝えられていた。
マンバもシュシュトリもカンナも促されるままに魔法陣に入り、転移が始まった。ついた先は豪華な部屋だった。
シュシュトリが教皇の部屋の一つであると教えてくれた。
「イクナさん、みんなを集めて――ちょっと緊急招集で」
教皇ライト=サリスは彼の専属らしいメイドに声をかけた。メイドはやや緊張した面持ちで連絡に動く。
大きめの円卓の上座にライト=サリスは腰を掛けた。若干、緊張した顔もちな気がするのは、マンバの気のせいではないだろう。
最初に入ってきたのは、皇后プララだった。国母プラローロの1人娘にして、前魔王リャララ=リャラの娘。現在ライト=サリスの子を妊娠しているという。
静かに頭を軽く下げ、マンバの存在を見つけると、何かを察したような顔でライトの右隣の椅子に腰かけた。
「シュシュ、助かります。ライトが話すきっかけを作ってくれたことを」
「へえ、プララは感じてたのね」
言ってシュシュトリもライト=サリスの対面席に着く。マンバとカンナは立ったままだ。さすがにこれから来るであろう『みんな』とやらのことを考えると座ってはいられない。
「――ライトの纏っている雰囲気がこれまでとは全く違いますから」
「俺は俺、だけどね」
「本当に?本当にあなたはライトなの?」
焦りと不安と――プララ妃の思いが見えるような気がした。教皇ライト=サリスは笑ってそれを受け止める。
「もちろん――ただし、少し付け加わった、というだけさ」
「わかりました。もとより何があろうと、私はあなたと共に歩む身です。これまでも、これからも」
「ありがと」
ライト=サリスは軽く答える。だが、安堵した様子が見て取れた。
続いて入ってきたのはイル=サン27世。マンバはイル=サン27世といえば老齢の女性であると聞いていたが、目の前のイル=サン27世は30前後の妙齢のお姉さんだ。
ライト=サリスの力で若返ったという噂を耳にしたことがある。
いや、しかし、これほどまで若いとは思えないので別人かと思ったが、ライト=サリスが「イル様もご足労をおかけしました」と言っているので本人なのだろう。
「御子の緊急招集ならば、誰とあっていても捨ておいてここに参りますよ」
イル=サン27世はそう言ってほほっと笑い、ライト=サリスの左隣を一つ開けて座る。
そのままゆっくりとマンバを見る。
「あなたがハードンの助祭になったマンバオ・グエン・クックですね」
「は、はい」
「イル教主イル=サン27世です。他の者は承知しておりますから大丈夫だとは思いますが、念のためにあなたには告げておきましょう」
イル=サン27世の目が真剣なものになる。正直それだけでマンバは縮み上がった。
「ここで語られることは、世界の最機密事項。口外は死をもたらしますよ?」
「は、はいっ。しゃ、しゃべりませんっ、ぜったい、ぜったいです」
マンバはイル=サン27世の容赦ない言葉に冷や汗をかきながら気を付けをした。
「イル様、あんまりマンバをイジメてやらないでください。それに今から俺が語ることは神の禁忌に属しますので、外で話すことはそもそもできません」
「禁忌に?」
一瞬、そこにいた人間はライト=サリスが何を言っているのかわからなかった。
「――神の禁忌事項を、ライトが皆に伝える、ということ――」
そう言って口を挟みながら入ってきたのは、国母プラローロ=セローだ。後ろからカンナの兄のガント=シンバがドキドキした顔でついてくる。
「なるほど!わかったんだよ!」
プラローロはそのままニヤッと笑ってライト=サリスとイル=サン27世の隣席に着く。ガントは席に座らずカンナの隣に立った。
「マンバオくん!キミは大変なところに来たねえ。だが、今日の会合はキミが主役みたいなもんだから、気にしないようにね!」
「い、いや、主役って――」
「そこにいるだけの大切な仕事さ!大丈夫、今日ここにきて同じような仕事をする脇役はいっぱいいるからね!」
次に入ってきたのは、大魔王ジャロロ=ジャロとアッティラ新帝国の第二皇女エミーだ。マンバはこの二人とは顔見知りである。ハードン神殿にライト=サリスとともに来た。
「お前様よ、楽しい話であろうな?」
「そうだな、たぶん、楽しい話になるだろ」
「それならばよい――」
ジャロロはくくっと笑ってエミー皇女とともに席に着く。プララ妃の隣にエミー妃、その隣が大魔王ジャロロだ。
続いて前魔王で国母プラローロの夫であるリャララ=リャラが、ジャロロの直系魔族と言われるジャリリ=ジャロと一緒に入ってくる。
「あなたたちもそこに座りなさい」
そう声をかけたのは皇后プララだった。
用意された席の数は12席。円卓をぐるりと囲んでいる。若干の気まずさを感じたが、マンバはカンナとガントとともにシュシュトリとジャリリの間の3席に座った。
「イクナさん、今からは無人としてください」
イクナはお茶を出し終えると、ライト=サリスの一言で一つ礼をして部屋から出ていく。
「うん、そうだね、大丈夫。今、この部屋の周りには誰もいない」
ライト=サリスは何かを確認するように周りを見た。いったい何を見ているのだろうとマンバは思ったが、周囲の誰もが何も気にかけていないので、マンバも気にしないことにした。
しかし、教皇ライト=サリスが声をかけてから集合完了するまでに1時間経っていない。誰もが待ち構えていたようにここに来ていた。
「ふふん、マンバよ。お主の助祭任命もそうじゃが、最近の旦那様の行動は若干常軌を逸しておってな。周囲への遠慮が0じゃ。ゆえにみなが気にかけておったのじゃ、なぜだ、とな」
ジャロロがその場の硬い雰囲気を割るようにマンバに話しかけた。この中でもっとも話しやすいのは確かにマンバであったろう。
「は、はあ」
「儂もこの聖都イルスから隣のオゴタ=ハンまで続く海底トンネルを先日掘らされた。プラローロよ。お主もなにか強引に頼まれておろう」
「ジャロロ、そうさ!別に問題はなかったけどね!あれくらいの改良はちょちょいのチョイってやつさ」
「でも」とプラローロは続けた。明るい雰囲気からの一転してなにかを探るような声だった。
「――なんでこんなに一気に文明を進める気になったんだい?」
聞きなれない単語だった。文明。文化とは違うのか、とマンバは思った。
「ふふ、師匠はお見通しですね。まぁ、そうですね。確かに俺はもう少し文明を進めたいと思ってます」
教皇ライト=サリスは笑って続けた。
「世界文明を進める理由。それは、俺がこの世界の――」
それを聞いて、マンバオ・グエン・クックはさすがに困った。
これはどう考えても、自分が聞くべき話ではないような気がしたからだ。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
台風でジムに通えず、腹筋してます。
ジムの後って全身の力がガッタガタに落ちていて、小説書く体力がずいぶん削れているのを感じます。そういう意味では、ジム通いを始めてから更新頻度が落ちていますが、意欲が落ちているわけではありません。ほら、健康診断で、血圧が170超えてたりするとゾッとするわけですよ。健康のためには仕方ありません。
頑張りますので、見捨てないでくださいぬ!




